表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

出来るまでやらせます

まにあったぁ!

 結局あれから『ちゅうとりあるバトル』が終わるまでに、俺はいくつかの新しいスキルを覚えていった。

 ……スキルってのは、長い経験と繰り返しのひたむきな修練の中から覚えるものなんだがなぁ。

 ほんの10数分の間に複数のスキルを習得したなんて話は聞いたことがねえ。

 ……ちょっとばかり後ろめたさを感じるな。

 まあともかくだ、『ちゅうとりあるバトル』で覚えたスキルを整理すると……


 斬撃攻撃の威力を1.2倍に高める『スラッシュ』

 射撃攻撃を0.7倍×2連射できる『ダブルスナイプ』

 軽い怪我を治す『手当』

 敵の状態を棒グラフなどで具体的に把握できる『表示設定』


 この四つだ。

 特に後ろの二つはすげぇ。

 治療師でもない俺が、手をかざすだけで治療魔法みたいに怪我を癒やせる『手当』も大概たいがいだが、『表示設定』は相手がどのくらい弱っているかとか、どのくらい魔力が残っているかとかが丸わかりだ。さらには状態異常にかかっていればそれぞれに対応したマークが表示され知らせてくれる。

 今まで全く聞いたことも無いスキルだった。

 ――あー……でも正確に言えば『表示設定』はスキル、とは言ってなかったな。

 なんか『システムが解放された』とか言っていたが。

 ああ、確かに『表示設定』については意識しなくても常時発動しているしな。

 スキルと言うよりそういう「体質」になったって感じがする。

 確かに『スキルうぃんどお』にも俺が元々持っていた3個のスキルと併せて6個しか無かったし『表示設定』はスキルじゃ無いんだろう。


 そう、この『スキルうぃんどお』は『アイテムうぃんどお』に続き、窓の中に現れた新たな項目で、自分が所持しているスキルの詳細を確認できる、というものだ。


 たとえば『スラッシュ』と書かれている部分を触ってみると――


『スラッシュ』

  ○○○○を○○している○が○○できる○○スキル。

  CPを5○○して○○○○の120%のダメージを○える。


 と表示される。

 残念なことに俺の知識では古代語部分を読み解くのが精一杯で、高等古代語には手が出ない。

 そのためこのような虫食い状態の理解になってしまう訳だが。

 だが、実際使ってみた感触と照らし合わせれば大方の効果は推測できる、という訳だ。


『レッスン3 迷宮ダンジョンについて』


 俺がスキルの効果について窓と照らしあわせて考察している内に、謎の声の方は次の説明に移ることにしたようだった。

 ふむ、拝聴しましょうかね。


『現在地はチュートリアルダンジョン〔化鳥の谷〕です。チュートリアル中は同ダンジョン内に限りデスペナルティが発生しません。ダンジョン探索の基本を学びましょう。』


 ……ですぺなるてぃってなんだ?

 また訳の分からん単語が出てきたな。


『ウィンドウの右上、〔MAP〕と表示されている部分をタッチしてください。』

「右上……M……A、P……これか」


 指示された部分を押すと、もう一つ半透明の窓が浮かび上がった。

 これは……地形、か?


『これでマップウィンドウが立ち上がりました。自身を中心に50メートル四方の地形が表示されます。中央の青い▲があなたを示しています。これ以降はあなたの移動に従って地図マップが更新されていきます』


 なるほど、MAPってマップ……地図のことか。

 しかしこの地図、崖の上まで表示されているな。

 ……つまり、50メートル以内なら壁でも崖でも俺の視線が通らない場所であっても、お構いなしに表示される……のか。

 ……これは人に言えんな。

 王城とかに近づいただけで、城の内部構造とか機密がダダ漏れじゃねぇか。

 知られたが最後、難癖付けて拘束される未来しか思い浮かばん。


『緑の●が友好的な生命体、赤色が敵対的な生命体、白色が中立を示しています。迷宮ダンジョンの中では特に視覚外から接近する敵対的存在やエネミーに注意して探索しましょう』


 ……至れり尽くせりだな。

 俺に敵意を持っているかどうかまで分かるって事かよ。


『チュートリアルダンジョンの最終目的はボス〔ハーピークイーン〕の打倒です。〔ハーピークイーン〕が打倒された時点でチュートリアルは終了し、地上に転送されます。それではご武運を。』


 その言葉が終わると同時に、二つの窓はフッとかき消える。

 なに? おい、今更消えるとはどういうこった!

 せめて地図だけでも……って、出たな。

 ……どうやら地図や窓はその存在を強く意識すると出現するようだ。

 逆に言えば普段意識していない時は表示されない。

 まあそうだよな。普段からこんなのが出っぱなしじゃ邪魔でしょうがない。


「『声』のいいなりになるのは癪だが……地上に出るには行くしかないか」


『化鳥の谷』は中の下クラスの難易度の迷宮だ。

 しかもルスタールの近くとあって、俺も何度かパーティを組んで潜ったことがある。

 だからある程度は内部構造を知っているはずなのだが、ここは見覚えが無い。

 ましてやこんな異常な事態が頻繁にあれば、噂になるはずなのだ。

 つまりここは『化鳥の谷』の中でも未発見、未探索の区画なのだろう。

 さらに『声』の話から推測すると、正規の出入り口とつながっていない可能性が高い。

 以上のことから素直に『声』に従った方が地上へ生還できる可能性があると言える。


「幸いなのはまだ日が高いことと、ほぼ谷に沿って一本道だって事だな」


 空中に出現させた『地図』によると、南は大きな岩で道が塞がれているらしく、北へ北へと渓流に沿って歩くことになる。


「はあ……引退寸前のおっさんに迷宮探索なんざさせんじゃねえよ……」


 俺はため息と文句を誰にともなく吐くと、覚悟を決めて歩き始めた……。


          ※


 それから10分ほどひたすら歩いた頃。

 ピコン、という音と共に地図に赤い●が1つ現れた。

 場所は右手の崖の中腹、『声』の説明が正しければ、俺に対して敵対的な生物、という事になる。

 ……まあ崖の中腹……なんて場所に陣取っている時点で、少なくとも人では無いわな。

 俺は崖の凹凸に身を潜めながら『気配隠蔽』を使う。

 ……うん、すげえ便利だ。

 地図で敵を発見した時だけスキルを使えば良いんだからな。

 疲労の仕方がまったく違う。

 20メートル程まで近寄って、そっと岩陰から様子をうかがう。

 ……うん、鳥のような魔物……だな。崖の中腹の巣のような所で羽を休めている。

 いったいどんな魔物なのかと目をこらすと、魔物の周りに文字が表示される。


 ツインヘッドラプチャーL17

 HP■■■■■■■■■■ 220

 MP□□□□□□□□□□ 0

 CP■■■■■■■■■■ 10



 これが『表示設定』の効果って訳だ。 

 幸いただの古代語なので俺にも把握できる。

 ツインヘッドラプチャーは頭を二つ持つ猛禽型の魔物で、俺も過去に戦ったことがある。

 一羽だけなら不意を撃てれば何とかなるだろう。


「もう少し……ぎりぎりまで近付いて……」


『気配隠蔽』を維持したままじりじりと近寄っていく。

 スキルは万能では無いのだ。気配を消していても見つかる時は見つかる……


「……よし、この位置からなら初撃は当たるな」


 俺は腰の後ろに止めてあったショートボウを取り出すと、木の矢を矢筒より取り出しつがえる。

 そして『ダブルスナイプ』を発動すると同時に矢を解き放った!

 続いて、ほぼ時間差無しで第二射が放たれる。

 2本の矢が正確にツインヘッドラプチャーの体に吸い込まれ、やつの悲鳴が辺りに響きわたった。


  ツインヘッドラプチャーL17

 HP■■■■□□□□□□ 95

 MP□□□□□□□□□□ 0

 CP■■■■■■■■■■ 10



 ダメージを負って、やつの生命力を示すゲージも半分以下に削れる。

 むう、意外と威力が高いな。


「キョルルルルルルア゛ーーーー」


 こちらを見つけたのか、怒りの咆哮をあげて俺に突っ込んでくるツインヘッドラプチャー。

 俺はその位置から動かず、ショートボウを地面に落とすと、右手でショートソードを抜き放って迎撃する。


「食らえ!」

「キキョー!」


 ツインヘッドラプチャーのかぎ爪を躱しざまに『スラッシュ』を叩き込んでやる。

 すると、ラプチャーの生命力ゲージもとうとうゼロになり、どさり、と地上に落ちたのだった。


「格納……と。やっぱり倒した相手なら『アイテムうぃんどお』に格納出来るみたいだな。死んじまえば魔物とて道具と変わらずって事か」


 これなら獲物をいちいち現地で捌いて時間を取らなくていいし、臭いでほかの魔物を引きつけることもねぇ。

 便利なことこの上ないな。

 スキルやこのショートソードも思っていた以上に強力だし、何とか1人でも『化鳥の谷』を突破出来そうだな。

 俺は、ショートソードを鞘に収め、ショートボウを拾い上げると、先を急ぐことにした。

 それからも地図に反応があるたび、不意を打つ戦法とスキルを駆使して魔物を倒し、窓に仕舞っていく。

 その戦果は


  ツインヘッドラプチャー×3

  叫び(スクリーム)ハーピー×2

  コモンハーピー×3

  石肌蛇ロックヴァイパー×1


 いやはや次から次へと出てくる出てくる。

 ただ、なぜか奴らは複数で現れることが無く、単独行動のものばかりだったのが救いではあった。

 とは言え、正直『手当』や『窓』から貰ったヒールポーションが無ければ詰んでいたかもしれんが。


 そして、魔物と戦いながらさらに進み、1時間ほどもたった頃か。

 渓谷沿いの道は不意に途切れ、見上げるような巨大な崖が滝と共に行く手を塞いでいた。


「ふん……? どん詰まりって事は、ここが目的地って事か?」


 しかし『声』の言う通りなら、ここにはボスが待ち構えているはずだか……

 不審に思い周りを見回すが、それらしきものは見当たらない。

 もちろん『地図』にも赤い●は表示されていない。


 もしやこの滝を登らねばならないのか、とうんざりしかけた時。


 ――いきなり空中に、まばゆい閃光がほとばしった。


 ……これはあれだ、最初のゴブリンと同様の現象だ。

 とすればこの後には――

 閃光が収まった時、空中には俺の予想通り魔物が唐突に出現していた。

 その姿は上半身が女性、両手と下半身が猛禽。

 いわゆるハーピー系の魔物だが、大きさは3倍以上だ。

 間違いない。こいつが『声』の言っていたハーピークイーンだ。


  ハーピークイーンL22

 HP■■■■■■■■■■ 300

 MP■■■■■■■■■■ 150

 CP■■■■■■■■■■  10


 うん、表示設定でもハーピークイーンになっているな。

 ……しかし名前の横のL22ってのは何なんだろうな?

 今まで出てきた魔物達にもあったが……なんか数字が高いほど強かったような気がするんだがなぁ。


『レッスン4 ボス戦闘について。 各ダンジョン、もしくはイベント戦闘のボスを撃破した場合は撃破毎にボーナスを入手することが出来ます。ただし今回についてはチュートリアル仕様のボスである為、通常仕様の〔化鳥の谷〕を攻略する場合のボスと異なり、ボーナスに加えて地上への転送が行われます。』


 おっと久々の『声』殿か――まあいいさ。

 こいつを倒せば地上に帰れるってんなら、やるしかあんめいよ!

 まずは川べりと岩場での戦闘のため『悪路走破』を発動。

 ハーピークイーンを中心点に半円を描きながら移動しつつ、『ダブルスナイプ』を連続で行使し、牽制する。

 ――命中。

 生命力のゲージがほんのちょっぴりだけ削れる。

 畜生、やけに堅ぇな。


『クルゥアアアアアアアアッ!!』


 ハーピークイーンはそれがお気に召さなかったのか、俺に向かって自身の羽を飛ばしてきた。

 げっ。かすっただけで革鎧が裂けたぞ。

 連続して食らったら……持たんな。こりゃ。

 遠距離戦は分が悪いとみてショートソードでの攻撃に切り替える。

 防御より回避を念頭に置いて接近し、隙を見て跳躍、『スラッシュ』を連打する。


『クル……グルァァァァッ』


 よしっ……ハーピークイーンの右翼を切り落とすことに成功。

 これで地上に引きずり下ろすことが出来た。

 後は止め――


『グルア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア゛ア゛アア゛ッ!!』

「うぐっ!」


 いきなり頭ん中をかき回されるような咆哮が俺にぶつけられる。

 叫び(スクリーム)ハーピーなんぞ比べものにならないほどの衝撃だ。

 ……まずい、足腰が立たねぇ。

 片腕のハーピーは、そんな俺の所へゆっくり歩いてやってくる。

 そしてニヤリと嫌らしげに笑うと。


 ――俺の首をその凶悪な爪で切り裂いたのだった。










「――はっ!?」


 気がつくと俺はハーピークイーンと戦う直前の位置に立っていた。

 思わず手を咽にやるが傷一つ無い。

 切り裂かれた鎧も元通りだ。


「……どういうこった」

『チュートリアル戦闘のためペナルティ無しで戦闘前の状態に復帰しました』

「おいおい……命まで自在かよ。いや時間をいじったのか?」


 何にしろ命拾いしたのは確かなようだ。

 やつは強い。何らかの策を立てないと倒すことは難しいだろう。


『レッスン4 ボス戦闘がクリアされていません。ボス戦を再開します』

「え、ちょ……まてよ、だからな、このまま戦っても――ってああ、もう、来やがった!!」

『クルルルオォォォォォォッ!!』


 慌ててショートボウを構えるが間に合わない。

 ハーピークイーンが大きく翼をはばたかせると、いきなり俺の周りの地面に亀裂が入る。

 これはまさか。


「風の刃――魔法まで使えるのかぼっふぉ!!」


 風の刃はどうやら地面だけでなく俺の首も一緒にかき切っていたらしい。

 ――俺の意識は再び闇に沈んだ……。




 結局俺は合計10回ほど死んだらしい。


 その辺りで『声』が再び話しかけてきたのだ。


『レッスン4 ボス戦闘で10回の死亡を確認――特例処置でこのまま地上へ戻れますがどうされますか? その場合、ボス撃破ボーナスは取得出来ません』


 は、なんだよ、そうか、帰れるのか……

 そりゃあな、10回も文字通り死ぬような目にあっているんだ。

 それくらいはな。


「そうか――助かったな……ああ、ちなみに倒していたら何が貰えたんだ?」

『ボーナスの内容は次の中からランダムに1品となります。

   風の短剣(速度に補正)

   ウィングブーツ(ジャンプ力上昇)

   ハーピーの涙(ハーピードロップ)

   無限の矢筒(鉄の矢)

   スピードシード(速度+1)

 の5種類です』

「ほう、どれも聞いただけで大層なもんだな。だがまあ命には代えられねえか……て、何? ハーピーの涙(ハーピードロップ)?」


 ……ハーピーの涙(ハーピードロップ)といやあ……ユニの……無声症の特効薬か!?


『それでは特例措置としてこのまま地上に――』

「あ、いや、まてまてまてまてまて! 取り消す! や、やっぱり魔物を倒して財宝ゲットてのは冒険者の醍醐味だよな! うん、簡単にあきらめちゃいけねぇやな」

『継続の意思を確認。それではレッスン4を再開いたします――』


 奮起して再開したハーピークイーン戦。

 だが俺がやつを打倒するのに、更に30数回の敗北を必要とした……

 


 どうやって倒したかって?


 いやな?

 やつ、ある程度出現場所からこっちが離れると、なぜかこちらを認識しなくなるんだよ。

 そこからちくちくと……ショートボウを射っては逃げ、射っては逃げして……30分かけて削り倒したって訳なんだわ。

 ああ、くそっ……疲れた……。



 

 

今年最後の投稿になります。

それでは皆様良いお年を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ