万年中級冒険者
今回もあんまり長いお話ではないと思います。たぶん。
奴隷を買って××という行為が常識の世界に生きている現地人主人公ですので、その手の話に嫌悪感を覚える方はご注意ください。
「そろそろ潮時ってやつかね」
俺はギルドの受付にオークの討伐部位を提出すると、腰に手をやりながら誰に聞かれるとでもなくつぶやいた。
「あら、ジオさん、引退ですか?」
討伐部位の確認をしていたイナリス嬢がその手を止めて聞き返してきた。
「うむぅ……40を超えてめっきり体の無理がきかなくなったよ」
「まだまだいけますよ! ジオさんみたいなベテランのレンジャーは貴重なんですから! やめられたらルスタールギルドの損失です! だいたい新人たちの面倒を見る人が……あ、いえ……」
ふふん、思わず本音がこぼれてしまったって感じだな。
ばつの悪そうな顔をしてやがる。
まあ、20年以上も冒険者をやっていて、いまだ6級だ。
田舎から英雄を夢見て出てきた小僧のなれの果てとしちゃ、上等の部類だが……
結局、俺には勇者とか英雄とか呼ばれるほどの資質はなかったらしい。
最近は冒険者に成り立ての小僧っ子どもの指導をして小銭を稼ぐなんてこともしているから、ギルドとしては便利に使えるベテラン冒険者って認識なんだろう。
あ、ちなみに6級っていうのはギルドのランクだ。
10級 初心者
9~8級 初級者
7~6級 中級者
5~4級 上級者
3~2級 一流
1級 国内で数人
特級 大陸で数人
だいたいの目安としてはこんなもんで……俺は主にフィールドワークを得意とするクラス……「レンジャー」の中級の上の方ってところな訳だ。
まあもっとも、上級までいけるやつなんざほんの一握りだ。
生まれながらに何らかの神の祝福を受けたやつとか、魔力の才能を持ったやつとかだな。
冒険者を目指す者の半分が中級に上がる前に命を落とし、そのさらに半分が上級者の仲間入りをする前に死ぬか引退を余儀なくされる。
実入りはいいがリスクも高い。
それが魔物討伐斡旋所――通称冒険者協会ってもんだ。
「ジオさん……ジオ・ウルマさん、査定が終わりましたよ~!」
おっと、考え事をしている間に今回の査定が終わったらしい。どれどれ……
「オークが大銀貨5枚……が3頭、ゴブリンが大銀貨1枚の4頭分で……大銀貨19枚ですね。金貨に変えておきます?」
「おう、たのまぁ」
ギルド発行の貨幣はたいていの国で通用する便利もんだ。
交換レートは
ミスリル貨幣1=大金貨10=金貨100=大銀貨1000=銀貨10000=銅貨100000
あと補助硬貨として銅貨の4分の1の価値のクォーターチップってのがある。
まあ要するにクォーターチップ以外は10倍ずつ価値が上がっていく訳だ。
大銀貨2~3枚あれば色町で豪遊できる。
銀貨1枚でちょいと豪勢な飯が食えるくらいか。
それから考えれば、俺が3日で稼いだ大銀貨19枚ってのが一般庶民から見たらどれだけ破格か分かるってものだ。
まあ、それだけリスクも高いんだがな。
「おう、イナリスから聞いたぞ、ジオ。引退するんだと?」
ギルドの奥から出てきたのはルスタールのギルドマスター、ルドマンだ。
やつも昔は2級冒険者としてならしてたんだがな。今じゃすっかり腹の出たおっさん化しやがって。
「おう、とりあえず老後の資金くらいは貯まったからよ。今更こんな家業続けることもなかろうと思ってなぁ」
「う……むぅ。お前が新人どもの訓練を引き受けてくれてこっち、だいぶ新人の死亡率が下がって助かってたんだがなぁ……まあ、無理強いはできんが……せめて、最後にまとめて研修をしてやってくれるか」
「あ……そういやこの前まとめて新人どもが加入してきやがったな」
「おう、そいつらだけでも頼むわ」
「……分かった。明日……明後日でいいか?」
「ああ、明後日だな? 朝一で、ひよっこども集めとくぜ」
まあ、これも最後のご奉公ってやつか。
万年中級ベテランの死なない技術ってのをみっちりたたき込んでやるかね。
※
「おう、帰ったぞ」
「…………んぅ」
郊外に買った小さな家の扉を開くと、黒髪で20前後のすらりとした美女が無言で俺を出迎えた。
この間買ったばかりの女奴隷「ユニ」だ。
基本的に冒険者ってのは色町の女にもてる。
金周りがよく、命のストレスから女を買う機会も多く、払いがいいからだ。
その反面、結婚……となるとなかなか難しい。
現役の冒険者はいつ死ぬか分からないし、引退した奴らはたいていどこか四肢に欠損があったりする。
なので、俺のように貯めた金で奴隷女を買って引退後の世話をさせるってケースも多い。
このユニ、つややかな黒髪のスレンダー系美女で、若く教養もあり、本来ならまだまだ俺の手の出る奴隷じゃなかったんだが、先天性の障害で言葉がしゃべれず、その分格安にすると奴隷商人に言われ、衝動的に買い取ってしまった。
言葉はしゃべれなくともこちらの意は解するし、頭もよく、気が利き働き者で外見は俺の好みのど真ん中だ。
これは買い得で幸運だったと、そのときは思ったのだが……
その後本人から先天性の障害などではなく、咽が冒される死病……『無声症』にかかっており、余命数年なのが理由だと(筆談で)聞かされ、奴隷商人にまんまとだまされたことを知ったのだった。
この『無声症』、感染症でないのが救いだが、これに冒されると徐々に咽が腫れ上がり、1年ほどでまともにしゃべれなくなる。
そしてやがて物も食べられない状態になり、末期にはまともに息も出来ずに絶息して果てるのだ。
これを治すには高位神官クラスの魔法治療か、完全治療薬、またはあらゆる咽の病を治し美声を与えるというハーピーの涙等が必要となる。
いずれにしても中級冒険者程度には手の出ない値段だ。
だから、本来ならクレームをつけて返品するか、別の奴隷商に売り払うかするのが普通なんだが……
そのことを知った時にはもう何度か夜を共にしていて情が沸き、捨てるに捨てられなくなっていたって訳だ。
「おう……明後日な、またひよっこどもの研修がある。準備頼むわ」
「ん……んぅ、んぅ?」
ユニは頷いて了承の意を俺に伝えると、続いて大ダライと湯気の立った食事がのったテーブルを交互に指さす。
湯浴みにしますか、それともお食事にしますか……ってところか。
「む。そうだな……」
「んー……んぅ……」
俺が悩んでいるのを見て、何を考えたか、するり、とその身にまとった薄物を床に落とすユニ。
全体的にはスレンダーながらも、形のいい双球がまろびでる。
――それとも私? ってか?
「ふ、そうだな……飯の前にこっちの肉を食うか」
俺はユニの挑発にあっさりと乗って、三日ぶりのその肢体を抱き寄せると、ユニは嬉しそうに俺の衣服の中に指を這わせてくる。
「んぅ、う、ん……」
ちろちろと俺の肌を這うユニの舌の動きを感じながら、その体をひょい、と抱き上げ、部屋の角のベッドに運ぶ。
……また今日も冷たい飯を食うことになりそうだった。
いきなりのっけからチョロイン落ちてます(笑)