クエスト・鉱山深く潜む者(1)
四月中に投稿しようと思っていたのに間に合いませんでした(>_<)
闇深き電子の仮想空間にて、知識の泉の名を持つ彼らは、今日も『WL-MMO【ソウルズ】』の為に意見を交わしていた。
ミーミル2『いやぁ~ぎりぎりだったわねぇ』
ミーミル1『これ以上グランドクエストの発生を抑えていては、本格的な海嘯の発生につながるところであった』
ミーミル3『そうそう、現地人の不必要な殺傷はまずいなんてもんじゃないっちゅーねん。ジオっちには感謝感謝……よくぞ間に合ってくれたって所やんな』
ミーミル2『後は何とか内部捜索まで誘導したいところだけどぉ』
ミーミル1『……これは完全に偶然だが、あの子達のおかげでそれも上手くいきそうだ』
ミーミル2『うーん、ちょっと可哀想だけど』
ミーミル1『そうだな、だが、彼らに関しては大きく干渉は出来ない』
ミーミル2『うー……ジオっち、間に合うと良いね』
ミーミル3『……せやなぁ』
ミーミル1『ならば……間に合うようにすれば良かろう』
ミーミル2、3『『え?』』
ミーミル1『幸い、事は我々の支配領域である正規ダンジョンの中だ。そこで新規に……』
ミーミル2『……なるほど、確かにイベントであれば干渉出来るわね!』
ミーミル3『一石二鳥やな! 後は……出来た分からアップロードして……』
ミーミル2『そこでジオっちに……』
電子の賢者達はお互いに意見を交換すると同時に速攻でプログラムを組上げ、自らの支配領域である坑道にイベント命令を順次組み込んでいく。
ゲームマスターであると同時にクリエイターでありプログラマーでもある彼らによって、また新たにイベントが追加された瞬間であった。
※
土竜虫は地に伏した後も、その体は一向に消える様子は無かった。
……と言う事はこいつは『窓』の用意した魔物では無く、通常の……迷宮に住み着いていた魔物なんだろう。
ならば、ギルドに討伐証明部位を持って行けばそれなりの収入になるはずだ。
今回のボーナスに加えて、護衛依頼の思わぬ副収入って訳だな。
「ユニ、ルフ、確か……土竜虫の証明部位は右手首だったはずだ。切り取って持って来てくれ」
「はい、ジオ様」
「分かっタ!」
「あ、旦那、手伝いますぜ」
俺の指示に2人が駆け出すと、鉱夫の内何人かもそう申し出てくれた。
魔物の遺骸はかなり広範囲に散らばっているからな……正直助かる。
礼を言ってありがたく手を貸して貰うことにした。
「旦那……右手だけですかい? 外殻は持って帰らねえんで……?」
手伝いを申し出た鉱夫の中でひときわガタイが良く、隻眼で凶悪な人相の男がそう不思議そうに聞いてきた。
こいつの肉は食用にならんが、外殻は防具の素材としてなかなかの値で売れるからな。
だが、如何せん、こいつらは大きさが大ダライほどもある上に、あちこちトゲトゲしていてやたらと嵩張るのだ。
「……1~2匹分は丸ごと持って帰るつもりだがね。流石にこの量は持って帰れねえよ」
……もったいねえが、これだけの量を持って帰る術がねえ。
まさか衆人環視の中『アイテムうぃんど』に放り込む訳にも行かねえしなぁ。
「そ、それじゃあ……捨てていくんで?」
「ま、大部分はそうなるかねぇ……右手の回収を手伝ってくれるってんなら、残った体の方は好きに使ってくれていいぜ」
「へいっ! ありがとうございやす! 聞いたか、おまえら! 旦那が獲物をお分け下さるぜ!」
「うおぉぉ! ありがとうございやす! 旦那!」
「いやあ、これだけの獲物、中々ねぇですぜ」
「ごちになりやす! 旦那!」
現金にも、今まで傍観していた他の鉱夫まで一斉にバグモールの遺骸に群がり始めた。
ま、一匹持って帰れりゃ……奴らからすれば10日……いや、下手したら1ヶ月分の稼ぎに相当するだろうしなぁ。分からんでも無い。
「ジオ様、お疲れ様です。突発事案でしたが臨機応変に対応していただいて感謝していますわ」
鉱夫達に続いて声を掛けてきたのはトルシェル嬢のお付きのメイド、フィフ嬢だ。
これだけの大騒ぎにもかかわらず、いつも通りその服装には一片の乱れも無い。
「お、フィフ嬢。トルシェル嬢の方はご無事だったんで?」
「ええ、おかげさまで。鉱夫の方々もそう大きな怪我人はいないようです。ただ……」
ふっ、とわずかにフィフ嬢の表情が曇る。
「ただ、なんです?」
「石拾いの子ども達……炊き出しの後にすぐ坑道に入ったらしいのですが、姿が見えないのです」
「……なんだって?」
「戦う力も無い子ども達です。もしやすでに手遅れかもしれませんが……」
「……放っておく訳にも行かねぇか」
「ええ、私の雑炊をあれほど美味しそうに食べてくれた子達をそのままにするのは……心苦しいのです。せめて安否の確認だけでも」
「ジオ様……」
「ジオぉ……」
いつの間にか戻って来ていたユニとルフも、何か言いたそうに俺を見上げている。
ち、やりゃあ良いんだろ、やりゃあ。
「……しかたねぇ、ボーナスも貰っちまったしな。アフターケア位しねぇとな」
すでにバグモール共に食われてるのかもしれんが、安否の確認位はしてやるか。
※
俺達3人は早速、調査の為に坑道に入ることにした。
ガキらがまだ生きているなら一刻を争うしな。
入り口から入って進むと、すぐに大きな広場になっていた。
鉱石拾い達は主にここで採集していたそうだ。
てことは、ガキらもこの辺りにいたと言うことになる。
「崩落……してやがんな」
坑道の地下第1層大広間。
暫定的にそう呼ぶことにするが、そこにはぽっかりと地面に大きな穴が空いていたのだ。
……なるほど、バグモール達はここから地上に出てきたって訳か?
「……よし、降りるぞ。結構深そうだ、ロープを垂らすか」
俺は『アイテムうぃんど』から20メートルロープを取り出すと、もやい結びで近くの大岩に結びつけた。
普通これだけの長さのロープだと結構な荷物になっちまうんで、普段はもっと細くて短い物を携帯しているんだが、せっかく『アイテムうぃんど』が使えるんだからと自宅の倉庫から突っ込んできたのが役に立った。
このロープには50センチ間隔で結び目を作ってあるから、ユニでも何とか使えるだろう。
「……よし、俺が先に降りてロープの先を固定しておくからゆっくり降りてこい」
「は、はい」
「ルフは大丈夫! むしろロープ無くテもイケル!」
「ああ、馬鹿、飛び降りるな! 崩落の危険がある……ゆっくりだ! ……そっと降りるんだ」
良い所を見せようと真っ先に飛び込もうとしたルフの首根っこを何とか押さえ込む。
「わふんっ!? わ、わかった、わかっタから……く、首らめぇ……」
あ、いけねぇ。ゴッドハンドのこと忘れてた……。
ルフの頬を軽く叩いて正気に戻し、勝手に先行しないようしっかり言い聞かせてから改めて穴の中へと降りていった。
「広い……な」
そこはしっかりした岩壁で出来た洞窟になっていた。
うっすらと壁自体が発光しているのは、ヒカリゴケの類いが自生しているのかもしれんな。
だが、それだけでは十分な視界を確保できていないので、魔石ランタンを準備する。
これは竹籤で作った拳大の籠の中に魔力を吸収して自発光するよう調節した魔石を詰めた物で、万が一落としても竹籠がクッションとなり壊れないという優れものだ。
中身の魔石もクズ石で十分だし、地下型ダンジョンに潜る際の必需品と言える。
「近くには……いねえな。こいつぁ、探すのは骨か」
光の届かない闇の奥深くまで洞窟が続いているのを確認して、思わずため息が漏れたその時。
俺の目の前で自動的に『窓』が開き、文章を表示した。
『イベント開始条件が達成されました。グランドクエスト『鉱山深くに潜む者』及びサブクエスト『子ども達を救出せよ』が開始されました』
テキストの色が冒頭から順次変わっていくのと同時に、『窓』の声がその内容を読み上げる。
って、おい。
イベントってなんだイベントって。
春の盛りに花見でもしようってのか?
「ジ、ジオ! この声なンだ!?」
「あー……気にすんな。敵じゃねえ。その、なんだ……ほれ、魔法の武器貰っただろうが」
「わふ!……エクスチェンジの声のヒトか!」
ルフよ、それで納得するのか。
俺はいまだに信用しきれていないんだが。
『グランドクエストは大海嘯の発生を防ぐと言う最終目標につながる一連のイベントです。大陸に散らばる四つの根源ダンジョンを踏破しましょう。この四つをクリアすることで、他のノーマルダンジョンへの魔素の供給が制限され、魔物の発生を抑制できます』
……おい、なんか話が壮大になってきたな。
この大陸だけ魔物が湧き出続ける『ダンジョン』があるのは、その『根源ダンジョン』のせいって訳かよ。
『各、根源ダンジョンには最奥にボスが待ち構えています。これを討伐することでクリアとなります。この『ルガード鉱山坑道』は4つの中でもっとも易しいダンジョンになりますので、このクエストから進めるのをお勧めいたします』
……おいおい。
そりゃあ、俺だって柄にも無く英雄を夢見たりもして、冒険者復帰を決めたがね。
こりゃあ、行き成りビッグすぎませんかね!?
正直荷が重いんだがね。
いや、それよりも、だ。
「おい、海嘯とか、根源ダンジョンってのも気にはなるが……俺達はここに人を探しに来たんだ。お前ぇ……なんか気になることを言っていたよな?」
『続いて、サブクエストの説明に移ります』
ちっ、くそ窓め……相変わらずこっちの言うことはガン無視か。
『サブクエスト『子ども達を救出せよ』』
「あー、そう、それだ。もしかして……」
『坑道の崩落に巻き込まれた『コーラル』、『ルーグ』、『イルルカ』の3人の子どもを救出しましょう。制限時間は特にありませんが、時間を掛けすぎたための衰弱死は失敗要件に該当します。』
「あー……そんな名前だったか……」
「間違いなイ。馬車の中でコーラル、名前言っテた」
「そうですね、おそらくその3人で間違いないと思います」
ルフとユニがそう言うのなら間違いないだろう。
……どうもこの歳になると、人の名前を覚えるのが億劫になっちまってなぁ。
『サブクエストの成否はグランドクエストに影響しませんが、別途報酬を取得することが出来ます』
いやいや、むしろこっちが俺達にとっちゃメインだっての。
……まあ、報酬をくれるって分にはありがたく頂戴しますがね。
「……よし、『窓』の言い方から推測するに、まだガキらは無事みたいだが……急ぐにこした事はねえな」
「そうですね、子ども達がいつ魔物に襲われるとも限りませんし」
「んー……たぶん大丈夫だろうがな」
『窓』は「時間を掛けすぎたための衰弱死は失敗要件に該当します」と言っていた。
逆に言えば「魔物に襲われて死んだ場合」は失敗にならないって事だが……条件としては不自然すぎる。
むしろ、魔物が入ってこられない場所にいるか、『窓』によって結界でも張られて保護されているか……って所だろう。
「問題は……どこに居るのかって事だが」
「『マップ』機能で確認できませんでしょうか」
ユニの言葉で思い出す。おお、すっかり忘れていたな、マップ機能。
「地下二階層には居ないみたいだな」
マップ機能を呼び出すと地下二階層のほぼ全域が表示された。
確か確認できるのは50メートル四方だったか。
表示されているマーカーは……俺達といくつかの赤色の●だけか。
赤色の●は「敵対的な生命体」だったな。だとすればおそらく魔物だろう。
……うーむ、ダンジョンでは便利すぎる機能だな。しかし……
「……この階層にいねえって事はどういうことだ? あの穴から落ちてきたんならそう遠くには行っていないはずだが」
ち、『窓』め、ガキめらをどこかに移したか?
そう簡単にはクリアーさせねぇって事かよ。
「……とりあえず一階一階捜索しながら最下層を目指すしかねえか」
……ったく、おっさんに無理させんじゃねえよ……