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ネームドモンスター

「あー……まずいな。勝手にルフをパーティに入れちまったら……」


 実際確認してみると窓の声の通り『すてーたすうぃんど』が三人分になっていた。

 もちろん三人目はルフって訳だが……言ってみればよそ様のパーティの稼ぎ頭を横からかっさらったようなもんだ。

 まずい。こいつはまずいぞ。冒険者としての仁義にもとる。


「ルフ、ジオの群れ(パーティ)に入っタか? いいぞ、ジオは強いし、毛繕いも上手イ!」


 ぶんぶんとちぎれそうな勢いでしっぽを振って、喜びを表現するルフ。

 あー……喜んでいるところ悪いが、そう簡単な話じゃねえんだよなぁ。


「この、『窓』のパーティからルフを外す事ってのは出来ねぇのかな?」

「……この、三枚目のステータスウィンドウの下の方に『パーティから外す』って書いてありますから、たぶんこれを押せば……」


じっとルフの窓を確認していたユニがそう教えてくれた。

うむ、まったくかゆいところに手が届くやつだ。


「ああ、そうか……全く一時はどうなることかと……?」


 おかしいな。『窓』を操作しようとするが、腕が動かねぇ……って、がっちりルフに捕まれているな。


「おい、ルフ、手を放しな」

「……ダメ。なんかよくわからないケド、群れのリーダーはジオ。ルフより強いジオ」


 ……『窓』がどんな物かなんて、よく分かってねえだろうに……

 野生の本能侮れねえな。俺の行動の意味を何となく察したのか。


「いや……だからな? 勝手にチームを移籍する訳にゃいかねえだろ?」

「ルーキス、ジオより弱い。なぜ気にする?」


 コテン、と首をかしげ不思議そうに俺を見つめるルフ。

 ……ああ、だめだ、こいつ。脳筋だわ。


「あのね、ルフちゃん。人の世には人の世のルール……掟があるの」

「お、掟か」


 さて、どう言い聞かせようかと悩んでいると、ユニが俺に代わってこんこんとルフに諭し始めた。


「そう、人の世は強いだけじゃだめなの。掟を守らないと群れに入れては貰えないのよ?」

「……ルフ、掟守ル! だから群れに入れテ欲しい」

「そう、良い子ね……ジオ様の群れに入りたいなら、まずは仁義を守らなくちゃね」

「ジンギ、か?」

「うーん、そうね……戦い以外にもルーキス君達にはお世話にならなかった? 街での常識を教えてもらったり、とか」

「教えて貰った! お金の使い方、とカ、ぎるどの使い方とカ」

「でしょう? そういうのは強さだけじゃないでしょ?」


 うーん、ユニ、諭すの上手いな。

 あれか、うんと小さい子どもに話すように言やあいいのか。


「だからね、まずはルーキス君達にパーティを抜けるお願いをして、今までのお礼を言って……それで了承を取ったら初めてジオ様の群れ(パーティ)に入れるの。できる?」

「わかった! ルフ、ルーキス達にお願いしてくル!」

「うん、そうね。それが筋道ね」


 おや?

 ……なぜかルフを迎え入れる前提で話が進んでいる気がするんだが。


「それでジオの群れに入って……たくさん強い子産ム!」

「あら、そっちの方も順番守ってね? ジオ様のお子様を産むのは私が先よ?」

「ン、ユニが群れの第一位の雌だな? 分かっタ!」


 いやいや、分かってねえだろ!?

 というか、俺はガキは趣味じゃねえぞ!?


「いい加減にしろ二人と……も?」


 疑問系になったのは許して欲しい。

 何しろ、いきなり俺の目の前で地面が光を放ち始めたのだ。


「ジオ……コレ、何だ?」

「ジオ様、これは一体……明かりの魔法(ライト)? でしょうか?」

「離れろ、二人とも! これはたぶん……」


 そう、この現象を俺は知っている。

 これはアレだ。


『同一区画にて同一種のモンスターを規定数以上討伐されたのを確認しました。名有りの魔物(ネームドモンスター)が出現します』


 くそ! 『ちゅーとりある』ん時と似ていると思ったら……やっぱり『窓』の魔物か!


「ユニ、ルフ! 逃げるぞ!」


『ちゅうとりある』ん時のハーピークイーンは、何十回死んだか分からねえ程の、えれえ強敵だった。

 今回ももしかしたら死んでも生き返れるのかもしれんが、ユニとルフが居る以上、試してみるわけにもいかねえ。

 となれば逃げの一手だな。


「ジオ! なんか透明な壁ある! 逃げられなイ!」

「ジオ様、何か非常に強力な結界でこの辺りの空間が隔離されています!」


 って、何じゃそりゃあ!


名有りの魔物(ネームドモンスター)戦は『逃げる』は実行出来ません』


 実行出来ません、じゃねえよ!

 てめえが逃がさないようにしてんだろうが!

 などと、心の内で『窓』の声に悪態をついている内に、光は一体の巨大なトカゲの姿を成して収束した。

 つややかな鋼の光沢を持つその体は全長7~8メートルって所か。

『表示設定』で確認すると


ケミカルリザード(メタル個体)L35

 HP■■■■■■■■■■ 15

 MP■■■■■■■■■■ 5000

 CP■■■■■■■■■■ 20



 と表示された。

 ……レベルの割に体力がえれえ少ねえな……?

 これなら一発当たれば行けるか?


「ち、こうなりゃ覚悟を決めるしかねえか……ルフ! 俺とお前が前衛だ! 俺らは二人とも回避型の前衛だからな、お互いの動きに気をつけろ! ユニはなるべく離れて隙を見て魔法を撃ち込め! こいつぁ、魔力は高いが体力は少ねえ! 一気に押し切るぞ!」

「はい!」

「わかっタ! ルフが一番目! 行く!」


 言うが早いか一気に飛び出したルフが、鋼色の胴体に思いっきり双斧を叩きつける。途端、ガギン!と生物を叩いたとは思えない音が響く。


「堅い! ルフの斧で傷がつかなイ! わふっ!」

「それじゃあ私の番です!『炎弾フレイムボルト』!」


 ルフに続いてユニの魔法がケミカルリザードに突き刺さる――が、これも何らダメージを与えたようには見えなかった。


「ち、やたら堅ぇな! ならっ! これでどうだ!」


 俺はルフに気を取られているやつの背後に回り込み、『影撃』を繰り出す。

 雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフもちいたそれは、通常の牙大蜥蜴ファングリザードなら2,3匹まとめて葬れるほどの威力を有する。が――


 ガキン!


 通常攻撃の約3倍の威力を持って放たれた魔法の刃は、甲高い金属音を発してはじかれてしまったのだった。


「……っ! 魔法武器でさえもはじくってのか!」


 魔法もダメ、物理攻撃もダメじゃあどうしようもねえぞ……?


「クァァァァァァァゥ!!」


 ダメージは負っていないくせに、不快には感じたのか、ケミカルリザードは咆哮を上げてこちらにそのあぎとを向けた。

 だがこの間合いなら突進してきても余裕で避けられ……


「うぉっ!! あぶねぇ!!」


 この野郎、ブレスまで吐きやがるのか。

 ドラゴンのなり損ないみたいな奴だ。

 ブレスを浴びた草木が一気に焼け爛れたことから察するに酸のブレスか?


「ジオ様っ……」

「ジオぉ……」


 ええい、情けない顔しやがってお前ら。

 大丈夫だ、何とかしてやる!

 ……なんとか、なるかねぇ……?

 現時点で最大の攻撃力を誇る『影撃』ですらダメージの無い化けもんだぞ?


 ……現時点・・・で?


 ……ああ、そうか、そうだよな。

 有効なダメージソースが無いなら取得すればいいじゃねえか!

 ユニは現在レベル15。

 前回ステータスやスキルを弄ったのがレベル9の時で……

 うん、前回の余りも含めてステータスポイントが6、スキルポイントが9ある訳だ。

 更にルフに至っては26レベル分のポイントが丸々残っている計算だ。


「ユニ! 例のヤツ、こっちで勝手に操作していいか!?」

「例の……はいっ! 私のすべてはジオ様の物ですからっ」

「ルフ! お前の体! 俺に任せてくれるか! そしたら何とかなるかもしれねえ!」

「わふっ? よく分からないケド、いい。ジオは群れの第一位のオス!」


 ……だよなぁ。分かってねえよなぁ……だけど今はそれをしないと生き残れんのも確かな訳で……


「ええい、ルフの人生預かる! 3分だけ凌いでてくれ!」

「わかった、ジオ、任セろ!」

「了解です、ジオ様っ」


 俺はケミカルリザードの相手を二人に任せると、『窓』の中から『ポイント使用』を選択した。

 ちゃっちゃっとやるぞ。1人頭一分て所だからな。

 あー……まずはユニだな。

 選べるのは……ち、やたらと高等古代語が多いな。

 初級火魔法がこれだから……○級火魔法ってのと△級火魔法ってのがあるな。

 消費ポイントは6と9か。

 たぶん△級火魔法の方が、ポイントを多く消費するから格上なんだろうな。

 これを取得、と。

 ステータスは精神と賢明に全部ぶっ込む。+3ずつだな。


    基本値    実効値 

 精神 18+5   53

 賢明 17+4   50


 ん、こんな感じだな。

 で、次はルフだが……

ステータスの内容はこんな感じだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ルフ・ウォルフ  14歳

 総合    LV26

 獣戦士   LV26

 生命力ヒットポイント 416/416 

 魔力マジックポイント 130/130 

 CPチャクラポイント  12/12 


ステータス

    基本値    実効値 

 腕力 16     56

 頑健 16     56

 精神 10     35

 速度 17     60

 器用 11     39

 賢明  8     28


 残スキルポイント26 

 残ステータスポイント26


所持スキル

 ダブルトマホーク 立体機動 野生の勘(ワイルドセンス) 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 所々読めねえが……とりあえずステータスはダメージソースとなる腕力を中心に振る。


    基本値    実効値 

 腕力 16+10  91

 頑健 16+5   74

 精神 10     35

 速度 17+5   77

 器用 11+6   60

 賢明  8     28


「こんなもんだろ……で、次はスキルと……効果的なのはやっぱりポイントを食うヤツだろうな。だとするとこの辺りか」



半獣化ゾアントロピー』をポイント15、『グラビティインパクト』をポイント10でそれぞれ習得。

 ああ、半獣化ゾアントロピーみたいにルビが振ってあると助かるな。

 どうせなら高等古代語全部に振って欲しいもんだが。

 ……後は……スキルポイントは1ポイントだけ余ったが、取れるスキルが無いので後回しだな。


「で、最後は俺と……とりあえずステータスは腕力全振りだな」


    基本値     実効値 

 腕力 15+7+1   71


 ん、こんなもんだろ。スキルは……4余っているな。たった4ポイントで効果的なスキルが取れるとは思えねえが……ん、『弱点看破ウィークポイント』ってのが取れるな。とりあえず取っとくか。


「よし! 準備が出来たぞ! 新しいスキルや魔法が使えるようになっているはずだ、確認してくれ!」


 そう言いながらルフに代わって前衛に戻る。

 2人が自分の能力を把握する間、俺が持たせねえとな。


「凄い……私、中級魔法を飛び越して、上級火魔法が使えるようになってます!」

「! ルフ、獣化出来ル! 一族の伝説のスキル!! ジオか? ジオがルフに力くれタか!?」

「あー……まあ、そうだ。伝説やら上級やらは分からんかったがな……それで2人とも行けそうか?」


 ケミカルリザードの爪や牙を躱しながら2人に確認する。

 ……おっと、毒の息(ポイズンブレス)まで使ってきやがるのか。危ねえ危ねえ。


「行けル!」

「お任せ下さい!」

「よっしゃ、それじゃ一気にたたみかけるぞ!『弱点看破ウィークポイント』!」


 俺がスキルを発動すると、ケミカルリザードの首筋あたりが光り出す。

 スキル名からして、そこが文字通りケミカルリザードの弱点なんだろう。


「狙うのはヤツの盆の窪あたりだ! 狙えるか!?」

「はいっ! 行きますっ! 『火山槍ボルカニックランス』!」


 ユニが唱えた呪文は溶岩で出来たランスを作り出す物だった。

 ぐらぐらと煮えたぎったランスが、凄まじい勢いでケミカルリザードに突き刺さり、さしものケミカルリザードもその痛みに咆哮を上げる。

 ……おっと、ゲージがわずかだが削れたぞ。さすが上級魔法だな。

 更に連続して2発3発と打ち出される『火山槍ボルカニックランス』。

 この魔法は『炎弾フレイムボルト』のように実体が無い魔法と違い、溶岩というしっかりとした実体がある。

 しかも一回当たれば、溶岩が対象にへばりついて二次ダメージを与えることが出来るかなり凶悪な魔法のようだ。

 まあ、おかげでユニが魔法を放っている間は、俺とルフはケミカルリザードに近付けねぇんだが。


「これでっ5発っ……すみません、ジ、オ様……もう魔力が……」

「よし、良くやったユニっ……下がって休んでろ……後は俺とルフで!」

「ワフゥ……ルフ、トドメ、イク!」


 ユニが魔法で時間を稼いでいる内に、ルフの新スキル『半獣化ゾアントロピー』が発動していた。

 これは文字通り獣人がより獣の特徴を表に出した姿に変化する、と言うものらしい。

 ルフの口からは大きめの牙が生え、四肢が筋肉でみっしりと太くなり、短かった髪は風になびくほどになっている。

 そのせいで上手く喋れないんだろうな。


「ウゥ……『グラビティ・インパクト』ォォォォォォウォォォォォンッ!!」


 谷間に響くルフの咆哮と共に、漆黒の魔力を纏った片手斧がケミカルリザードの真上から突き立った。

 途端、凄まじい轟音と共にケミカルリザードを中心に直径5メートルほどの大地が陥没・・した。

 ……おいおいマジかよ。

 局地地震レベルの攻撃って事かい。凄まじいな。

 だが、おかげでヤツの体力は9割方削れたようだ。

 止めはいただきますかね。

 俺はぐいっと一口無限の酒筒(スキットル)をあおる。

 これで腕力の実効値は81まで上昇。

 そして『隠れ身』『俊足』『健脚』のコンボでヤツの背後から全力で『影撃』をぶちかます。

 もちろん狙うのは『弱点看破ウィークポイント』の効果で光っている一点だ。


 サクッ……


 鋼の皮膚を持つヤツに突き立てたにしては、あり得ない感触が俺の右手から伝わってくる。

 よく見ると、雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフは柄の根元まできっちり埋まっていた。

 『窓』には虹色に輝く【クリティカルヒット!】の文字が躍っている。

 ええと、なんだ、つまり……『会心の一撃』ってことか?


「グルォォォォォォォォン……!!!」


 断末魔の声だろう、ケミカルリザードは長く長く咆哮をとどろかせると、その巨体を大地に横たえたのだった。


「ジオ様っ! お怪我は? ご無事ですかっ!?」

「ジオ、凄いっ! やっぱり強イ!」


 ケミカルリザードが倒れるやいなや、すぐさま飛びついてきたルフと、後方から駆けつけてくるユニを両手に抱きとめてやる。


「あー……落ち着け落ち着け、どこも怪我しちゃいねぇ……っと、そういやあこいつ……『窓』の用意した魔物だってんなら……」


 確かあのときは幻のように消えちまったんだったか。


「ああっ! ジオ、獲物が消えル!」

「幻……だったんでしょうか……?」


 二人の声の通り、ケミカルリザードはわずかな光を発して蜃気楼のように空中に消え去っていく。

 ああ、やっぱりな。

 するとこの後は……


名有りの魔物(ネームドモンスター)〔ケミカルリザード(メタル個体)〕の討伐を確認しました。特別討伐報酬が送られます』

『〔1500ジット〕を入手しました。』

『〔メタルスキンマント〕を入手しました』

『隠し条件〔フルメンバー未満での名有りの魔物討伐〕達成により〔炎のお玉(ファイアーボール)スタッフ〕を入手しました』

『長期未討伐モンスター(最大期間)討伐特典により、プレイヤーに〔スキルポイント10〕〔ステータスポイント10〕が付与されます。』

『メタル個体の討伐により、20倍の経験値が付与されます』

『ジョブ解放条件を満たした為、プレイヤーのセカンドジョブ〔薬師〕が解放されました。』



 うおぉ……すげぇな。

 マジックアイテムが二つに、ポイントが10ずつ。

 おまけにジットと……薬師の知識まで流れ込んでくるぞ。


「ジオ! 凄いな! ルフ、トカゲ倒したらもっともっともっと強くナった!……でも、ジオそれよりもっと強くナった!」


 ん? ルフよりも……? ああ、そうか、『修練の指輪(トレーニングリング)』の効果か!

 メタル個体とやらで20倍の経験値×称号効果で3倍×修練の指輪(トレーニングリング)で2倍。

 単純計算で120倍?

 それとも倍率が加算されていって最後に経験値にかけられるのか?

 ……それでも25倍だ。半端じゃねえな。


 ……とするとレベルも……

 俺はふと気になって、窓の『すてーたすうぃんど』を確認してみた。


 ジオ・ウルマ    総合LV37

 ユニ・クラウベール 総合LV33

 ルフ・ウォルフ   総合LV36


 うお……めっちゃ上がってた……

 


着々と強くなっていくジオ。

この辺でやっとチートらしくなったでしょうか。

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