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谷、再び

だんだん投稿間隔が長くなっていっている気がします。

エンディングまでは続けますので、どうかおつきあい下さい。

 その晩、ルーキスを「麦と芋」亭の2階の部屋に寝かせ、俺達は家へと帰った。

 明日からは今日より少し難度の高いところでユニの修練をするつもりだ。

 疲れを残しちゃいけねえから、今日は早めにゆっくり休むつもり……?

 ……って、いや、ユニさん?

 何で夜着を脱ぐ?


「今日は……私のためにお祝いして下さったので……その、お礼、したいです……」


 妖艶な笑みを浮かべて、床に両膝を着き、そっと両手を俺の下半身に這わせるユニ。

 それがまるで骨の無い生き物のように蠢く。

 いや……だからな? 今日はゆっくり休……うぉ……これがっ……『閨房術』の効果っ……


 ユニ、恐ろしい子……っ!


         ※


 結局、昨夜は欲望に流されて本気で相手をしちまったな……

 だがまあ、幸いというか、『閨房術』の効果なんだろう、寝不足にしては体の調子は良い。

 これなら予定通り出発しても良さそうだ。

 とりあえずユニと共にギルドに顔を出し、数種類の魔物の討伐依頼と素材の回収依頼を受けておく。

 そして向かうのは……ある意味懐かしい『化鳥の谷』だ。

 ちょいと今朝は出発が遅かったので、馬を一頭、街の博労ばくろうから借り上げて向かうことにした。


「よーしよし、いい子だな。今日は一日よろしく頼むぜ」


 早速借りた馬にまたがり、ぽんぽん、と首筋を軽く叩いてやる。

 ふん、毛づやも良いし肌に張りもあるな。

 どうやら博労から借りたこの馬、当たりのようだ。


「よし、一気に谷の入り口までいくぞ。さあ、ユニ、手を出せ」

「は、はい、お世話かけます。ジオ様」


 ぐいっとユニの手を取って馬上に引き上げる。

 普段なら安全な街道でジャンタール平原を迂回するように近くまで行き、そこからジャンタール平原に入り化鳥の谷へ……と言うコースなんだが、今回は馬がある。

 コボルドなどに見つかっても一気に引き離せるから、直接ジャンタール平原を突っ切るように進む予定だ。


「そんじゃ、ま、行くか」


 俺はユニを両腕の間に抱え込むようにして馬に乗せると、馬首をジャンタール平原へと向けて出発したのだった。


 それからしばらく、ジャンタール平原を馬の疲労を考えて常歩なみあし速歩はやあしで交互に進んでいた訳だが……ちょっとおかしな事に気がついた。

 MAP機能に白い○が表示されているのだ。

 位置的には俺達の後方20メートル位か……確かこれは俺に対して中立的な存在を表すマークだったと思うが。

 馬をゆっくり止めるとマップの中の○も止まる。

 うーむ、これはやはり俺の後を付いてきているのは間違いないみたいだが。

 まあ、敵意は無いみたいだから……今のところはほっといていいだろ。

 しかし、まあ……大した身体能力だな。

 もうかなりの距離を馬について来ているぞ。


「ジオ様? いかがされましたか?」

「ああ、いや……何でも無い。それよりそろそろ化鳥の谷だ。気を引き締めて行けよ」

「……はいっ」


 俺は謎の追跡者のことはいったん棚上げして、化鳥の谷の攻略を優先することにした。

 草原の中に見えてきた川沿いに上流を目指していると、やがて両側が切り立った崖に変わる。

 そして更に進めばまるで陽炎のように空気がゆがんだ場所に出た。

 ここが本来の化鳥の谷の入り口だ。

 俺が落っこちた辺りは化鳥の谷のほんの一部分って訳だ。

 ここから先は馬では進めないので、近くの立木に馬を繋いでおく。

 そして改めてユニと化鳥の谷の入り口へと歩を進めた。

 すると、ぐにゅり、とまるでスライムの体内に入ったかのような感触が体を包む。

 ダンジョンと外界を隔てる結界だ。

 まあ、このおかげで魔物は滅多に外に出てこられねえんだが……毎回のことだが気色悪いったらねえな。

 そのまま強引に進むとぽんっといった感じで結界を突破出来た。ユニも無事に入れたようだ。


「ジオ様……ここで、私でお力になれるでしょうか……?」


 ユニが不安そうにそう問いかけてきた。

 本来ここは中級冒険者が数人のパーティを組んで攻略する所だからな、ユニの心配も分からんでもねぇ。

 俺が1人で生きて出られたのは(本当は何10回となく死んでいる訳だが)運が良かったのと『窓』のおかげだからな。

 だから、最深部まで行くつもりはないし、そう深くは入り込まない予定だ。


「心配すんな。この辺りの魔物はまだそう強くはねぇ……っと……おお、いたいた。ほれ、あれ見てみな」


 河の浅瀬で水面から顔を出しているトカゲ――牙大蜥蜴ファングリザードってやつだが、この化鳥の谷では一番の雑魚だ。

『表示設定』で確認すると


ファングリザードL13

 HP■■■■■■■■■■ 170

 MP■■■■■■■■■■ 50

 CP■■■■■■■■■■ 10


 と表示されている。

 ふん、予想通り、この辺りならユニの『飛扇の衣(フロートマント)』の結界を抜くこたぁねえだろう。

 確かアレの効果は「レベル15以下の攻撃を防ぐ」だったはずだからな。


「いいか、俺が適当に痛めつけてダメージとやつの関心を稼ぐから、『炎弾フレイムボルト』で遠距離からとどめだ」

「は、はい」


 両手でしっかりと杖を握るユニを残して『健脚』『悪路走破』を実行した俺は滑るように川岸のファングリザードへと近付く。

 後数メートル、といったところでファングリザードがこちらに気付き、威嚇の雄叫びを上げようとするが――遅い。

 俺はやつの顎の正面に立つのを避け、斜め前から雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフで一撃を入れた後、『炎弾フレイムボルト』の射線を開けるために飛びすさる。


「今だ、ユ――……おぉ?」


 ユニに合図を送ろうとした俺は、思わず蹈鞴たたらを踏んだ。

 ファングリザードはすでに肩口から胸下までを切り裂かれ絶命していたのだった。

 うーむ、切れ味良すぎるな、この包丁。

 まさか手加減に苦労するほどとは思わんかった。

 とりあえず普通のショートソードに持ち替えるか……いや、いっその事ショートボウの方がいいか。

 移動の手間も減るしな。

 無限の矢筒があるんだ、ユニと一緒に固定砲台やっていた方が効率が良いかもしれん。

 さて、となれば次の獲物を探すか。

 マップの窓のおかげでそこいらへんは楽だな。

 ……ん、マップの範囲内に5~6匹いるわ。


「ユニ、次はあそこだ。すまねぇな。今度こそ手加減するからな」

「はい。ふふっ」


 ま、失敗も全くの無駄じゃ無かったか。おかげでユニの緊張もとれたようだ。

 それからしばらく2人で牙大蜥蜴ファングリザード狩りに勤しむ。

 俺が先制で矢を射り、間髪入れずユニが『炎弾フレイムボルト』を撃ち込む。

 これで大体8割は削れるので、止めにもう一発矢を射てお仕舞いだ。

 一匹仕留めるのに1分とかからん。

 時たま、複数でかかってこられる時は手こずるが、ユニの『飛扇の衣(フロートマント)』はきっちりとトカゲ共の攻撃を防いでいるし、俺はそもそも奴ら程度の攻撃には当たる気もせん。

 それでいてこいつらはそれなりに稼ぎになるのだ。

 皮は蜥蜴革鎧リザードレザーアーマーの素材になるし、肉は鶏肉に似て美味。

 おまけにユニと2人だから素材は独占出来るし、アーススライムに比べればはるかに格上だから、レベルも現在進行形で急上昇中だ。

 いやはや良いことずくめだな。


「っと……トカゲ共が出てこなくなったな」

「……あれから2時間は狩っていましたからね。狩り尽くしてしまったのでしょうか?」


 いや、そんなことは無いはずだが……ダンジョンの中は自然界と違って定期的に魔物が湧き出る様になっている。

 このトカゲ共であれば30分もたてばまた湧き出るし、そもそもある程度小休止を挟みながら狩っていたから、狩り尽くすなんて事も無いはずなんだが、……?


「お、マップに敵対反応。右後方……っと、消えた?」


 不審に思ってマップをしばらく見ていると、沸いた先から魔物が何者かに狩られていっているのが分かった。

 その殲滅速度は異常とも言える。おそらく俺達二人を合わせたと同じ位のスピードだ。

 しかも、マップ上に俺達以外の反応は○一つしか無い。

 つまり、こいつはたった1人でトカゲ共を次々と狩っているのだ。

 やがてマップ上の敵対反応がすべて消える。

 ちっ、これで30分は暇になっちまったって事だ。

 …………お? ○がこっちに近付いてきてやがるな。

 方向からして崖の上……っと!


「って、あぶねぇなっ!」


 そちらを確認しようと顔を上に向けた時、空から大量の

何かが俺めがけてどさどさと降り注いだのだ。

 ……偶然空を見上げなかったらまともにぶつかってたぞ。

 この大量のトカゲ(・・・)に。


「お前ら、トカゲ好きか? ルフも好キだ。それ、ヤル」


 トカゲに続いて降ってきたのは白い毛並みが美しい白狼族の獣人少女――昨日酒場でも一緒だったルフ、だった。

 ……なるほど、草原からずっとついてきたのはこいつって訳かい。


「あー……確かルーキスんとこの……ルフって言ったか。こいつぁ、何の真似だい?」

「ん、頼みがあル。お前らトカゲ好きだったみたイだから、ヤル」


 いや、嫌いじゃねえが……特別大好きって訳でもねえんだがな。


「ワタシと戦え」


 うん、単刀直入で分かりやすいな……っておいっ! 


「行クぞ!」

「あぶねっ……馬鹿野郎、何しやがる!」


 ルフは両手に一丁ずつ片手斧ハンドアックスを持っている。

 それが突撃と同時に縦横無尽に振るわれたのだ。

 ……おいおい、まともに当たってたらマジに死んでたぞ。

 この谷で俺も3レベルほど上がってたから、かろうじて避けられたようなもんだ。

 ……しかしおかしいな……ルフのマップ上のマークはいまだ白い○だ。

 つまり俺に敵対心を抱いていないことになるのだが……?


「ジオ様っ!」

「ユニ、来んな! お前じゃ、とばっちり食っただけで即死だぞ!」


 ユニに警告しつつ更に避ける。ついでに『俊足』『健脚』を重ねて発動する。

 何しろ『表示設定』で確認したルフのレベルは26。

 俺もレベルが上がったとはいってもまだ22だ。

 ルフはそれよりも4上ということになる。


 「速い!? マダ速くなるノか!」


 そういうルフの双斧も、更に回転が速くなる。

 それを更に避ける、避ける、避ける、避ける!

 二人の体がまるで踊るように交差し続ける。

 こうなると、ユニの魔法では誤射してしまう危険があるから援護は無理だろう。


「なゼ反撃しなイ!? なぜ避けるだけカ!?」

「あほう、年端もいかねえガキを理由も無しにやれるか」

「ガキ違う! ワタシの名『ルフ・ウォルフ』! それにオトナだ!」

「おとなぁ~? いくつよ?」

「部族の成人の儀、終えた! ルフは14歳だ!」


 ……いや、思いっきりガキじゃねえか。

 そうは言ってもこのままじゃ埒があかないので、『俊足』をかけ直した後『隠れ身』を発動。

 ルフの背後に回る。


「後ろかっ!」


 って、なんでわかんだよ……ああ、匂いか。白狼族は犬並みに鼻が利くって言うからな。


「くっ、どこダ! 消えるのズルイ!」


 ……とは言っても、大体の見当しか付かないらしいな。

 思いっきり見当違いの所に斧を振り回している。

 俺はその隙にルフの足下にしゃがみ込み、斧の範囲外から思いっきり足払いをかけてやった。


「うぁっ!! ったぁ……」


 いっそ見事な位にすっころぶルフ。

 何しろ両手に一本ずつ斧を持っているもんだから受け身がとれない。

 俺はその好機を逃さず、両手に素早く蹴りを入れ、斧をはじき飛ばしてやった。


「ユニ! それを回収して離れてろ!」

「は、はいっ!」 


 ユニが俺の指示通り斧を持って離れたのを確認して、ルフの制圧にかかる。


「ち、糞ガキが! おとなしくしやがれ」

「くっ……おっさんのくせに力、強イ……んっ……どこ触ってル! あうっ……んぅっ」


 いや、どこって……背後からこう、左手でルフの腕を押さえて、右手で首をこう抱え込むようにして、だな……

 ……もしかして。


「首、弱いのか?」


 こちょこちょと首……というか喉の下を軽く撫でてやる。


「ひああああああ!?」

「お、やっぱりここが弱点か。こんな所まで犬と一緒なのか」


 力の抜けたルフに、更にこちょこちょと追い打ちをかける。


「い、犬ら、なイ。おおか、み……ひう、ら、らめぇ~」

「おお、狼な、狼狼……ユニ、『窓』からロープ出すから、今のうちに縛り上げちまえ」


 そうユニに指示を出しながらも、片手は途切れなくルフの喉をくすぐっている。

 こちょこちょ。こちょこちょ。こちょこちょ……


「ひ……あ、わふぅぅぅん…………」

「あの、ジオ様……たぶん、もうロープ必要ないか、と」

「お?」


 ユニの言葉にルフに目をやれば、いつの間にか地面に仰向けになって自分で服をめくり上げ、腹部を丸出しにしていた。

 あれだ、よく飼い犬をマッサージしていると、仰向けになり腹を晒して服従のポーズをする事があるが……あんな感じだ。


「わふぅん……」

「あー……もうダメですね。この、完全に逝っちゃってます。女殺しというか犬殺しというか……ゴッドハンドですね。まさに」


 ……心なしかユニの言葉が冷たいような気がするが。

 これは不可抗力だぞ。自衛に徹した結果だ。


 別に言い訳する必要も無いのだが、何となく決まりが悪くなって、一言ユニに声をかけようとした時、いつものごとくそれは唐突に聞こえてきた。




『称号〔神の手(ゴッドハンド)〕を得た』


『NPC〔ルフ〕の好感度がリミットブレイクしました。これ以降〔ルフ〕はパーティキャラクターとして使用出来ます』

『――プレイヤーのパーティ人数が限界数、6人以下なのを確認。〔ルフ〕は自動的にパーティへと編入されます。』

『以後、〔ルフ〕のステータスポイントとスキルポイントはプレイヤーが任意で割り振ることが可能となりました。』




 って、おい、いや、訳が分からんよ!?

 こいつ、さっきまで俺を殺そうとしていただろうが!?

 それでどうして好感度がどうたらという話になるんだ?


「むふー……わふん」


 未だに幸せそうな顔をして気絶しているルフを見て、俺は思わず頭を抱えたのだった。



「ハーレムにして」「ハーレムにしないで」等のコメントやメッセージがたびたび見受けられますので、お答えします。

当作品は広義ではハーレム物ですが狭義では違います。

つまり、肉体関係までいくパーティメンバーは今のところユニだけの予定ですが、ジオに好意を持つ登場人物がルフのように加入する可能性があると言うことです。

それは友情であったり恩であったりするかもしれませんが、ヒロインという意味で言えば今のところユニだけです。

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