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育成

ユニの冒険者デビュー

 さて、昨日はちっと飲み過ぎて、衆目の面前でユニに不埒なことをした……かもしれん。反省。


 うむう。途中から酒が足りなくなって無限の酒筒(スキットル)に手を出したのが悪かった。

 度数70位あるんじゃねえか? コレ。


 まあ、それはとにかく、今日からは本格的に冒険者として再スタートだ。

 ……昨日もそんなこと言っていた気がするが。


「でな、ユニ。ギルド仕事での基本は魔物狩りだ。中でも定期的に需要があり、初心者向けなのが『アーススライム』狩りだ」

「はい、ジオ様。アーススライムというと……その体が良質の肥料になるという……」

「おお、そうだ。こいつを焼いて炭にした物を畑にまくと、なぜか作物の出来が良い。農家などから常に一定量の需要があるな」


 俺は化鳥の谷から2キロほど南に位置する湿地帯へユニを連れてきていた。

 ユニを魔物狩りに慣れさせるため、まずはアーススライムから、と言う訳だ。

 こいつは引き取り値も安いがとにかく弱い。

 練習には最適だろう。


「それで、準備は大丈夫か?」

「は、はい。ですが本当によろしいのでしょうか……私がこんな装備を付けて……」


 現在のユニの装備は木の杖に麻の服上下。

 それに加えて魔法道具の『飛扇の衣(フロートマント)』に『修練の指輪(トレーニングリング)』だ。

 魔法道具は二つとも『エクスチェンジ』で手に入れた装備だな。

 ちなみに俺はレンジャーアーマーセットとウィングブーツ、雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフに、ユニと同じ修練の指輪(トレーニングリング)を装備している。


「かまわねぇよ。そいつらの『説明』が本当ならその方が効率的だろう」


『アイテムうぃんど』に格納した状態の物を押したままにすると、それの詳細な『説明』が文字として浮かび上がるのに気付いたのはユニだった。

 なんだこのかゆいところに手が届く設計。いや、便利だけどな。


「は、はい。ありがとうございます……ジオ様からいただいた(おそろいの)指輪……大切にします、ね?」


 左手の薬指に付けた『修練の指輪(トレーニングリング)』を嬉しそうに光にかざすユニ。

 何の飾りっ気も無い銀の指輪がそんなに嬉しいのか……

 うむぅ。たまにはちゃんとした装飾品でも買ってやった方が良かったかね。


 ……さて、ここで『エクスチェンジ』で手に入れた品の数々をいったん整理してみようか。


 まずは対イーデン戦の時に使った無限の酒筒(スキットル)

 『エクスチェンジ』で手に入れたレア級アイテムで、無限に酒が湧き出る魔法道具……

 世の酒好きがよだれを垂らしてほしがる一品だな。

 更には一口飲めば、腕力+3と賢明-3の補正が10分間付与される。

 体感だが、市販品の糞高ぇ身体強化薬ブースターよりも効果は上に感じた。

 付与効果が付くのは一日5回までと制限されるが、それでもそのレベルの付与が無限に使えるってのは破格の能力だ。


 次はユニに装備させているレア級アイテム『飛扇の衣(フロートマント)』。

 マント、と言ってはいるが実際の形は細長い扇形の数枚の金属の板だ。大きさはカード位か。

 これらは装備者の背後に常にふよふよと浮いていて、装備者に対して攻撃があると結界を自動展開して防御、無効化する。

 ただし、無敵という訳ではなく、無効化出来るのはLV15以下の敵の攻撃のみ。

 それ以上は普通に攻撃を通すらしい……一体どんな理屈なんだか。


 そして同じくユニに装備させているレア級アイテム『修練の指輪(トレーニングリング)』。

 これは文字通り成長を促す効果があるらしい。

 これはダブったので俺も装備している。

『説明』には取得EXPが2倍と書かれていたが……EXPってのがよく分からん。

 たぶん文脈から察するに、経験の積み重ねを数値化した概念らしいが。


 そして『エクスチェンジ』チュートリアルで手に入れたレア級アイテム『雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフ』。

 これは攻撃時に雷の追加ダメージを与えるらしい。

 やたら切れ味が良く、片手小剣扱いなので、俺が使うことにした。


 そしてコモン級アイテム『癒しの宝玉(ヒーリングオーブ)』。

 半径5メートル内の任意の6名に癒しの魔法をかける事が出来る。残念ながら使い捨てだが、5個セットだったので非常時には重宝するだろう。


 最後はコモン級アイテム『結界石』

 こいつは普通に魔道具屋で売っているな。魔物の嫌う波動を出して近寄らせないようにする道具だ。

 それほど強力な忌避効果は無いから、意識的に入ろうとすれば入れる位のものだが、大抵の町や村はこれを境界線付近に沿って埋め込んでいる……それの10個セットだ。


 まあ結果としてはSRスーパーレアこそ出なかったがレアはよく当たった方だろう。

 と言うか出過ぎだ。

 こんなん装備している新人冒険者&中級冒険者なんぞいやしねえぞ。

 2級~3級……一流冒険者と呼ばれる奴らなら持っているかもって位だな。

 はっきり言ってアーススライムなんぞ時間さえかければユニ1人でもどうとでもなるってもんだ。


「……と、ここら辺だな」


 じめついた柔らかい土地にアーススライムは群生する。

 ここいら辺は小さな沼地が点在していて、アーススライム狩りの穴場なのだ。

 どうして穴場なのかと言えば……足場が悪い上に街からも離れており、せっかく狩ったスライムを運び出すのに手間がかかるからで……。

 それくらいなら近場の水辺に行けば、代用品のアクアスライムもそれなりに狩れるしで、ここいらのアーススライムは放置されている訳だ。


「よし、まずは餌だな」


 スライム種は有機物をその体内で溶かして吸収する。

 有機物なら何でも食べるみたいだが、特に肉や魚などの生臭物なまぐさものが好物らしい。

 ここいらなら沼地の小魚などを食べているのだろう。

 ならば……これが使えるかもな。

 俺は腰の鞘から雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフを抜き出すと、近くの沼の水面に刃を沈める。


「ふんっ」


 そして雷鳴の包丁ライトニング・キッチンナイフに気を通すと、青白い電撃がその刃から湖面に走った。


「あ、すごい……」


 次々と水面に浮かんでくる小魚を見て目を丸くするユニ。

 昔、魔術師と組んで仕事をした時、湖沼地帯で戦闘になったことがあった。

 その時、雷撃ライトニングの余波を受けて、魚が水面に浮かんだのを思い出してやってみたのだ。


「ふむ、予想以上に上手くいったな……よし、ユニ、魚を集めてくれ。スライムをおびき寄せる餌にする」

「はい、ジオ様」


 俺の指示に従って、ユニは水面に浮かんだ小魚を小枝を使ってかき集めている。

 その間に俺は燃えやすい枯れ枝や枯れ草を集める。

 で、それを地面にまとめて置く。

 こんもりと小山になったそれらの上にユニが集めた小魚を置く。

 何匹かは捌いてワタを出しておくと良い感じだ。

 そしてそのまま放置。

 俺たちは少し離れたところで様子をうかがう。


 ……やがて20分もたっただろう頃か。

 周辺からうぞうぞとアーススライムが集まり始めていた。


「……よし、そろそろだな。ユニ、『着火ティンダー』は出来るな?」

「は、はい。でも攻撃に使えるほどの魔法は……」

「ああ、そこまでは求めん。枯れ草に火をつける位は出来るだろう」

「はい、それ位なら……」


 着火ティンダーは魔術師がその才の有無を計るためのごく簡単な術で、魔術師の卵なら誰でも使える程度の魔法だ。

 というかこれも出来ないやつはそもそも魔術師になれない。

 ユニには女魔術師ソーサリスとしての才があるし、もちろん使える訳だ。

 俺は十数匹のアーススライムが魚の上に覆い被さった頃を見計らって、無限の酒筒(スキットル)の中身をそこにぶちまけた。

 アーススライムは一瞬、体を小さく震わせたが、魚を貪ることを優先したようでこちらには襲ってこない。

 俺は素早くぶちまけた場所から飛び退き、ユニに合図を送った。


「いいぞ! ユニ、今だ!」

「はいっ! 『着火ティンダー』!!」


 枯れ枝、枯れ草の山に度数の高い無限の酒筒(スキットル)の酒を振りまいてあるのだから、まあ燃えること燃えること。

 アーススライムはスライム種の中でも火に弱く、あっという間に燃え上がる。

 水気たっぷりに見えるその外見からは意外だが。

 炎が静まるまで20分ほど待ってから近付くと、スライム達はそれぞれ拳大の真っ黒い塊のようになって転がっていたのだった。


「おー大漁大漁」


 ぽいぽいと片っ端から『アイテムうぃんど』に仕舞っていく。

 嵩張らないわ重くないわで本当に便利だな、おい。


「……すごいですね。魔法もろくに使わずにこんなに簡単に狩る方法があるんですね」


 スライムは雑魚とはいえ物理攻撃に対する耐性を持っているからな。

 本来は魔術師と組んで狩るのが効率が良い獲物だ。

 だが、今やったように油やアルコールを使って狩れないこともない。

 コスト的に割に合わないのでやらないだけでな。


「で、どうだユニ。LVは上がったか?」

「は、はい、えーと……あ、一つ上がってます!」


 ユニが俺が表示させた『窓』を見てはしゃぐ。

 うむ、成長が数字という形で目に見えるってのも良いな。

 努力を重ねるためのモチベーションになる。

 とにかくこれでユニのポイントがまたひとつずつ増えた訳だ。

 とりあえずステータスポイントは魔法威力に関係しそうな『賢明』に1ポイント振って、スキルポイントは5ポイントの初級火魔法を取らせることにした。


「あ……ら? 変ですね。スキルポイント、1余りました……」

「何? ……本当だな。確か初級火魔法は5ポイント必要だと思ったが……4ポイントになっているな」


 うーむ。どういうことだ?

 ……………わからん。


「……うーん、ユニ、とりあえずもうしばらく訓練を続けてみるか。今のままでは情報が少なすぎて判断できん」

「……そう、ですね。分かりました」

「それと、せっかく火魔法を覚えたんだ、着火ティンダーの代わりにそれを使って練習するぞ」

「はいっ」


 ぐっと拳を握って張り切るユニ。

 それからのスライム狩りは更に効率よく進んだ。

 ほとんどアルコールの罠も必要ない位の火力をユニの『炎弾フレイムボルト』がたたき出したのだ。

 ……すげえな。スライム2~3匹を貫通してやがる。

 賢明と精神が高いってのはこういう事なのかね。


 その、初めての魔法らしい魔法に、ユニが興奮し、その後3時間ほども「俺が魚を捕って餌にし、ユニにスライムを狩らせる」というルーチンワークを続けることになったのだった。


「ふう、とりあえず今日はこの辺にしておくか」

「ふ、ふぅ……は、い……そう、ですね」


 休憩を何度か挟んだとは言え、ユニはほぼ呪文を唱えっぱなしだ。

 慣れない魔物狩りでもあるしな。この辺で切り上げた方が良いだろう。

 ユニのレベルももう一つ位は上がったかも……し、れ……おお?


「……ユニ、これ見てみろ」


『窓』を表示させてユニに見せる。

「……LV……9ですね」

「おう……というか俺も1個上がって19になっているな」


 おまけにユニにはいつの間にか『魔力回復促進』のスキルまで覚えているぞ。

『窓』を使えるようになってから、冒険者仲間のLVも確認してみたが、ユニのLVはギルドランク8級位に相当する。

 初心者以前の10級からほんの3時間少々で8級相当ってあり得ねぇだろう。


「いくら修練の指輪(トレーニングリング)を付けているからって強くなる速度が異常じゃねえか?」

「んぅー……と、たぶんそれはジオ様の『称号』のせいかと」

「あん? 称号って……要は二つ名みたいなもんだろ? そんな効果あんのか」

「確かそれっぽい『導く者』って称号がありましたよね? おそらくですが、アイテムウィンドウの時みたいに称号部分を押しっぱなしにすれば詳細が表示されるんじゃないでしょうか」


 ユニの言葉に半信半疑ながら『窓』の中の称号部分を触ってみる。

 すると―― 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『不死者』 

 HPの自然回復に+50%の上昇補正。


『不屈の挑戦者』

 同一ボスに敗北、もしくは逃走するたびにそのボスに対して+5%ずつ被ダメージが下がる。(最大50%)


『導く者』

 自身、及びパーティメンバーに対して取得経験値が3倍。


『ガラスの腰』

 ダンジョン攻略後5%の確率で状態異常『ギックリ腰』に。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おお、すげえ!

 すげえけど……『ガラスの腰』は正直いらんかったわ……


 微妙に残念な気分になりながら、俺達は帰路についたのだった。




おっさんと腰痛は切っても切れない仲なのです。

ちなみに頑健を上げる前は発症確率が10%でした(笑)

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