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ずっと近くに

 

 学校の裏庭にはだれもいなかった。すみっこのベンチにこしをおろす。


 あー。今日も夕焼けがきれい。 

 

 あたしは、かばんのなかにたたんであった応援幕をひろげて、ニセ柏木くんに話しかけた。

 別にだれかに聞かれても、そんなことどうでもいい。そんな心境だった。


「なんか、やっぱりねってかんじの結末だよね」


「気にすんな! あんなやつたいした男じゃない。どうせなら俺くらいイイ男と付き合え!」


 期待したとおりの返事がかえってきてうれしい。


「ふふ。ありがと。いがいと大丈夫」


 ふしぎと、悲しくはなかった。負けたかんじもしなかった。

 今回は、柏木くんのためにあたしが一番がんばった。付き合ってる谷口さんよりも。

 そんな自負があったからかもしれない。


 それよりも、あたしには気になることがあった。


「無事に終われたの、あんたのおかげ。ホント、ありがとう」


「うむ。礼ならもっと言ってくれ」


「もう、すぐ調子にのるー」


 自分で自分をほめるみたいだけど、たしかに柏木くんよりもずーっといいやつかも。

 

 今日の夕焼けは、朱一色。きれいだけど、ちょっとさみしい感じがする。


「あのさ、ひとつ気になってることがあるんだけど、いい?」


「なんだ?」


「こういう話ってさ、悩みごとが解決したらしゃべらなくなっちゃうってオチが、定番だよね?」


「……しゃべらなくなるのは当たってるな。理由ははずれだが」


「うそでしょ……。やだ。今更そんなのひどいよ」


 また一人きりになっちゃうなんて。

 そう考えたとたん、目がつんと熱くなった。


「まあ、安心しろ。俺だってしんみりした別れとかは嫌いなんだ」


「それなら、ずっとこのままでいてくれればいいじゃん。理由ってなんなの?」


「おまえのそばから離れるからだ」


「そんなの、あたしが捨てなければいいだけじゃん!」


「そういうわけにはいかない。決まってるからな。お、そろそろ時間だ。じゃあな。話したくなったら、いつでも会いに来いよ」


「会いに来いって、どこへ……」


 そのとき、ふいに右肩に手がおかれた。


「きゃあ!」


 びっくりしてふり向く。立っていたのは、コウだった。


「大丈夫か?」


 あたしは涙をぬぐいながらうなづいた。

 やばい……。しゃべってたの聞かれてたよね。


 コウは、べつだん不審がってもいない様子で、となりにこしをおろした。


「よかったな、バスケ部勝てて」

「ホント、応援したかいがあったよ」


 あたしは、あわてて応援幕をたたもうとしながら、笑顔でこたえた。


「ちょっと待って。それ……」


「え?」

 

「俺にくれないか?」


 一瞬、意味がわからなくて、あたしはその場にかたまった。


「こ、こんなの、もらってもうれしくないでしょ? これ柏木くんだし、へたくそだし、もうボロくなっちゃったし……」


「いいから。どうせ捨てるんだろ?」


 そう言って、コウは応援幕をあたしから奪うように、ひょいと持ち上げた。


 そのとたんハッと気が付いた。

 やばい、イラストの横には、あの痛い独り言も書いてあるんだった……!


「ちょ、ちょっと! 見ない、で……」


 ときすでに遅く、コウはその落書きをじっと見ていた。

 どうしよう、はずかしすぎる! 絶対あきれられちゃう……。


 うつむいていると、コウは、ふふっと笑って、あたしの頭をなでた。


「気をつけて帰れよ」

 

 コウは立ち上がって、一人で校門のほうに歩いていった。


 その後ろ姿を見て、気が付いた。

 ニセ柏木、だれかに似てるなってずっと思ってたんだ……。


 なんだ、あたしの友達は、ずっとまえから、こんな近くにいたんだ。


 あたしは立ち上がって、コウのあとを追った。


「待って! 一緒に帰ってもいい?」


 答えを待たずに、となりに並ぶ。


 肩にかけられたコウのかばんからは、折りたたまれた応援幕のかどがはみ出ていた。


 絶対会いに行くからね、ニセ柏木くん!


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