決意
あたしは、谷口さんのことが正直、ちょっとこわかった。
悪い人ではないとおもうんだけど、とにかく、なんでもズバズバものを言うから。
彼女がいるグループも、ハデな大人っぽい子たちばっかりで、なんとなく近寄りがたい。
でも、今日はがんばらなくちゃ……。
学校にむかう道を歩きながら、自分をはげます。
「そんなに緊張するな。おなじ人間だ。話せばわかる」
ニセ柏木くんが、通学かばんのなかから話しかけてきた。
「うん、そうだよね。って、外ではしゃべっちゃダメ!!」
おいてきてもよかったのに、連れてきてしまった。
うっとうしいけど、なんとなく心強い気がする。
かばんと話してる危ない子だと思われないように気をつけなくっちゃ。
昼休み、早めにお弁当をたべて、彼女の席に向かった。
まわりには、同じグループの子が三人集まって、ご飯を食べながら楽しそうにおしゃべりしている。
「あの、谷口さん」
と話しかけると、みんなで一斉にギロっとにらみつけてきた(そんな気がした……)。
「応援幕のことなんだけど、代わりの人ってだれか見つかった?」
「んー、まだ。今探しちゅう」
「あのね……、あたしにもう一度、やらせてくれない?」
全員がきょとんとして顔を見合わせた。
なんて断ろうか、みんな言葉につまってるってかんじ。
うう、ヤだなぁ。でも、ここでくじけちゃダメだ!
「あと一か月、精いっぱい練習するから。お願い……!」
胸のまえで手を合わせて、必死にたのみこんだ。
すこし黙ったあと、谷口さんはコクリとうなづいた。
「わかった。でも、ひとつ条件があるんだけど、いい? 期限は三週間にして。そのときダメだったら、小崎さんが責任もって、代わりの人探してきてくれる?」
「うん! 約束する。ありがとう」
谷口さんは、にこっと笑った。
自分の席にもどろうとすると、うしろから、
「期待してるよ」
と声がきこえた。
やっぱり彼女、悪い人じゃないんだ。
歩きながら、ちらっと柏木くんの席を見た。まわりの男子と話しながら笑ってる。
はあ、やっぱりかっこいいな。あたしがすることで柏木くんに喜んでもらえたらすごくうれしい。
家に帰るとすぐ、まえに谷口さんがくれた柏木くんの写真をとりだした。
かっこよくシュートを決める瞬間の写真。
よーし、今度こそかっこよく描いてやる!
意気込んで、さっそく模写しようとすると、ニセ柏木がしゃしゃり出てきた。
「ちょっと待て、おまえは基礎がぜんぜんできてない。人に見せられる絵を描くなら、ただ好き勝手に描いてたってダメだ」
うぅ。くやしいけど、そのとおりだ。
「ネットで調べてみろ。たくさん出てくるだろ?」
“人物の描き方”と検索すると、たしかに描き方を指南しているたくさんのサイトが出てくる。
一番めのページをざっと見ただけで、絶望的な気分になってきた。
こんなにこまかく勉強しなきゃいけないものだったんだ……。
今までの自分が、いかにいい加減な書き方をしていたのか思い知らされる。
「なんか、先が見えないんだけど」
「最初はそんなもんだって。安心しろ、俺がついててやる」
「ついててくれたって、なんもできないじゃん」
「忘れたか、俺は応援幕だぞ!」
そう言って、フレーとか、イケーとか、なんとも様にならない応援を始めた。
なんか逆に不安になる……。
たった三週間じゃ、うまくなるっていってもたかが知れてるのはわかってる。
けど、やれるだけやらなくちゃ!