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最悪の日

 放課後、あたしは教壇のうえに仁王立ちにたっていた。


 目のまえには、クラスメイトの人だかり。

 その全員が、あたしに視線をそそいでいた。


 ふだん目立ったことなんてないあたしが、これほど一斉に注目を浴びるのははじめてだ。


 両腕をピンと横にのばして、応援幕の両はしをぎゅっとにぎりしめる。

 バスケ部の柏木くんのための応援幕。

 たった一人で、一週間かけて描きあげたそれを、みんなに披露しているのだ。


 もうどれくらい、この姿勢でいるだろう。たった十秒くらいかもしれない。

 でもあたしには、信じられないくらい長くかんじる。

 

 だって、だれもしゃべってくれないんだもん……!


 みんななにも言わずに、この応援幕をただじっと見てるだけ。


 どうして? どうして?


 ああ、もう、こわすぎるよ。お願い、なんでもいいから、だれかなにか言ってぇ!


「……似てなくない?」


 やっとそうつぶやいたのは、谷口さんだった。女子のリーダー的存在の子。

 あたしがイラストを描いてることを知って、応援幕のことを頼んできたのも、彼女だ。


 それを皮切りに、場がざわめき始めた。


「これ、柏木くん?」

「えー見えない」

「てかぶっちゃけ、へた……?」


 だれかのその一言で、クスクスと笑いがおきた。

 うそ、いつも一緒にいるグループの子たちも笑ってる……。


「腕の曲がりかた変じゃない?」

「なんか色づかいも全体的に汚いかんじ……」

「正直、もうちょっとうまいのかと思ってた」


あはは……、みんな、容赦ないな。


「小崎さん、せっかく描いてもらって悪いんだけど、ちょっとこれは、つかえないかな」


 谷口さんが、腕組みをしながらそう言った。

 みんな、落胆の表情をかくそうともしない。


「ああ、どうするー? せっかくクラスのみんなで応援するって決めたのに」

「試合まであと一か月しかないよ。ほかに描ける人いる?」

「うちのクラスにも美術部がいればねぇ」


 ナイフみたいに先のとがった言葉が、ぐさぐさ胸を突き刺してくる。

 なにも言いかえせない自分がみじめで、情けなくて、悔しい。

 はぁ、泣きそう。


「ゴメン、ゴメンね。お役に立てなくて」


 へへ、とみじめに笑いながら、視線をさけるように目をふせた。

 応援幕を丸めながら、すごすごと教壇を降りる。

 ……このまま消えちゃいたい。


かばんをひっつかんで、逃げるように教室を出た。


「おい、小崎!」


 廊下で、うしろから呼び止められた。

 声で、だれかすぐにわかった。幼なじみの矢島康コウだ。


 ……悪いけど、今はだれともなにも話したくない。


 あたしは、ふりかえりもせずに、足ばやに学校をでた。


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