第6話 過去
数か月ぶりですすみません……
オーバルックから火星周辺に未確認体が出現したことがヴェルディアに伝達されると、すぐにATRM訓練所にいる操縦士たちのもとに伝えられる。アトルム操縦士は44名いるが、重複した出現に備え、2班に分けていた。特別な場合を除き一班22名で訓練を受ける。
その日はいつものように何事もなく、シュウたちが1日の訓練を終えようとした時、ヴェルディアから緊急出動の指令が入った。シュウたち22名はすぐに出撃準備に入った。訓練で鍛えられていただけあって、出動までに数分とかからなかった。
訓練所からのびている滑走路から離陸し、大気圏を抜けたところでワープをする。
火星までの距離などまさに一瞬だったが、火星に到着すると一同唖然とした。
「なんだこれ……」
数が多すぎた。
俺が呆気にとられていると、通信が入った。
≪アルマットより各人へ。これより作戦を開始する。対象はあくまで撃退である。無理な戦闘は避けるように。その後、全員で地球に帰還する。以上!≫
その通信が終わると仲間たちが笑っていた。
≪おいアルマット!んなかっけーこと言ってんじゃねーよ。つか似合わなすぎ≫
≪はぁ!?ダイ!俺はリーダーとして当然のことを……≫
≪本当ですよ。ガレキならまだしも、アルマットがそんなこと言うなんて、私は鳥肌が立ちました≫
≪イ…イクト!?≫
≪まったくだ。アルマット君。僕に憧れる気持ちもわかるが……≫
≪憧れてねーよ!!≫
ダイからの通信にアルマットは怒るが、イクトとガレキが割り込んだことによりヒートアップした。
≪みんな、アルマットをからかうなよ……ッ≫
そこで必死に笑いを堪えて言う通信が入った。
≪おいニッチ!笑ってんじゃねーよ!≫
「まぁまぁみんな落ち着いて。みんなで頑張ろうよ」
俺は通信を聞いていて何故かそう言いたくなった。
≪≪≪≪お前が(あなたが)言うなよ(言わないでください)≫≫≫≫
アルマットは22人の中でリーダー的な存在だった。なんだかんだ言ってダイもイクトもガレキもニッチも他のみんなも彼のことを信頼している。もちろん俺も。それは凄いことだと思う。だからこそ、また全員で笑いあうということが今の俺たちにはできる気がした。必ず帰ろう。
そう決意し、22名の操縦士たちは戦闘態勢に入った。
未確認体に物理攻撃が通用しないことはこれまでの戦闘で確認済みだ。危険は伴うが、接近戦に持ち込むのが手っ取り早い。もともとアトルムには対未確認体武器が装備されている。それを使えば少ないリスクで敵を倒せるはずだ。戦闘を開始してか数分もしないうちに敵の数が増えている気がした。
目の前の未確認体を撃退し、ふとフロントモニターの右端にある仲間の位置情報を見る。
「……ダイ?おいダイ!応答してくれダイ!!」
モニター上のダイの機体だけその場から動かずに未確認体の攻撃を受けていた。
≪…シュウ…みんな…わりい…もうこの機体うごかねぇ≫
いつも明るいダイのとても辛そうな声が通信機から耳に入った。
≪おいダイ!何言ってんだ。全員で生きてかえるんだろ!?≫
≪そうですダイ君!私たちは帰らなくてはいけないのです≫
アルマットとイクトが戦闘を繰り返しながら通信した。
俺は「諦めるな」と叫びダイのもとへ全速力で向かった。
≪みんな…生きてかえ――≫
ダイの声が、機体が、命が、爆発の轟音と共に消えた。
「――な」
フロントモニターからダイの名前と、機体のアイコンが消えた。それからだ、仲間が死んだことにより冷静さを欠いた仲間たちが次々と未確認体の攻撃により死んでいったのは。