第3話 親しみ
毎週日曜日に投稿する予定でしたが、定期試験直前のため、少し早めに投稿します。
急いで打ち込みましたので、誤字脱字がございましたら、ご指摘ください。
夏紀の声で一斉に愁に視線が集まる。昨日とは違う雰囲気で明らかにおかしい。その視線の先の愁は緊張したように真っ青な顔をしていた。この雑誌に何かあるのだろうか。夏紀は気になり、再び手元のそれに目を向けた。
「笠倉君……これって?」
椅子に腕と足を組み座っている太一に問いかける。周りにはクラスのほとんどが集まっていた。彼はクラスの中心的存在なのだ。彼が持ってきた雑誌に今目を通しているわけだが、その雑誌には、宇宙の写真が載せられていた。よく見ると星々と混じって無数の白い破片のようなものが宇宙に散らばっている写真だった。写真の左下には小さく『無人監視機体オーバルック撮影:宇宙戦闘用機体アトルム』とあった。記事には未確認体についてと、ヴェルディアについて書かれていた。これはその一部である。
【日本には、TSSP(The Solar System Protection:太陽系保護)という会社があり、その名の通り「未確認体」(太陽系以外の銀河系からくる宇宙人のような存在と言われているが諸説あり)からアトルムという戦闘機体で8惑星を守っている。無人監視機体オーバルックは、アトルムの操縦士にとって要となるもので、それは人工衛星のような形をしており常に海王星より外回りを旋回している。出動したアトルムの機体にはGPSが搭載されているため、オーバルックが生命反応とGPSセンサーで感知すると、その情報が地上から指示を出す施設ヴェルディアに伝わる仕組みである。今回出動したのは、22名。しかし、「未確認体」の攻撃により21名の死亡を確認の後、死亡確認されていない1名の行方は未だ不明なままである。いずれもたった2つの「未確認体」によるもの。出動待機していた残りの操縦士28名による撃退が成された後、TSSPは現在も行方不明の操縦士を捜索中】とあった。
その記事の下には21名の亡くなった操縦士の名前一覧があった。左端には、行方不明者の名前と顔写真があった。
【クサナギ シュウ】
「クサナギ……シュウ?どこかできいた名前だね……」
そうつぶやいたのは長身の久坂基晴だった。夏紀はふと気が付いた。隣にいた少年と同じ名前だった。
「まさかね」
そう言いながら、丸く切り取られた顔写真を見る。しかしそれは間違いなく愁の顔だった。オッドアイ。顔と特徴まで同じな同性同名はそうはいない。皆それに気づいていたのだろう。だから確認をするために彼が登校してきた彼を見た。そして確信した。
「草薙くん……」
夏紀は振り返るように愁の方に身体を向けた。彼は何かに怯えたような表情をしていた。彼女はその瞬間心の底から自分が恥ずかしいと思った。知られたくない過去を詮索されるのは誰にだって嫌だ。そのことを忘れていた夏紀は愁に聞こうとした。愁に頭を下げながら言う。
「草薙君!ごめんなさい!!私、草薙君のことをもっと知りたくて聞かれたくないようなことも聞こうとして……。最低だよね。辛いなら話さなくていいよ。私達も何も聞かないから」
それは紛れもない本心。しかし、愁は辛そうに口を開いた。
「……如月さん。ありがとう。でも、いつかはみんなに話そうと思ってたんだけど、まさかこんなに早いとはおもわなかった。だから、もう少し待ってて。そしたら、必ず俺から話すから。皆、今は何も聞かないでほしい」
彼は、クラスのほとんどが集まってる、みんなが彼を見ている中で、言った。少し複雑そうに。しかしどこかほっとしたように。
「草薙愁君だったよね。大変だったんだねって言うのも無責任な気がするけど、俺は君のことが少しでも知れてよかったよ。ごめんね。俺たちは外見だけで君を避けたんだ。だけど、せっかく同じクラスになったんだ。仲良くなろう。俺の名前はもう知ってるかもしれないけど、久坂基晴。みんなにはモトって呼ばれてる。よろしくね愁君」
久坂基晴は、自己紹介するためにほんの少し遠回りをした。すると周囲の生徒たちから「悪かった」や「よろしくな」などの声が漏れる。本当はクラス全体がそうしたかったのではないかと思う程。その反応に驚いたのか、愁は目を丸くした。
「みんな……ありがとう!!よろしく」
そう言って、愁の周りでは笑顔が零れていた。これは夏紀にとっても愁にとっても嬉しいことには変わりなかった。
1名を除いては――――