第1話 信じる
「――――――――!!?」
宇宙戦闘用機体アトルムの中から、グランドグラス越しで見たのは惨状だった。仲間の機体がズタズタにされ、爆発とともに傷だらけの身体が、空しく無重力の宇宙空間に放りだされる。そんなのがそこかしこで起きている。現在、人類が相手をしているのは、未知の生態“未確認体”。宇宙で繰り広げられているのはまさに『宇宙戦争』だった。
仲間の死を目の当たりにした俺ができたのは、唯一の酸素空間に響く嗚咽だった。
21人の仲間は、この広い宇宙に散ったのだ。
それは突然のことだった。如月夏紀が通う都立星城高校の2-2の教室に朝のホームルームのために担任の柳田利弥が来るなり言った。
「突然だが、転入生を紹介する」
柳田の合図と共に教室の前の扉がガラガラと鈍い音をたてて開く。クラスは突然のことでざわついていたが、すぐに静寂へと変わる。黒板の前に立つ少年の髪は銀色に輝いていた。それだけでもクラスを静めるには十分だった。しかし、少年はさらに、瞳の色が左右でことなっていたのだ。俗に言う“オッドアイ”というやつだ。
「草薙愁です。親の都合で転校してきました。よろしくお願いします」
軽く会釈した短い銀髪がゆれる。愁は優しく微笑んだ。夏紀にはその瞳の奥で悲しんでいるように見えた。
頬杖をつきながらそう考えていると、柳田は彼の席を窓側のいちばん後ろ(=夏紀の左隣)の席を指定した。
転入生が来たというのに、休み時間のクラスはいつも以上に静かだった。彼に警戒しているとかではなく、戸惑いだろう。ただ周りに合わせる人間が多いこの教室で、みな率先することを躊躇うのだ。
「草薙……愁君だっけ?私は如月夏紀。よろしくね」
夏紀は1時間目の授業が終わった休み時間に隣に座る愁に声をかけた。同情とかではなく彼に興味を持ったから。
「よろしく。如月さん」
微笑んだ。やはりどこか曇って見えてしまう。そこが彼女が興味をもった理由だ。
それから2時間目が始まる直前まで話をしていた。
アトルムに地上から指示を出す施設ヴェルディアはアトルム操縦者にとって命綱である。ヴェルディアが操縦士に指示するために必要な情報を送る無人監視機体オーバルックは、生命反応、光熱反応でアトルムの位置と安否の確認を行う。光熱反応により“未確認体”が太陽系に侵入してくるのをいち早くヴェルディアに伝える。いわば要塞だ。
“未確認体”を例えるなら、銀河系から来る宇宙人のようなものだろう。それらは、太陽系の8惑星(水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星)に侵入し、破壊活動を始める。活動の意味はいまだ判明していない。太陽系の抹消か、支配か、それともほかの目的があるのか。もしかすると目的も何もないのかもしれない。依然憶測の域は出ない。
どんな目的があろうがなかろうが、それを防止するためにアトルムがあるのだ。
今回は火星周辺に現れた。アトルム操縦士は50人。そのうち22人が駆り出され、残りは非常事出動班として待機させられた。
モニタールームには、4人の監視官。そのそれぞれの前には宇宙のリアルタイム映像モニターと、生命反応と光熱反応のセンサーモニターが並んでいた。
そこには緊迫した空気が漂っていた。
「21人の生命反応が消えただと!?シュウは?シュウはどうなった?」
ヴェルディア長官、志岐直人は、ヴェルディアで唯一の女性職員である兵藤真樹の後ろに立ち、問いかけた。
オーバルックからヴェルディアに送られてきた情報は、“未確認体”の撃退ではなく、21人の死亡というものだった。
「現段階では分かりません。しかし、生命反応が……ないのです」
真樹は心苦しかった。自分が長官に伝えたのは、22人出動して、21人は死亡。そして1人は生存不明(アトルムが消滅する際に発する熱をオーバルックの光熱反応が感知しなかったためであり、同時に、生命反応にも感知されなかった)というあまりにも無情な事実。そして“未確認体”の光熱反応のみが現在感知されていた。
「そうか……。しかしこのままではまずい。出動した戦闘員に繋げ」
「はい。待機班につなぎました」
真樹はそういってイヤホンマイクを直人に渡す。
直人は待機していた28人と通信する。
「現在出動ている戦闘員は28名全員が生還してくることが第一だ。よって深追いはするな。諸君の健闘を祈る」
そういうとイヤホンから応える部下たちの声が聞こえてきた。
真樹はそっと振り返る。
「長官?」
直人は彼女が想像していた顔でなく、希望を抱いているような表情だった。
「兵藤。シュウは必ず生きている」
直人は笑っていた。勝利の信念を貫き通すと決めたような晴々とした顔。
「ですが、生命反応が……」
「生命反応?それがどうした?わたしはシュウを信じる」
いつの間にか真樹以外の3人も、モニターから目を離し、直人を見ていた。4人の注目を集めている彼の顔は金輪際見ることはないと思っていた父親の顔だった。




