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ろくでもない追い人となれ



 毎年、夏になるとぼくの幼馴染が突拍子もない思い付きをして誘っていた。

 


 例えば小1の時、彼はクワガタがこの周辺にいるんじゃないかと、毎日のようにぼくを虫取りに誘って近所や公園を探索した。

 勿論クワガタなんて大層な生き物がご近所にいる筈もなく、ぼく等が捕まえたのはセミや蝶、ハンミョウといった身近にいる生き物だった。


 小2の時は虫取りからツチノコ狩りに変わったっけ。

 茂みばかり探していたから全身蚊に食われて酷い目に遭った。

 

 小3の時は夏の星座をすべて見つけ出そうと天体観測に誘われた。

 都会の真ん中で夜空を見上げても星はまったく見えなかった。


 途中で天体観測に飽き、ぼく達はゲームの話で馬鹿みたいに盛り上がったことを今も覚えている。


 小4の時は秘密基地を作ろうと自分達だけの世界を探し回った。

 結局、作れそうな場所がなくて落胆した覚えがある。


 小5の時は二町もある向こうの海を目指して自転車を飛ばした。

 迷子になって近場の交番に駆け込み、オトナ達にお叱りの言葉を頂戴した。


 あれ、これは小6だったかもしれない。

 だったら小5は何をしたっけ。幼馴染の案に振り回されたことは確かなんだけどな。

 

 中学に進学してもぼくの夏休みは似たり寄ったり。

 アポなしに幼馴染が遊びに来て人の意見も聞かず、自分のやりたい案を出してはぼくを振り回した。

 しかも決まって彼は夏休みの宿題を最後まで残していたもんだから、それを手伝わされていたっけ。なんで宿題を終わっているぼくが、また夏休みの宿題と向き合っているのか!


 毎年のように嘆いては相手に愚痴を零していた。

 「いいじゃんかよ」お前は復習になるじゃん、なーんて調子のいいことをほざいていた彼に拳を何度飛ばしたことか。

 

 夏休みに入るとろくなことがない。それがぼくの認識だった。




 認識が変わったのは中二に進級してから。


 クラスが違ったぼく等はそれぞれ気の合う友達を見つけ、その友達と共にいるようになった。

 元々タイプが違ったから、似たタイプの友達といると必然的にお互いの距離がひらいてしまう。更に豆粒のような遠い将来を考えるため、お互いに塾に通い始めた。塾は休みに関係なくぼく達の貴重な時間に食い込んでくる。

 毎年のように過ごしていたろくでもない夏休みにまで影響したから、ぼくはこれまでにない夏休みを過ごすことになる。


 朝起きて、洗顔し、朝食を食べる。

 機械的に制服に着替えると、塾が作った重たいプリントの束を鞄に詰めて目的地に向かう。

 特別厳しい塾に通っていたぼくは朝から晩まで塾で時間を過ごし、その日を終える。繰り返される同じ日常、時間、光景、それはとても面白くない夏休みだった。

 

 三年になってもぼくの夏休みは変わらなかった。

 今までろくでもない夏休みを過ごしていたわけだけど、塾のおかげさまでしごくクダラナイ夏休みを過ごしてしまった。


 その頃のあいつは噂によると彼女を作って青春を満喫していると聞いた。

 あくまで噂だ。直接本人に会って聞いたわけじゃない。真偽は判断がつかなかった。



 中学を卒業するとお互いに選んだ高校に通い始めた。

 進路の分岐を表すかのようにバスで片道一時間かかる公立高校に通うぼくと、私立の近場に通うあいつ。幼馴染をしていたから彼と離れ離れになるのは寂しい! とは思わなかった。

 既に中二、三で自然と距離が離れてしまったんだ。

 まったく喋らなくなったし、一緒の学校に通っても通わなくても大して関係は変わらないと思った。

 

 閑話休題。

 苦労して第一志望の高校に入ったぼくは、その学校が肌に合わず、いや割り当てられたクラスが肌に合わず、入学してすぐ疎外感を感じるようになった。

 いじめられているとか、そういったのものはない。ただ価値観や人柄が合わず、心中で孤立することが多くなった。表向きは誰かと話を合わせているんだけど、まったく波長が合わず心労が溜まる一方で、ひとりの方が気楽だと思うようになった。


 自分のコミニティ能力が低いのかと溜息をつきたくなる現実。

 誰だ、高校生活が楽しいと言ったのは。これだったら中学の方がよっぽど楽しかった。

 やさぐれた気持ちを抱くようになって、はじめて迎える高校一年の夏休み。今年は塾もなく、ゆっくりと夏休みが過ごせるわけだけどぼくにとってこれが退屈でクダラナイ夏休みになる。

 毎日することがなくて暇なんだ。朝遅めに起きて、ニュースを見て、チャンネルを替えて。何も見るものがないと判断するとパソコンに向かう。


 これで三時間ほど時間はつぶせるけど、途中で飽きて中断。

 宿題でもしようと机上に向かう。


 退屈のあまり、日差しが弱まった夕暮れに出掛けることもちょいちょいだ。

 あれ、これが夏休みだったっけ? もっと充実していた気がしたんだけど。

 

 

 

「あ」

 

 そう思っていたある日の夕方、ぼくは久しぶりに幼馴染に会う。

 会う、というより見掛けたと言った方が正しいかもしれない。いつの間にヤンキーになったのかは分からないけど、着崩した制服を着こなし髪を茶に染めて通りを歩いていた。


 一目で手持ち無沙汰だってことは分かった。

 あからさま顔に退屈ですと書かれていたんだ。あいつはいつだって分かりやすい。

 声を掛けようか迷ったけど、その日は何もせず終わった。久しぶり見るあいつになんて声を掛けていいのか分からなかったんだ。どうせ明日には誰かと馬鹿騒ぎしているに違いない。

 

 そう高を括っていたんだけど、翌日も、その翌日もぼくは本屋に向かう途中の通りであいつを見掛けた。必ず決まった通りで見掛けるんだ。それが日課になりつつあった。

 何をしているんだ? 暇なのか? いやぼくも暇だから本屋に通い詰めているんだけどさ。


 なんだか見掛けている内に、あいつの規則的な行動が気になってしょうがなかった。

 疑問が頂点に達したぼくはその日、あいつの姿を見つけると後をつけようと行動にでる。手っ取り早く声を掛ければいいんだろうけど、声を掛ける気にはなれない。文字通り掛ける言葉が見つからないんだ。未だに。

 

 あいつはぶらぶらっと当てもなく彷徨っていた。

 つまらなさそうな足取りで向かう先はCDショップの前だったり。ゲーセンの前だったり。カラオケに入ろうとしていたけど、気乗りしなかったのか、手持ちがなかったのかあいつは結局断念して素通り。

 重たそうな足は川原のとある一角で止まった。

 

 川原か、懐かしい。

 夏になるとよくあいつと此処で魚を探しに来たっけ。ツチノコ狩りで赴いたこともあったな。遺憾なことにツチノコはいなかったけど、空き缶やビニール袋が散乱している汚い川原にも小さな小さな魚が懸命に生きている奇跡を知ってぼく達は感動したんだ。バケツを持ってそれを捕まえると川上までそいつを連れてって放流した思い出。


 あの魚はどうなったんだろう?


 あいつは沈む夕陽を浴びて煌びやかに光っている川面を見つめていた。

 ぼくとおなじように懐古の念を抱いているのだろうか? 

 しごく退屈そうなあいつの横顔は、あの夏の時間のように輝いていない。くすんだ面持ちでいつまでも川面を見つめている。


 思い出のページを捲っていたぼくはそれまで躊躇っていた気持ちに一蹴。

 ジーパンの後ろポケットに手を突っ込みながら、あいつの隣に並んで口を開いた。



「ツチノコ狩りにでも来たのかい?」



 久しぶり。とか、元気。とか、そんな有り触れた挨拶はくすぐった過ぎてぼくの口からは言えなかった。

 いや言わなくてもいいと思った。あいつもぼくにそんな挨拶をされたら戸惑うだろうから。

 弾かれたようにあいつがこっちを見やってきた。瞠目するあいつに一笑して、「それとも魚釣りかい?」肩を竦め、わざとらしくおどけてみせる。「ンだよ」久しぶりの挨拶がそれかよ、毒づくあいつは柔和に綻んで肘で小突いてきた。


 ほら、有り触れた挨拶は要らなかった。

 おかげさまでぼく等はあの頃のように会話が出来るのだから。幼馴染の特権かもしれない。

 

「ツチノコ狩りか。懐かしいな。お前と馬鹿みたいに探し回ったな」


 先に話題を吹っ掛けたからか、あいつは近状よりも思い出話に花を咲かせた。


「陽が暮れても探し回って叱られたっけ」


 笑声を漏らすあいつに、「ぼくは君に振り回されたんだよ」呆れながら返事する。

 近所中を探し回った結果が蚊に刺されただけだったなんて、ほんっとろくでもない思い出だ。そうあいつに言うと、まったくだと彼は相槌を打った。表情は崩れない。

 

「小1の時は虫取りに夢中だったな。クワガタがいるって思って探し回ったんだけど、ゲットしたのセミと蝶とハンミョウとハンミョウとハンミョウ」


「そうそう道路にいるハンミョウばっか捕まえていたよね。あれが一番捕まえやすかったし。君はセミにおしっこを何度も引っ掛けられていたし」


「そりゃお前もだろ? 小便引っ掛けられて泣いていたじゃねえか」


「ぼくは君と違ってイタイケで純粋な少年だったね。かわいい」

 

 「自分で言うな」鋭くツッコまれてしまう。少なくとも君よりかは可愛かったと思うんだけどな。笑声を零すと、向こうも釣られて笑ってくれた。くすんだ表情は何処へやらだ。


  

 ようやく此処であいつは何をしているんだとこの場に適切な話題を吹っ掛けてくる。

 即答した。暇している、と。 


 本屋に通い詰めていた矢先、君を見かけてストーキングしましたとは言わなかった。くだらない内容だから言っても笑われるだけだ。

 鼻で笑ってくるかと思いきや、「俺も暇人だ」仲間だとを強調してきた。折角の夏休みなのに暇しているんだと苦笑している。去年は塾で忙しかったから今年はハジけてやろうと思ったのに、あいつは吐息をついた。


「噂の彼女は?」


 ランデブーすればいいじゃないか、揶揄する。


「いつの話だよそれ」


 とっくに別れてるっつーの、やや不機嫌になるあいつは別れてもう一年経つと言った。

 本当にお付き合いしていたんだ、やっと真偽を確かめることが出来た。

 そんなことすら、ぼく等は会話できずにいたんだなぁっとしみじみ思う。中学のある日を境にぼく等は幼馴染ですらなくなったから(いや、幼馴染はいつだってそこにあった。変わったのはぼく等の気持ちだ)。

 

「学校はどう? 楽しい? チャラ男になったみたいだけど」

 

 隣を一瞥する。

 見慣れたようで見慣れない幼馴染の顔はしごく曖昧だった。


「なってねぇよ。髪を染めただけだっつーの。学校は微妙。お前は?」


「おかげさまで退屈している。ぼくの肌に合う学校じゃなかったみたいだ。あと二年通えるか不安だよ。楽しい高校生活とは無縁だね」


「そんなもんだろ。楽しいって思う奴等もいれば楽しくねぇって思う奴もいる。俺達は後者なんだよ」


「新しい彼女でも作れば?」


「お前に返すぜ、その台詞」

  

 笑声を交わす。

 なんだ、彼女を作るために髪を染めたんじゃないの? ぼくの問い掛けに、「ちげぇよ」なんか刺激のあることがしたかったと幼馴染。これは一週間前に染めたのだと得意げに言われた。


 夏休み明けに不良になる奴が多いっていうけど彼はそのタイプのようだ。

 けどあいつは不良になりたいわけじゃなく、ただ刺激が欲しかったのだと繰り返す。

 だって学生にとって一番楽しい休みの期間に入ったんだ。馬鹿みたいに笑える刺激が欲しいじゃないか。毎年、夏には強い刺激があった。自由がそこにはあった。充実した日々があった。



 ―――…あの感覚がもう一度欲しい。

 

 

「毎日の生活ってなんか物足りないじゃんか? 夏休みになれば、ちっとくれぇ無茶できるし自分の時間が有意義に持てる。夏は見知らぬ世界に行ける気ィして好きだった。今じゃ俺の馬鹿に付き合ってくれる奴、少ないけどな。彼女も俺の突拍子もねぇ思いつきに愛想尽かしたらしい」

 

 

 その点じゃお前はいつも俺の馬鹿に付き合ってくれたよな。

 頭の後ろで頭を組んで頬を崩してくるあいつに、ぼくは軽く瞠目。

 次いで同じ表情をすると、「今思い出してもろくでもない夏休みだったよ」君はいつだって突拍子もない予定を立ててくる。しかも無謀な予定ばかり。夏休み終盤には夏休みの宿題を手伝わされて、二度も同じ問題を見るはめになった。今思い出しただけでも腹立たしい限りだ。

 それでも、今よりはマシだと思う。あの頃の夏休みがろくでもないなら、今の夏休みはしごくクダラナイ。彼の言うように、刺激も自由もないんだ。


 自由はそこにあるけれど、自由から得られる充実感はそこにない。どうしてだろうね?

 


「ろくでもなかったけど、楽しかったよ。ばかばかしい日々にすら、充実感を感じていた。あの頃のぼく等は何より自由だった」

 

 

 君の思いつきのおかげだね。

 皮肉交じりに茶化せば、「お褒めの言葉として受け取っとく」あいつは大袈裟におどけた。

 本当に自由だった、あの頃は。クワガタを探し回ったことも、ツチノコなんて居もしない生物を探す時間も、秘密基地という自分達だけの世界を探す日々も何もかも自由だった。刺激的で楽しかった。宿題の手伝いですら刺激的だったよ。ある意味で。


 いつまでも続くと思っていたのに、気付けば褪せてしまった思い出。

 成長していくに連れて消えてしまう時間があるのだと、ぼくは改めて痛感する。

 

「君は自由が何より好きだったね。型破りなことばかりする非常識人だった」


「ひっでぇな。ユーモアがあると言えよ」


「ユーモアだけならまだマシだ。君は人を巻き込んで宿題を手伝わせただろ? ぼくは毎年夏の終わりになると寝不足だったよ」


「その度に俺に奢らせたのは何処のどいつだ」

      

 おやおや。奢らせた奴とは……ぼくですね、はい。

 じろっと睨んでくる眼から逃げるために肩を竦め、ぼくは向こう側の川面を見つめる。

 色濃くなる真っ赤な川面はとても綺麗だった。ぼく等が見ていたあの頃の景色そのまんまだ。


 ふとあいつが前に出ると、大空に向かって両手をあげた。

 伸びをしているようにも思えるその姿勢を保ったまま、あいつは空を仰いで自由になりたいと本音を漏らす。学校という縛りも、世間という枠も忘れて、自由になりたい。馬鹿みたいに刺激を追い求めたい。あの頃のように。


 こんなことを言い出すと、あいつはまたろくでもないことを言い出すんだろうな。

 どうしようか、UFOでも見つける旅に出ようとか言われたら。



 だったらまだ、ぼくがろくでもないことを言った方がマシだ。

 

 

「川沿いに下りてみよう」



 相手に告げると、「ん?」とあいつがそのままの体勢で首を捻ってきた。


「久しぶりにツチノコでも探そうと思って」


 ぼくの言葉にあいつは目を点。

 次の瞬間、大爆笑した。それを無視して川沿いにおりる。

 これでもぼくは大真面目に意見したつもりなんだけどな。

 

 さっさと歩くぼくの背を幼馴染は懸命に追って来た。

 この歳になってツチノコ探しとかアリエネェ。腹を抱えている幼馴染に、「だったらクワガタにするかい?」と微笑するぼく。

 どっちもありえないと大笑いする幼馴染だけど、元々この案は君の案だからね? ぼくはパクッただけだ。


 どうせお互いに暇で彼女ナシな寂しいご身分。

 暇して毎日を漂流しているわけだし、ばかばかしい案を出して夏休みを充実させた方が幾分マシだと思わないかい? ぼくの意見に同調の意を込めて綻んでくる。

 伸び放題の雑草を踏み倒しながらあいつは、「蚊に食われそうだな」と集ってくる虫を手で払った。次いで、ぼく共に汚らしい川を覗き込む。相変わらず此処の川は汚い。

 どろずんだ川は底が見えず、辺りには駄菓子の袋や空き缶、黄ばんだぬいぐるみが半身浴している。

 

 「ツチノコいそうか?」「ツチノコは土にいるもんでしょ?」「それもそうか」「昔は魚がいたけど」「いなさそうだな」「汚いしね」「魚だって移住したくなるだろ、この川の汚さ」「微生物ならいるかも」「嬉しくねぇよそれ」「ツチノコ、いるかな」「土にいるって今言ったじゃねえかよ」「……」「……」

 

「ねえ、一つ聞いていい? ツチノコってどんな形をしてるの? てか、どんな生物?」


「んあ? そういや考えたことなかったな。蛇みたいなものだって思ってたけど。ほらよ、テレビ特集であったじゃんか。ひらべったい蛇が発見された! みたいな…、俺もよく分かんね」


「うっわ、よく分からないのに探していたぼくって一体!」


「俺も分からず探してたってことだよな。マジウケる」

 

 初っ端からばかばかしいやり取りをして、ぼく達は笑い合う。

 なんとなくぼく達の過ごしていた夏が少しだけ戻って来た気がした。充実感に溢れかえっていたあの日々が、少し、だけ。


 勿論、ぼく達はあの頃に比べたらオトナで、ツチノコだとか近所にクワガタがいるだとか、そういった胡散臭い情報は信じていない(信じろって方が難しい)。

 それでもぼく達はろくでもないことを追い駆けることで、あの夏を取り戻せそうな気がした。清々しくろくでもないあの日々を。

  

 ぼくと幼馴染の間に自然と出来た距離に、明確な理由はない。

 気付けば自分達の適した環境に居座って距離ができてしまった。


 そのぼく達が明確な理由を持って今、こうして肩を並べている。

 それだけでぼくは今年の夏休みを楽しく過ごせそうな気がした。

 

「なあ、今年の夏のテーマは鉄道めぐりしてみね? いけるところまで駅全制覇してみようぜ。改札口を出なかったら、大した金もかからないし」


「まさか駅名板の前で写真撮って次に行くってヤツ?」


「阿呆。景色もちゃーんと撮るっつーの。決まりだ。今年の夏のテーマは≪フリーダム≫にしよう! もう一度、馬鹿で自由になるんだ!」

 

 とんだことを言い出す幼馴染は久しく会ったぼくに対して、こんなことを言い出す。それでもこそ彼らしい。

 「なっ?」同意を求めてくる幼馴染に、「はいはい」じゃあ日程を決めようか、とぼくは早々に降参の意を込めて意見を促す。そうこなくっちゃ、指を鳴らすあいつはこれからマックに行こうぜ。そこで日程を話そうと踵返して、来た道を辿り始める。


 足取りは軽快だ。


 調子のいいヤツだな。お互いに二年もまともに喋っていないのに。

 苦笑を零し、ぼくは先達あいつの背を追った。

 

「今年はろくでもない夏休みになりそうだ」


 けどクダラナイ夏休みよりは全然マシだ。

 ああ、そうだ。二年のブランクは鉄道の中で嫌って程話そう。あいつの近状、ぼくの近状、中学の時に話せなかったこと、思い出話、ひっくるめて今季中に話そう。


 そして馬鹿みたいに笑うんだ。

 平凡だった毎日でさえも、あいつと話して振り返れば、きっと光り溢れて見える筈だ。



「トロイぞ、早く来いよ」  



 せっかちなあいつに急かされてぼくは歩調を速めた。



 今年の夏、ぼく達はあの夏のように自由になれると信じている。

 


 End

 

 

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