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ユメウリ  作者: 風猫
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運命の日




次の日。 ついに澄香の通う若月第二高校、全生徒が恐れおののく日が来てしまった。

そう、今日は高校2年となって初めての中間考査の結果発表。


しかし、これはただの生やさしい結果発表ではない。

1位から最下位まで全ての科目の結果が掲示板に張り出されるのだ。

だから、誰が良くて、誰が馬鹿かも全てまるっとお見通しとなってしまう。


しかも、教師によっては成績の悪い生徒を授業中、生徒全員の前で

公開処刑という名の説教をする奴までいる。


学生たちにとっては何とも胃の痛くなる昼休みであった。

結果が貼り出されるまであと2分。

多くの生徒が少しでも自分の成績をみようと掲示板の前に行列を作っている。

そして多分に漏れず、澄香達も掲示板の前に立っていた。

まぁ、他の生徒よりも出遅れてかなり後ろの方だったが、

気を利かせて、百恵が双眼鏡を持ってきていた。


「なぁ、澄香。お前…どうだったんだ?」

そーは、どこか落ち着きのない様子だった。

「えっと、まぁ別に普通だと…思いますけど」

「良いよな。勉強がそれなりに出来る奴は、私なんか全然意味不明だぜ。

何なんだよ。タンジェントって。日本語かっつーの」

「…そう。日本語じゃないわ、タンジェントは。オイラーによる三角関数の定義」

「来た。百識の百恵きたww」

その隣で舞がきゃっきゃと笑った。


「まぁ、いいけどよ。ただ…、舞。お前には負けねー。絶対負けねー!!」

「おや、そー。私に張り合うとか、正気で言ってるのかい?」

「当たり前だ。この生命を賭してでも、お前には勝つ!」

「…そー。もうテスト終わってるから。

今、生命賭しても、結果が変わることなんてないから」

「ぐはっ…。これが、現実って奴かよ。クソったれ」

百恵が、そう指摘すると見えない何者かにアッパーを食らったかのようによろめき呟いた。


「っていうか、そー。それっていつもギャグでやってるんですか。

それとも本気なんですか?」

「澄香ぁ。一つだけ教えといてやる。私が本気で生きてこなかったことなんて一度もないぜ。

我が人生に一辺の悔いを残さないためにも!」

「はいはい、拳王乙。っていうか、ずっと鉛筆転がしてたの知ってるんだけど。

それが本気なのかい?そーちゃん?」

「あぁ、鉛筆の一転がし、一転がしにありったけの情熱を注いだ。

葉加瀬太郎のバイオリンが頭の中で響いていたぐらいだぜ」

そーは、ニマリと笑った。どうやら本人は、いたって大真面目らしい。

そんなやりとりを交わしていると、遠くでベラっと紙が風に翻る音が聞こえた。

その場にいた生徒たちは、一斉にその方向を向いた。

教師たちが、手に成績の書かれた模造紙を手に廊下を歩んでいる。

そして、三人がかりで言葉を発することなくてきぱきと掲示板に成績を貼りつけ始めた。

やがて…

全ての結果が貼り付けられた瞬間。掲示板から数歩下がっていた生徒が一斉に前へ溢れ出した。

少しでも早く自分の成績を見つけるために。


「はぁ、なんでこう成績ごときに必死になるかね。そんな事で一喜一憂しても仕方ないと言うのに」

舞は、大げさなリアクションをしてみせた。

「じゃあ、舞。お前はなんで見に来てんだよ」

そーがすぐさま反応する。

「暇つぶし?」

「嘘つけ。次の授業の熊谷にイビられないか気になるからだろ?あいつ成績良かったら何も言わないもんな」

そーの言葉に痛いところをつかれたというように舞がたじろいだ。

「ふ…ふん。別に、あんなヤツどうでもいいって」

「嘘つけ。この前、黒服のおっさんBに代返させてたくせに。しかも、私たちの制服のコスプレさせて」


――それは、3日前の事だった。

英語担当の教師、熊谷貫郎は何時ものように点呼を取っていた。

「名瀬」

「はい」

「沼沢」

「はい」

「橋田」

「……」

「橋田、どうした?返事…は…」


………

舞の席には、女子生徒の服を纏い、漆黒のサングラスをかけた女子生徒(?)が

机に足を乗せ、ふんぞり返っていた。

その服越しにもわかる鋼の四肢を見て、誰が女子だと思うだろうか。

むしろどこぞのターミネータのような風貌だ。

服を除けば。


………。

「橋田、欠席っと」

熊谷はさも当然の様に出席簿に欠席の印をつけようとした。

「おい!」

席のターミネータが唸るように言葉を発した。

「ひぃ!?」

突然の野太い声に、熊谷は思わず悲鳴を上げた。

「私は、ちゃんとココにいるぞ」

ターミネータが日本語音声で言葉を話した。

「…あの、どちら様でしょうか」

熊谷は、おそるおそる差し出した質問にターミネータが口を開いた。

「私は、橋田舞だ。ある組織に…えっと、すまない。少し待ってくれ」

そう言って、少女(?)はポケットをがさがさと漁り、一枚の紙を取り出した。

「あ、そうそう。ある組織に薬を飲まされ、この姿になってしまった。

けど、心は純粋な乙女だ。心の清い教師である貴方なら、例えどんな姿になっても

私だって気づいてくれるだろう。私、信じてる。って言っといて」

(読んじゃいけない所まで読んじゃったよ、この人)

誰も言うことの出来ないつっこみの言葉。

クラス全体に何とも言えない空気が広がった。

「ふん」

ただ一人、鼻息の荒い橋田舞と名乗る少女(?)を除いては。

「あ、そうそう。先生!I'll be back!」

どういうつもりかは分からないが、白い歯をニカリと見せつけ、サムズアップを示した。


もう、誰も何も言葉を発する事はなかった。


――

「ってことあったよな」

「あぁ、それ黒服Bじゃなくて私だから。黒っぽい組織にアポトキシン800を飲まされて、あの姿に」

「もういいって、ガチムチ化するってどんな薬だよ、それ」

と舞とそーが騒いでいると

「…二人とも、結果見ないの?」

百恵が、手に持っていた双眼鏡を二人の前に差し出した。

「あれ、百恵は、もういいのか?」

「…うん。もう見た。二人が話してる間に澄香も」

どうやら思った以上に結果が良かったのだろう。

澄香は、はにかみながら小さくVサインをしてみせた。

「じゃあ、私からね」

いち早く舞がももの双眼鏡を手に取った。

「ほぉほぉ。あ、ちょ…化学だけ見えん!そこの男子、頭下げろ。下げろって!

クソッ!D!F!」

その瞬間だった。

二人の黒服の男が、学生達がひしめく行列の間をすり抜け、ミッションを遂行していった。

そこにさっきまでの男子の姿はない。

「うん、順当か」

「舞。いい加減、おっちゃんたちを下らないことに使い過ぎだろ」

「え~、いいじゃん、減るもんじゃないし。というか減らしたいぐらいなのに」

ブツブツと文句を言いながら、舞は双眼鏡をそうに手渡した。

そーが、結果を一つずつ確認していく。

一つ確認するごとに、双眼鏡を持つ手がわなわなと震えが大きくなっていった。

そして、全てを見終わった後、そーの背中にはいい知れないダークマターが覆っていた。

「あの…そう?どうした?」

「ほとんど赤点だった」

「…それは、まずいわね」

「それって、次下手したら特別クラス送りってことですよね」


この若月第二高校では、2回連続半数以上の教科で赤点をとってしまうと

特別クラスなる所に『クラス替え』となってしまう。

そうなった生徒は、殆どがいつの間にか行方知れずとなる、という恐怖の制度があった。


「やべぇ。マジでやべぇ」

「ま…まぁとりあえず、教室戻りましょう。ね?もうすぐ授業も始まりますし」

澄香は、そーの肩を抱きながら教室へと戻っていった。




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