店員さんのアリアさん
"喫茶 404"の店員さんのアリアが主人公です。アリアの過去とマスターとの出会いがどのようなものなのか?
「えっと、これとこれを買って向かいのお店で牛乳を買えば買い物は終わりと…」。フードを深くかぶり必要な物を確認する。私の名前は"アリア"、現在無茶なお願いをされているいたって普通の"元"エルフだ。
私は"喫茶 404"で働いている店員。私の店は少し特殊で心に迷いが生じている人が夜遅くにあてもなくこの街を散策すると入店することができるようになっている。マスターは新規のお客様をドン引きさせたり、「新メニューにモンスターの干し肉を粉砕してパフェにかけたらオシャレになる」とか「ポーションと牛乳を混ぜれば美味しく飲む事ができる」とか基本的におかしい人だが魔法使いとしてはこの街でも指折りの実力者だ。マスターは上級魔法はもちろん"結界魔法"も使える天才で昔、「何故そんな才能があるのに冒険者をしないのですか?」と何気なく聞いてみたら
「冒険するのはもう飽きました。趣味で生きていく人生も悪くないのではと思っただけですよ」。そんな事いう年齢じゃないでしょ、とツッコミたくなったがマスターの目は普段見せる事のない感慨に耽るような、
もう戻る事のできない過去を悔やむような目をしていた。何かしらの事情があると感じでそれ以上は詮索しなかった。買い物を終えて人通りが少ない裏路地へと向かう。何の変哲もない壁に触れて静かに一言、
『コネクト!』…壁にドアが現れた。これが今日の
"喫茶 404"の入口だ。
「ただいま戻りました。頼まれた物しっかり買ってきましたよ!」。マスターはグラスを磨く手を止め、「おかえり。」と返してくれる。買ってきた荷物をカウンターに置いてドアに触れて一言、『クローズ!』
これで開店時間までこの店と街は繋がらないだろう。
この仕組みはマスターの結果魔法の内の1つなのだが本来、そう易々と使える魔法ではない。マスターが作った首飾りの形をした魔道具のおかげである。
この魔道具には街と喫茶店を繋げる『コネクト』と街と喫茶店の繋がりを閉じる『クローズ』の2種野の魔法が封じ込められていて、スクロールとは異なり使う者の魔力を使用して発動させるタイプのおかげでややこしくて長い結界魔法の詠唱をしなずに済む便利な代物だ。この魔道具を売った方が儲かるのではと言うのは御法度だ。結構しっかりめに怒られる。「何か冷たい飲み物作ってくださいよマスター」と、こんな感じで買い物の対価として無料でマスターから搾取する…私を動かすのもタダではないという事だ。
「初めて会った時から随分と変わりましたね…昔はかわいかったのになぁ〜」。「この街で屈指の変わり者の元で働いているからじゃないですか?」。今では軽口を叩けるような仲だが昔の私が見たらこの光景は発狂モノだろう。そんなことを考えていると「はい、ホットココア」…今でも発狂モノだよこの状況は…
エルフの森に少年が迷い込んだ。これは勇者になる逸材だと大人の人たちは喚いていた。言い伝えによるとエルフの森に迷い込んだ者は邪悪を打ち倒す事ができる神聖な心の持ち主だという。こんなちっぽけな人間のどこに勇者要素があるのか探すのに甲斐があると思っていた…幼いながらも整った容姿、綺麗な茶色の髪、星空を想起させる美しい目を持った少年は確かに勇者らしさはあった。でも、勇者っていうのは強くなければならない。そこで私はある提案をした。風の魔法を使ってこの森の中でも一際大きい木の葉を多く落とした方が勝ちっていうルールだ。エルフの多くは風魔法を得意とする者が多く、私は幼い頃から(まだ120歳)くらいだけど魔法の練習や勉強を怠らず大人顔負けの実力を有していた。「大地よ風の声を聞け!『エアロ・スクリーム』!」私の放った詠唱を"短縮"して放った中級魔法は大木を大きく揺らし、数えきれない程の木の葉を落とした。圧勝すると思っていた、
だが、いざ少年が魔法を放つ……大木に残っていたほとんどの葉をはるか上空に吹き飛ばした。その光景に唖然としていると、あることに気づいた。「あなたどうやって詠唱をせずにあんなに強力な魔法を放てたの!?」。そう、詠唱をせずに魔法を放ったのだ。
私のように短縮したわけではない不可能と私が判断した"無詠唱"を少年がやってのけたのだ。"負けた"と
感じた。多分、私はこの少年に追いつく事ができないだろう。知りたい。この少年は何者なのか。どうして無詠唱で魔法を放つ事ができたのか。この日から私は少年と毎日のように勝負をした。
少年の名前は「リニア」というらしい。強力なモンスターと戦っていたが魔力が尽きかけて必死に逃げたらしい。そして逃げた先がエルフの森だったというわけだ。リニアは10歳という若さで戦場に駆り出されているらしい。リニアには才能があった。それ故に幼い頃から剣術、魔法の練習や勉強を大人から強制的にやらされていたらしくそれが嫌になってヤケクソ気味に無詠唱で魔法を放つイメージをしたところ本当に魔法が放たれてしまったらしい。それによって戦場に子供ながらに出されついた通り名が"勇者の生まれ変わり"
だの"殺戮の悪魔"だの色々な名前が勝手につけられたらしい。「帰らなくていいの?」と何回か尋ねた。
リニアは「あんな息苦しいところよりもこの森の方が何十倍もいいや。」と答えた。そして私の顔に近づいて、「無詠唱魔法のコツを教えてあげるよ。」…その時の私は頬を赤らめていたと思う。星空を想起させる美しい目に見つめられたら誰だってこうなると思う。
一週間後、「やった!できた!」。私は嬉しくてその場でたまらずジャンプしていた。「さすが、僕が見込んだ魔法使いなだけはある」と後方で腕を組み頷いていた。「なんか、ヘンだよ。」と何気なく言うとリニアは膝から崩れ落ちた。「どうしたの?お腹痛いの?」と聞いたが大丈夫の一点張りだった。憧れの"無詠唱魔法"まだ集中しないと魔法を放つ事はできないがリニアの分かりやすい説明と特訓のおかげで一週間と短い期間で習得できた。2人で何となく空を見上げていた。「ずっとこんな日々が続いたらな…」とぽつりと言った。風が吹き木の葉が舞い落ちた。後日、私の家に手紙が届いていた。リニアがこの森を去るという内容の手紙だった。私は一瞬頭が真っ白になった。
手紙の内容には魔王軍が動き始めたらしいから自分が元いた場所に帰ると、突然すぎて納得するのに時間がかかった。いつの間にか泣いていた。伝えたい想いを伝えられなかった後悔ともう2度と会うことができないという不安だけが頭の中を駆け巡っていた。ようやく落ち着いて手紙を最後まで読むとこんな事が書いてあった。「山賊と冒険者がエルフの森を襲う計画を立てていると父上と騎士団の団長の会話を盗み聞きしている時に聞こえた。」何で盗み聞きしているんだというツッコミをする余裕などなかった。もしもこの事が本当ならば大変だ。この手紙の内容を大人に伝えようとエルフの森の村長に伝えようと家から飛び出した時、爆風に巻き込まれた。冒険者は私を見つめてこう言った。「ようやく見つけだぞ…エルフの森!」
どれくらい走っただろうか?私は必死に人間から逃げていた。後ろを振り向くとエルフの森が燃えていた。リニアとの思い出が詰まっていた大木も燃えていた。泣きながら必死に走る。会いたい。リニアに会いたい。ただその想いだけで走っていた。気づけば森の外だった。エルフは基本的に集落としている森から出ない。だから私にとって初めての"外の世界"だった。
これからどうすればと悩んでいると1人の冒険者がこちらに近づいてきた。反射的に後ずさる。「何があったんだ?」と冒険者が聞いてくる。すると後ろから3人の山賊が襲ってきた。冒険者は『コール・オブ・ナイトメア!』と唱えた。その瞬間山賊たちはうめき声を上げながら頭を抑え、うずくまった。何が起きたのか分からなかった。すると冒険者が「こっちに」と優しく手を引いてくれた。そして冒険者はかぶっていたフードを私に差し出して、フードをかぶっておいた方がよいと忠告され、指示に従うと私の肩に手を置いて
『テレポート!』と唱えた。冒険者と私は眩い光に飲み込まれた。気づけば人間の街にいた。
「落ち着いて!」と声をかけられて気づいた。私は魔法を放とうとしたのだ。街の中で。「こっちについて来なさい」と冒険者がいうが私は拒否した。どうして森を燃やした人間について行く必要があるのだと思い拒否した。私はいつでも魔法を放てるよう魔力を右手に込め続けた。そんな様子を見て冒険者は「君が知りたい事を教えてあげよう。リニアという少年の事とか何故、エルフの森が襲撃されたのか…君は知りたくないのか?」そんな言葉に動揺し、右手に込めていた魔力が分散してしまった。私は考え渋々ついて行く事にした。冒険者は何故か私に「ありがとう」と伝え、街の人通りが少ない裏路地へ向かい何の変哲もない壁に触れて『コネクト!』と唱えた。あり得ない。壁の向こうに空間が生まれた。「さぁ、こっちへ」と冒険者に手を引かれ私は謎の空間に入る事になった。
「ここなら安心して会話ができる…何があったか教えてくれるかい?」私は戸惑いながらも起きた事を話した。少なからずこの人間は私を襲う気がないらしい。雰囲気がリニアに似ていたから。そんな理由で私は話した。話を聞き終えた人間はとりあえず座ってと促したきた。「まずはお互いに自己紹介をしようか…私の名前は…いや"マスター"と呼んでくれ。この店の店長…と言っても分からないか?」と頭の後ろを掻いて悩んでいると、「飲み物を頼むお店でしょ。リニアから教えてもらったからちょっとだけ知ってるよ…私の名前はアリア」と答える。「アリアっていうのかいい名前だ…単刀直入に話そう。エルフは今、裏市場で高く売買されている…」とマスターさんは衝撃的な話を私にしてくれた。幼いからだろうか。詳しくは教えてくれなかったが雰囲気で分かった。人間の中でもしてはいけないことをしているのだと。マスターさんは淡々と語る。「エルフの森が襲われたのは人間の醜い欲望だ。ただ金が欲しいという欲望で、勝手な都合で引き起こした…謝っても謝りきれないが謝罪させてくれ!」…え!?「別にマスターさんがやった事じゃないのに何で謝るんですか?」急に頭を下げたので驚いてしまった。ふと思い出し「リニアは今、何をしているんですか?」頭を下げていたマスターさんが頭をようやく上げ教えてくれた。「リニアという少年は魔王軍の幹部を倒した英雄として王都で讃えられているよ」…「え!?魔王軍の幹部を倒したんですか?」凄まじい事をあっさりと受け流すところだった。10歳の子供が倒したとなると英雄視されて当然だ。でも、本人はどう思っているのだろうか。「アリア、君はこれからどうするんだ?」と突然聞かれた。それはもちろん家に帰って魔法の勉強を………そうか。もう私の帰る場所は無いんだ。今更ながら気づいた事実に思わず泣いてしまった。これからどうすればいいんだろう。どこで生きていけばいいんだろう。「リニアのところに行きたい」と答えるとマスターさんは悲しい顔して「彼に会う事はできない」ときっぱりと告げた。「王都の最年少の英雄に会う前に彼は立派な貴族だ。思うように会う事はできないだろう」。沈黙が訪れる。
「アリア、君がよかったらでいいんだがここで働かないか?」しばらく考えて「私が生きていくにはそれしかないんですよね…多分」。再び沈黙が訪れた。「あぁ、それくらいしかないだろう。街の者は血眼でエルフを探している…安全な場所はここくらいだろう」。マスターさんは申し訳なさそうに私に告げた。
「分かりました、マスターさん…ここで働かせてください」頭を下げて言った。本来ならエルフなんて見ない人がここまで私のためにしてくれたのだ。この人がいなければ死んでいたかもしれない。恩を返さなければ申し訳ない。「いいのか?本当に?」マスターさんは再度確認してきた。「ここで働かせてください。あなたに助けられた恩を返したいんです!」とはっきりと言った。マスターさんは少し考えて「分かった」と答えた。続けて「この店で働くという事はただの店員になるという事だ。エルフだった過去を隠すことになる。別の人間がこの店に訪れる事もある…その覚悟が君にはあるか?」真剣な眼差しでこちらを見る。私は躊躇わず「はい、覚悟はできてます。」と答えるとマスターさんが私に飲み物をくれた。"ホットココア"というらしい。こんなに茶色な飲み物を飲めるのか不安になっていたところ、マスターさんが「甘くて美味しいからそれを飲んで一旦落ち着こう。疲れただろう?」。マスターさんを信じて飲んでみる。濃厚な味だがしつこくないが、とても甘くて疲れた心と体を温めてくれた。安心してして緊張の糸が切れてしまったのか突然眠気が襲ってきた。マスターさんは「大丈夫、安心して眠るんだよ」と優しく声をかけてくれた。まどろみの中香るホットココアの匂いを私は一生忘れないだろう。
あれ?いつの間にか寝ていたらしい。う〜んと声を出しながら体をのばす。何か懐かしい夢を見ていた気がするがはっきりとは思い出せない。まぁいいか。テーブルの上にはホットココアが残されていた。私はそれを一口飲む。「冷めても美味しいホットココア出せるのはマスターだけですよ」と言うと「アリアの夢の終わりにぴったりのホットココアでしょう?」と謎めいた事を言う。「これのどこか"ホット"なんですか?」と軽口を叩く。その言葉を聞いたマスターは微笑みながら店を開ける準備をする。私も準備しなきゃと思い使い古された大事なフードをロッカーにしまいに立ち上がった。
アリアの過去とマスターとの出会いはどうでしたでしょうか?この2人は今では互いに軽口を叩けるような仲です。今後ともこの2人が経営する"喫茶 404"を楽しんでいただけると幸いです。




