8月17日「予兆」
街は蝉の声がうるさくて、耳を塞ぎたくなる程だ。
この街に生まれてから随分と長い月日が経った、けれど
僕の知らないこの場所の一面と言うのは意外とあるのかもしれない
学校帰り、クラスメイトの亮と帰っていると電気屋のテレビに人が群がっていた。
まるで光に集まる虫みたいに、今流れているデタラメに熱中していた。
そんな熱気に水を差すように一人の子供が口を開く
「ねぇママー、のすとらだむすってなに?」
「ノストラダムスって言うのはね、未来...つまり明日がどうなるか知ってる人なのよ」
「それなら僕も明日を知ってるよ!明日は雨が降るんだー!おおさかでもとうきょうでもドシャブリなんだよー!」
「へぇ、こーちゃんは何でも知ってて偉いわね」
母親が少年の頭を撫でると、少年は嬉しそうにしていた。
そんな彼に過去の自分自身を重ねる。
昔から愛も音ももはや空気すらも無い、ただ白い部屋に閉じ込められて、部屋の壁と同じ色をした服を着た男が僕に何かを問いかけてきた過去を。
つまらなかった、興味が無かった。何も
「なぁ、行こうぜ」
亮に話しかけられてやっと意識が戻った、しばらく放心していたように考えていたみたいだ。
くだらない思い出は捨ててしまおうと考えて何年経ったんだろう
「ああ、ごめん」
「考え事か?」
「ちょっとね」
「お前ものすとらだむすが怖いのか?」
亮は笑って言う
「そんなんじゃないよ、あんなのバカらしい...」
「もしかしたら、あるかもだぜ?知らねぇけど」
「なんだよ、それ」
8月17日、18時30分。
一本の電話が鳴った。
「颯?亮くんから電話よ」
母親に名前を呼ばれて階下へ降りる。
「もしもし」
「ああ颯、聞いたか?」
「なんの話だよ」
「オレ達が今日帰ってた時にテレビ見たじゃん」
「あの電気屋さん?」
「そう」
「それがどうしたんだよ」
「それがさ...」
「うん」
「オレ達があそこを離れた20分くらい後に火事があって」
「えぇ?」
「館内に居た人達が全員死んじまったんだって...」
「それ本当に言ってんのか?うちのテレビじゃ、そんなニュースやってないぞ」
「本当だよ。確認してみろよ」
俺は急いでテレビの電源を入れる。
チャンネルを回すが、そんなニュースは見当たらない
「やってなかった、そんなの。」
「...そうか、俺疲れたからもう寝るよ。明日学校休む」
「分かった、ゆっくりしておけ」
そう言うと、電話は切れた。
もう一度テレビを付けてみる。
しかし何の変哲も無い、いつもの番組しかやっていない。
「どうして...?」
そんな時、ふととあるニュースが目に付いた。
「今年で終戦から44年。ですが、今年の8月15日、住沢市の戦没慰霊碑では例年の慰霊祭が開催されませんでした。」
「終戦記念日...」
ふと思い出す。そういえば毎年、ここ住沢市の中央公園にある慰霊碑の前では大勢の人たちが戦没者を弔って慰霊祭を開催するのだ、それが今年は何故か無かった。
「街の人へのインタビューです。」
『慰霊祭?あぁ、もう毎年予算も尋常じゃ無いし、今子育て支援で忙しいからねぇ...しょうがないんじゃないの?』
20代くらいの若い男はそう答えていた。
「今、忘れられていく『戦争』は様々な場所で問題となっています、続いては住沢市平和資料館からお届けします...」
俺はどうしても嫌な気持ちになってしまい、テレビの電源を消した。
人間はどうしていつも...愚かなんだ




