9話:道標
椿に見せられる形で鏡を眺め、次に目に映るこの空間を見比べる。
「…これは、そう言うことなのか?」
フィクションなんかでありがちな"鏡に道が照らされる"のとは反して、なぜか鏡には映らない道が存在した。
正確にはいくつもの浮遊した階段が消え、一つの道になるようにわずかな階段が映されている。
「これって…もしかして出口に繋がってるんじゃない!?」
鏡を持っていない方の椿は、私と同じ結論に辿り着いたのか今まで聞いたことのないような大きな声を出す。
「だとしたら…早く行こうよ結衣ちゃん!善は急げって言うしさ」
呼応するように鏡を持つ椿も私を見、期待に満ちた眼差しで問い掛けてくる。
出口、か。
椿が口にしたその言葉は、私たちが一番欲しているものである。実際のところすでに手詰まりな状態なわけであり、椿の言うことはきっと正しいはずだ。
今こうやっていきなり現れた鏡や、その中で薄れる椿たち…なんなら未だ原因のわからない二人になってしまった彼女たちに対しても不安とも呼べる疑問が残る。
ただ、前に進まなければ何も進歩しないと言うのなら…
「そうだな、よし、わかった」
唯一の希望を探すように、私たちは鏡を導に再び歩み出した。
※※※
鏡には見えない階段たちを横目に、私たちは進む。
あまり気にしていなかったので気づかなかったのだが、この空間は照明らしきものもないのにとても明るく、現実ではあるはずの影が足元にはない。
そのせいかわからないが進んでも進んでもそもそも前進しているのかどうかすら怪しく思えてしまっている。
「結構歩いたけどなーんにもないね」
目の前を歩く左側の椿の一人が愚痴をこぼすように言う。
「そもそもこの道を進んだとして何があるんだろ?もしかして行き止まりとかなんじゃあ…」
それに続くように右側にいる椿は不穏なことを呟く。歩き続けているせいだろうか?どうも少し疲れた表情が汲み取れる。
「ま、あんまり期待しない方がいいのかもな。そもそも出口じゃなくてなんか別のものが落ちてる場所に案内されてるのかもしれないし」
やすやすと希望的観測をしたところで、それを裏切られた時の絶望感ときたら半端ない。なので、それとなくらしいことを言っておく。
「むー…結衣ちゃんはいっつも意地悪なんだから…ね、疲れたならちょっと休もうよ」
左側を歩く椿は自分の同じ姿形をしたもう一人に対し、促すように休むことを提案してきた。
「んーん、これぐらい大丈夫だよ。ありがと、もう一人の私」
そういうと右を歩く椿は軽く呼吸を整え、再び歩き出す。
どちらかが"本物"でどちらかが"偽物"の椿。姿形は全く一緒で同じ記憶を持っている、私の目から見たら見分けのつかない椿たち。
そんな彼女たちだが今、目の前で明らかに区別のつくことが起きている。
理由はわからないけれど、未だ体力に余裕がある椿と明らかに疲弊している椿。この違いはなんなのだろうか?
もしかしたらそこに答えがあるのではないかと、歩きながら思案していると、目の前を歩く椿たちが立ち止まり鏡を取り出す。
「どうした?もしかして道でも間違えたか?」
「えっと、そうじゃなくて…」
言い淀む雰囲気を出しながら、彼女たちは疑問に満ちた声を出した。
『鏡に…この先の道が映っていないの』




