7話:矛盾点
「辻褄が合わない?」
「どういうこと?」
二人の質問がまたしても私を責める。
「だってよ、この話はもしも死んだはずの人間が生きていた場合にその辻褄が取れなくなるんだよ」
『???』
「わかったからその「何いってんの?」みたいな顔を一回やめろ…」
二人の椿は状況に慣れてきたのかどんどんと息が合っている様に見える。
いや、もともと二人とも椿だとするなら息が合うなんて言うまでもないことなのか?
「よし、今度こそお前らに理解してもらえる様に話すからな」
「ほいっ!」
「さーこい!」
椿たちは各々、ボールを受け止めるようなジェスチャーで私の前に立ちはだかる。
なんなんだこいつらは…?私が説明してやってるはずなのに…
雰囲気に飲み込まれないように一呼吸を置いた後、話し出す。
「例えばだ、死んだ本人は“死ぬ瞬間”を体験してる。でも後から現れた人間はその体験をしていない。てことはつまり、その人格は“死ぬ瞬間"を味わってないんだから本物とは言えないんだよ」
私の話を静かに聞いていた椿は、何を思ったのか同じように一呼吸置いた後、口を開いた。
「なるほど、確かにそれだと理にはかなってるかもね」
「ましてや結衣ちゃんの言う"死ぬ瞬間"なんてのは好き好んで体験したいとは誰も思わないもん」
「ああ、そういうことだ。この矛盾を解決しようとすると自ずとこの問題の答えが出てくる」
二人の椿を交互に見る。
この答えは"説教を受けていない椿"に対しては酷なことかもしれないけれど、声に出して彼女たちに伝える。
「つまり私が言いたいのは後から生まれた人間は紛れもない"偽物"ってことだよ」
※※※
目が覚めた時は二人だったのに、なぜか三人になった私たちはひたすら歩いていた。
『〜〜〜♫』
目の前の椿たちは気分よく、歩きながら鼻歌を歌っている。
結局のところ、私は言いたかったことを彼女たちに告げたのだが椿たちは「そのことはおいおい考えようよ。今はここから出る方が優先でしょ?」と言い、私はなぜか宥められた様に従っていた。
「なあ椿ー、っってもここから出る当てなんか本当にあんのか?」
実際、ひたすらに階段を歩いているわけだが現状"椿が二人に増える"なんていう厄介ごとにしか遭っていない。
「まあまあ」
「焦ってたら大事なことを見落としたりしちゃうかもよ?」
椿たちは阿吽の呼吸でぼやく。
「そんなこと言って…今の状況を楽しんでるだけじゃ…」
私が皮肉を浴びせようとした時、椿たちは突然立ち止まったと思うとその場でしゃがみ込む。
「ちょ、いきなり立ち止まるなよ、危ないだろ」
「ねえ結衣ちゃん、これ見てよ」
椿たちは立ち上がり、振り返ってくると左手に何かを持っている。
手から少しはみ出るぐらいのサイズで丸い円形の縁の中に左右非対称の私の顔が映るそれは──
「鏡か?」
どうやらこの鏡も同じ様に古臭く、縁は銀色の輝きを纏っている。
なぜ鏡が?
当然の問いが浮かぶと同時に、その鏡を椿が覗き込もうとすると、私は唖然とする。
「ねえ結衣ちゃん…なんで私たち透けて映ってるんだろ?」
度重なる不思議な出来事は、時が経つと同時に増えていくばかりだった。




