表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洗濯機が壊れたからコインランドリーに来たら冒険が始まったんだが  作者: ただの斧好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

3話:階段空間

「っ…なんなんだ一体…」


 目をこすりながら見開くと、そこには想像できないような光景が広がっていた。


「……」

 階段がある。それだけだったら、どこにでもある階段がある“建物”と認識できるがーー

 この空間は、どこもかしこも階段だらけだった。

 正確には、階段が所々に“浮かんでいる”と言えばいいのだろうか。その階段は上下左右、なんなら角度を問わず、意味もなく配置されていて、私の理解を拒もうとしてくる。


「意味がわかんねえ…」


 あまりの光景に理解が追いつかず、頭を抱えていると、開いた目に一人の少女が映る。


「おーい、結衣ちゃーん!」


 声が響くように手を口の横に置き、大声を放つ椿がそこにいた。

 ……いたのだが。


「どういうことなんだよ…」


 そこには椿が歩いている。そう、歩いているだけなら普通なのだがーー

 彼女はなぜか天井に足をつけ、逆さになった状態で歩いていた。


「すぐそっちに行くから、ちょっと待っててねー」


 そう言い終えると同時に、とんっと地面を蹴る。物理法則を無視するように、椿はふわふわと落ちてきながら体を回転させ、正しい意味でこちらへ降りてきた。


「ほいっ」

「いや、“ほい”じゃないだろ!?」


 さも当然のようにこの空間に適応している椿は、軽く着地したあと、何を思うか腰をおろし、床をぺたぺたと触り出す。


「うーん、特に仕掛けがあるわけじゃないかー」

「いきなり何してるんだよ」

「ん?ああ、結衣ちゃんは今目が覚めた感じだったり?」


 振り返ることなくまじまじと床を観察する彼女は立ち上がり、私の様子を見つめてくる。


「そうだけど…その様子だと椿はもう少し前に目を覚ましたのか」

「ご名答!」


 勢いよく振り返り、ビシッと指を突き立てながら笑みを浮かべてくる。

 別に褒めてないぞ…


「目が覚めたらこーんな場所にいてさ? 結衣ちゃんもいないし、とりあえず歩いてみるかー、なんて思ってたら、なんとビックリ!飛んでみたらふわーって上まで行って、天井歩けちゃったんだよね」

「“ふわーっ”じゃないだろ…」


 ゆるい説明に疑問を持ちながらも、確かにこの目でその事実を見てしまっている以上、何も言い返せない。


「それで歩き続けてたら下の方に結衣ちゃんが見えてさ、降りられるかなーって思いながら飛んでみたら、ご覧の通りって感じ?」

「ごめん、ちょっと理解が追いつかん…そもそも私たちはなんでこんな場所にいるんだ…?」


 確か…そうだ、記憶が正しければ私たちは洞窟みたいな場所にいて――扉。そう、あの錆びついた扉に椿がタックルしたと思ったら、光に包まれて……


「なあ椿、ここに来る前、どこにいたか覚えてるか?」

「えーっと、もしかしてあの洞窟のこと言ってる?」


 どうやら私たちの記憶は正しいらしい。コインランドリーに閉じ込められて、床をぶち抜いた先に洞窟があったことは、今の言葉からも紛れもない事実だと証明された。


「おっけー、椿。その後のことは覚えてるか? 扉を開けた後のことだ」

「んー? そうだねぇ、確か扉を開けてすっごい眩しい光が見えてきて……あれ、どうなったんだっけ?」


 ……どうやらあの後、私たちの身に何があったかは、私も椿も覚えていないらしい。


「となると、このわけのわからない場所に私たちは囚われてるってことなのか…」


 辺りを再び見回す。そこには変わらず階段が浮かんでいて、どこにも出口らしきものは見当たらない。


「コインランドリーから洞窟、そんで意味不明な階段空間……なんでこんな目に遭ってんだよ…」

「ねー、洗濯機が壊れなかったらこんなことになってなかったのにねー」


 落ち込む私に寄り添うように、椿は声をかけてくる。

 椿はいつもはおちゃらけているけれど、案外こういう時の気遣いは一丁前に上手い。


「なんかどんどん現実から遠ざかってる気がしてならないんだけど…」


 立て続けに起こる珍妙な出来事に、弱音が出てしまう。

 むしろこんな状況で弱音を吐かない人間がいるのだろうか…?

 冷笑するように目の前の事実から目を背けていると。


「まあまあ、とりあえず前進してるってことにしてさ、辺りを探索してみようよ」


 そう言った椿が軽い足取りで目の前の階段を上がっていくので、仕方なく私は後をついていくことにした。

 上下左右、さまざまな階段を歩いているとき、ふと思い出したように椿に話しかける。


「そういえば椿、あの鍵まだ持ってるのか?」

「鍵? ああ、これのこと?」


 椿はポケットから銀色の鍵を取り出す。

「そうそう、それそれ。しっかしほんとに大きい鍵だよな」

「確かにねー。ポケットに入れたはいいんだけど、正直けっこう重いんだよねー」


 手に持った銀色の輝きを放つ鍵は、先ほど見た洞窟よりも明るいこの空間だと、一層綺麗に見える。


「にしてもこの鍵、何のためにあるのかなぁ? ゲームならって前に言ったけど、だとしてもこんな場所には明らかに扉なんかなさそうだしなぁ…」

「ゲームじゃなくても、こんな鍵どこで使うかなんてわからないだろ。ただでさえやけにでかいわけだし、こんな鍵穴存在すんのかって話だ」


 大きな鍵穴、と自分で言った瞬間、ここに来る前に見たあの扉を思い出す。


「そういえば、あの扉もサイズ的には異様にデカかったよな…」


 錆びついた三メートルほどの大きな扉。あの扉を開けたことで、私たちはここで目を覚ました。


「もしかしてだけど…その鍵、あの扉を開けるための鍵だったんじゃねえのか?」

「えぇー、そんな都合のいいことあるかなぁ? 私は扉には突撃したけど、鍵を差したりとかそんなことはしてないよ?」


 確かに椿は鍵を持っていたけれど、鍵を開けるそぶりはしていなかった。というか、そもそもあの扉に錠前が付いていたようには見えなかったし。


「謎が謎しか呼ばないな…」

「だねー。ま、いずれわかるでしょ、多分」


 根拠のない言葉が宙を舞う。

 それがどうであろうと、私たちは今はとりあえず階段を登ることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ