2話:床の下の洞窟
階段を下ってゆくと、薄暗い洞窟のような場所に繋がっていた。
壁の方に目をやると火がゆらりゆらりと揺れ、一層不気味な雰囲気を醸し出しているように思えてしまう。
「ここは…」
壁を見てみるとゴツゴツとした岩で覆われており、視界はほのかに明るく先ほどまでいた場所との温度差で現実のようには思えない。
「ほえー、なんでコインランドリーの下にこんな洞窟があるんだろ」
目の前を歩く椿は、好奇心のままにくるくると回りながら洞窟を進んでいる。
「椿ー、暗いんだから足元に気をつけろよー」
注意を促すように声を上げてみると、自分の声がこだまするように洞窟に響き渡る。
「大丈夫ー、私、目だけはいいってよく言われてたからー」
「いやそれは褒められてないからなー」
いつもと変わらないやり取りをする。こんな場所なのに物怖じしない椿は、本当にさすがとしか言いようがない。
「んー? 何だろこれ」
前を歩く椿の足音が止む。少し歩くと、立ち止まっている椿の背中が見えてきた。
「何かあったか?」
背中越しに声をかける。
「うん、こんなものが落ちてて」
椿は振り返り、彼女が見つけたであろうものを手に持ってこちらに向けてくる。
「これは……」
「鍵、だね!」
そう言った椿の手には、一般的な鍵と比べて大きく、私の手のひらサイズの鍵があった。
さらにその鍵は銀色に輝いており、どこか古めかしいアンティーク品のように見える。
「なんで鍵なんか落ちてるんだ?」
「わかんない…けど、とりあえず持っておこっか。だいたいこういう時っていつか使うのがお決まり、みたいな感じだし」
「お決まりって…椿、お前ゲームかなんかと勘違いしてるんじゃないか?」
落とさないようにとポケットに鍵をしまった椿は、再びこちらを見て口を開ける。
「だってさー、脱出不可能部屋に地下の洞窟…明らかに脱出ゲーム的な感じしない!?」
なぜか楽しそうにそう言った椿は、目を輝かせながら私を見ている。
「お気楽なことだなぁ…一応私たち、意味不明なことに巻き込まれてるんだぞ?」
椿が言うように、部屋に閉じ込められたり、謎の洞窟を探索したり、確かに見方によってはゲームのように見える。
だがそれはつまり、非現実的な事象に遭遇しているとも言える。
「でもでも、こんなこと滅多に体験できないんだからさ! 楽しまなくっちゃ損じゃない?」
こんな体験を常日頃からしていたら、それこそどうかと思うけれど……
「ああ、そうかい…」
口には出さず心のうちに仕舞う。好奇心旺盛な椿相手にいつまでも正論を唱えていると、こちらが持たなくなってしまう。
「とりあえず、まだ道は続いてるっぽいし、行けるところまで行ってみるか」
「だねー、鬼が出るか蛇が出るか…うーん、楽しみ!」
「……」
元気溌剌(?)な椿に呆れながらも、私は彼女と共に洞窟を歩いていった。
能天気な椿の後ろ姿を見ながら歩いていると、洞窟の壁に錆び付いた大きな扉が見えてきた。
「何あれー!」
「扉…か?」
近づいてみると、気圧されるような感覚に飲まれそうになってしまう。
多分三メートルはあるだろうか。私たちの身長を優に超えるその扉は、遠目で見た以上に錆びついていて、開くかどうかさえ怪しく見える。
「何でこんなところにこんな扉があるんだ…?」
その異質さに少し不気味さを感じ、冷や汗をかきながら扉の前に立ち尽くしていると――
「んー、悩んでるなら…開けちゃえー!」
「おまえっ…!」
何を思ったか椿は全身を使ってタックルするように扉へ突撃する。
すると――
錆びついた扉はガコン!と音を立てて開くと同時に、その先から眩い光が放たれる。
どんどんとその光は強くなり、私たちを包んでいって――
「くっ……」
「お、おおー?」
そして次の瞬間、私たちは意識を失っていた。




