第玖話 じいさん、鬼教官になる
明日は分かりませんが今日は投稿出来ました
お暇つぶしにどうぞ
戸惑いを隠せない様子で侑花ちゃんが儂らに頭を下げてきましたねぇ。
「ジョブが出ちゃいました」
その先を言わずに俯く様子に儂らまで不安になって来ましたねぇ。
ポチがぶるんと体を震わせると本来の大きさになって侑花ちゃんに寄り添うように伏せましたねぇ。
その大きさときたら大型犬の域を超えポニー程度なんですけど、そんな事に気が回っていない様子の侑花ちゃんはポチの尻尾を揉みしだいて気を紛らわせようとしているようですねぇ。
まさか、将来性の無いもとい乏しい投擲士が出て戸惑っているとか、なぜか超近接攻撃の殴り屋に目覚めてどんな醜悪なモンスター相手でもすぐ目の前まで行かないという事に気付いたとか、それとも―――
「アーチャーが出ちゃいました・・・はは」
「えっ?叔父さん!侑花ちゃんの勘違いかも知れないから確認を!」
「おっ?おぉぅちょっと待ってろよ・・・鑑定出来たぞ」
デリカシーの無い祭藤一尉がアカリちゃんに急かされて自分が出した鑑定結果を書き出し、儂らの前に曝け出しましたねぇ。
姪っ子に急かされて調べるまではいいとして、そんなもの本人に見せてからその了承を得て初めて衆目に晒すものでしょうが・・・こんなだからこのおっさんも今後昇進なんて永遠にありえないでしょうねぇ。よくもまぁ、こんなのが曲がりなりにも二佐まで昇進出来た事が有るってのに驚愕しかありませんよ。
日本の自衛隊は大丈夫かねぇ?ダンジョン対策に感けて人材教育を手抜きしてるんじゃないでしょうねぇ?
それとも鑑定スキルの保持者があまりいないから背に腹は代えられずってトコでしょうかねぇ?
まぁ、散々文句を言いましたけど儂らも侑花ちゃんの鑑定結果を見せて貰う事になりました。もちろん、わしは本人に了解を得ましたからねぇ(だって嫌われたくないじゃありませんか)。
コンプライアンスを舐めちゃいかんですねぇ。
市原侑花 18歳 レベル1
アーチャーレベル1
体力 7
魔力 2
腕力 4
防御力 3
瞬発力 6
運 11
スキル 集中レベル1 身体強化レベル1 隠密レベル1
レベル1でスキルが3つもあると褒めるべきなのでしょうかねぇ。それとも・・・
「流石は海長会長の身内でいらっしゃる!ジョブが生えたばかりでスキルが3つもあるなんて!
俺なんてまだスキルは2つしか生えてないんですよ?」
そう言って見せてきたアホウのプロフィールは、あっちこち見せられないものがあるらしくで所々を指で隠しながら紙に書き出したものでした。隠すくらいなら最初から飛ばしておけば面倒が無いのにねぇ、無意識に無駄に几帳面で融通が利かない所がアホウが無能の証拠なんですけどねぇ。
花田泰生 38歳 レベル※
戦士レベル.3
体力 9
魔力 0
腕力 6
防御力 6
瞬発力 3
運 3
スキル 強振 ※※
「へぇ、昇級試験ってソルジャーの3程度で受けられるのかねぇ」
「何を隠しているかと思えば自分のレベル、ですか?
貴方のレベル1時のステータスは記録されてますから貴方の今のレベルは簡単に割り出せますよ?だってステータスの伸び方は人それぞれだけど固定されてるのよ。
当然あなたはその事は知っているわよね」
アカリちゃんの言葉に慌ててアホウは紙きれを引っ込めようとしたんだけどねぇ。
「あかり、こいつの基礎値を覚えているか?」
「全職員のを覚えてますから大丈夫ですよ。
えーと6、0、4、3、2、3でレベル3の時が7、0、4、4、2、3でしたから係数が0,5~0,9、0~0,4、0~0,4、0,5~0,9、0~0,4、0~0,4で今が9、0、6、6、3、3ですからざっと計算してレベル6ですね」
「お前はマジで理数系だな・・・でもだったら本人がレベル6でジョブがレベル3ってジョブが高すぎんか?普通ジョブが3になるのは本人が15ぐらいないとおかしいだろうが」
「そ、それはそのぉ―――」
話が逸れまくってますけど今はアホウの疑惑はどうだっていいんじゃないですかねぇ?今までの様子じゃどう見ても真面な事してレベルを上げてたようには見えませんですからねぇ。
「お嬢ちゃん、アーチャーがどういうもんかは知っているのかねぇ?」
「・・・遠距離攻撃のゴミって聞いてました」
うっわぁ、探索者一家の中じゃそんな会話がごく普通にされていたって訳なんだねぇ・・・実際遠距離では魔法職一択でアーチャーはポーター、ティーチャー、サマナー、テイマーと並び称される不遇職だって元々部外者だった儂の耳にも聞こえていたぐらいだからねぇ。
ポーターがなぜ不遇職だったかは知ったばかりでしたけどアーチャーは何故なんでしょうねぇ?
というよりこのままじゃ相当使い込まないと実戦には耐えられないんじゃないでしょうかねぇ。
「おじいちゃん、そんな顔しないでね。侑花は解ってるの。これじゃあみんなの足を引っ張るだけだって」
「なんのなんの、若者を育てるのは年寄りの特権ですからねぇ。
こんなでも儂の防御力は30を超えてるだから多少矢が当たったところでケガにもなりゃあし無いからねぇ」
「やっぱり非力ですもんねぇ・・・侑花はジムに行って腕力を上げてきます」
いやいや、そっちに行かなくてもいいんだけどねぇ。
自虐が入って『非力』なんて言い出した時は、この娘は辞めちまわないかって一瞬心配になりましたけど探索者一族は根性が座ってますねぇ。
ダンジョンに入ったら筋トレしようが物に当たり散らそうが一切能力は変化はしないんですよねぇ。
言ってみたら精々基礎値にほんの少し上積みがされる程度、数値が1上昇するのにかかる経費や時間を考えてみればスライムでも地道に1日5匹ずつでも倒していった方がレベルも上がるし能力も向上するってもんなんですよねぇ。
一応説明しておきますと、能力値の数字は10が成人男性の平均値でこれは『日本では』という前提が付くんですよねぇ。中国では中国の、アメリカではアメリカの、EUではEUの平均値で比べると実際の数値は其々なんだそうですねぇ。
例えば日本人の握力の平均は45kg程度ですから儂は腕力なら65(素は5なのよ。年寄りには優しくしてね♡)ですから外では25kgでも理論上は290kg以上で実際はダンジョンの中なら300くらいは出せるという事になる、って事は侑花ちゃんは弓矢でダンジョンの中でペチペチしてねって事なのよねぇ。
「俺はギルドの職員だから最低限のスキルがあればいいんだよ。
それよりもせっかくジョブも出てスキルも貰えてるんだから会長のお孫さんの装備を一新して鍛えたげた方がいいんじゃないの?
でも的中スキルが無いから近くで撃たなきゃならないと当たんないから上達しないんだよな。下手すりゃ獲物が逃げないように押さえとくとかしてやった方がいいかも知れないし。
でもなぁ、的中スキルが無いと一定確率で矢が跳ねて押さえてる方にフレンドリーファイヤーが行っちまうし危ないんだよなぁ。かと言ってソロでやったところで矢が散って通りすがりの他の連中に被害が出たりでもしたら損害賠償事案になったり揉める原因になって騒動の元になったりするかも知れないか。
矢代も相当嵩むって言うし会長みたいに剣でも振って違うジョブを発現させた方がいいかも」
アホウめアカリちゃんの追求から逃げたいんだか何だか知らんが余計な事をべらべら喋ってくれてますねぇ。侑花ちゃんの表情がどんなになっているか気付かないんですかねぇ?
でもこれがアーチャーが不人気な証拠なんでしょうかねぇ。
アホウの必死の話題の転換(誰も逃がしちゃくれてませんがねぇ)は尚も続いてますねぇ。
「このままアーチャーやってたら負の連鎖で潰れちゃいますからここは禁じ手でも使ってさっさとソルジャーでもソードマンでも発現させた方がいいですって!
だって今のままじゃ的中を持たないからそう簡単に矢は当たらない。
そうすると練習量に見合わない程大量の矢を紛失する。当然、経済的に苦しくなる。そうなってから一か八かで他のジョブが生えないか剣を振り出す。独学でちゃんとスキルが生えないままモンスターに挑んだ挙句負けてケガをして再起不能になって廃業する或いは死んじまうだとか、もしパーティーを組んでいてもアーチャーは当然後衛だからモンスターに当てたきゃ前衛にいる接敵している仲間の方に撃たなきゃならない。でも的中が無いとモンスターには当たらず一定数は仲間に矢が当たる。当然ながらそれが続けば仲間の信用を失う。となると必然的にパーティーから追放される。そうなったらポーターになるか廃業かの二択になるしかなくなるんだ。もし見捨てられなくても仲間を撃ってしまった事がトラウマになってイップスを発症する。そうなったら当然仕事が続けられなくなる。最終的には廃業するしかなくなる。
そんな未来しか見えてこないじゃないか!
でも今ならソルジャーのジョブを持ってる俺が側に居るんですよ!
今なら禁じ手を使ってでもソードマンにでもなればちゃんと教えられて真っ当な探索者に成れるってもんでしょ?
ここはオレが手取り足取り仕込んであげますから大船に乗ったつもりで「最近のハエは言葉を喋るんですかねぇ?煩くて仕方ありませんねぇ・・・
せっかく生えたジョブを貶されてお嬢ちゃんがどんな思いをしてるのか判ってるんですかねぇ?
体が出来上がってないのにジョブだけ歪に育っているアンタに教わるくらいなら儂が面倒見てあげた方がまだ為になるってもんでしょうねぇ。
どうせ老い先短い年寄りなんですから儂を踏み台にして腕を磨けばいいんじゃないですかねぇ?
どうしてもダメだったら祭藤主任さんに禁じ手を使って貰えばいいじゃありませんか、ねぇ?」・・・」
禁じ手禁じ手と偉そうにガタガタ言うんじゃありませんよ。
アホウに任せるぐらいなら儂が手取り足取り鍛えてあげた方がよっぽど為になるに違いありませんよ、ねぇ?
あ、また涎が・・・いやいや、下心なんてある筈が無いじゃありませんか!




