第参拾肆話 乳神様、荒ぶる
「夫婦です。たった三人で挑戦するとか狂気の沙汰だと思いますけどウチのアリスを引き抜こうとか思ってるんでしたらお門違いです」
この髭もじゃは一体何をほざいているんでしょうかねぇ。乳神様を呼び捨てにした上に頭に『ウチの』を付けて来るとか冒涜の一言に尽きるんですけど?
「・・・おい、望月。いつあたしとお前が一緒になったんだ?
お前らが泣いて頼むから仕方なく付き合ってやってんのに夫婦だぁ?
もしかしたらアレか?あたしのテントにしょっちゅう潜り込もうってしてたのって既成事実でも作りゃあ言う事聞くとでも思ってたって事か、あ゛あ゛?
ボス攻略までが契約だったけどさ、こんな事言われちゃあたしの沽券に係わるってもんだ!
悪いけど契約は破棄だ。黙って死んできな。
それからもし生き残っても二度とあたしの前にツラ出すんじゃねぇぞ。命の保証はしねぇからな」
いくら乳神様が美人で凄いモノをお持ちだからって寝込みを襲おうとか思うだけで万死に値するってもんじゃないですか。生きて帰すとか神様過ぎますねぇ。
「え、で、でも。今回も出来高払いでしたから生きて帰らないと何も払えないんですけど」
「こっち都合の契約破棄って事にしてやっから何にもいらねぇ。
どうでもいいからその湿気たツラいい加減引っ込めねぇとその糞見てぇな事しか思いつかねぇ脳クソここにぶちまける事になるが、それでいいんだな?」
乳神様ったら荒ぶっていらっしゃいますねぇ・・・見ているだけのこっちのまで縮み上がってしまいそうですねぇ。
もういいトシなんで大して縮みもしなくなっちゃいましたけど。
乳神様の剣幕に恐れをなした髭もじゃたち『アーバンブリーズ』はそのまま荷物を畳んで撤収してしまいました。
奴らの表情は乳神様への畏敬と恐怖、儂ら『ウルフアンドパンサー』に対する妬みや怒りで青くなったり赤くなったりと忙しそうでしたがそのまま帰すと何かと遺恨が残りそうですねぇ。
「望月さんとやらちょいといいかな?」
「な、なんだ!猫がいなきゃ何も出来ないくそジジイの癖に僕たちを罵倒しようとしてるのか?」
いきなりのディスりありがとうございます。
「いえね、あんたがたを見てるとどこで愛想を尽かされたか解ったような気がしてねぇ。助言をしたいんだが、いいかな?」
「くっ!探索者に成ったばっかのジジイの分際で探索者歴3年の僕たちに何を偉そうに訓示を垂れようというんだ!」
中々に沸点の低いインテリ野郎だね。髭で誤魔化しても探索者としても凄味なんて微塵にも感じられないんですけどねぇ。
「その楯見て気付いたんですけどねぇ、あんたら近接戦不得意でしょ?」
ハッとする望月とその他大勢。鎧が汚れているのに商売もんの筈の楯が金ぴかって段階で接近戦はやってこなかったって事が丸わかりなんですよねぇ。その上に乳神様におんぶにだっこで寄生して挙句の果てには肉体関係を強要して甘い汁だけ吸おうなんて考えを起こしているんですからクズもいいトコですよ。
「だからって寄生先を見つけて楽しようとか思う前に、先ずはゴブリンでもスライムでもいいですから自分の持ち物で叩いて倒していかないと先は無いよ」
これは乳神様になぜか見込まれてしまった我が身への自戒と決意みたいなものですけどねぇ。
「臭いし怖いし大体そんな事したら危ないじゃないか!」
「じゃあさっさとこの稼業からは足を洗う事ですねぇ。ここは綺麗事じゃ生きてはいけない世界ですねぇ。
儂より長くこの界隈にいたんだからそれくらいの事は判るでしょうがねぇ。
ここにいるお嬢ちゃんなんてアンタたちがきっとバカにしている弓持ちですよ。そう、アンタらが舐めて掛かって罠に掛けてでも寄生しようと思っていた熊谷さんと同じ弓持ちですねぇ。
でもこの子はいざ弓が使えなくなる近接戦になっても貢献できるように色々と勉強をしていますねぇ。
今すぐはモノにならなくてもいずれは何かの足しになる事を信じて努力してるんですねぇ。
今のあんたらにはそれが見えてこない。自分を甘やかしてきた鼻に衝く異臭が立ち込めていますねぇ。
今のままじゃアンタらは野垂れ死ぬ。それも逃げる事ばかり考えて背中から攻撃を受けて殺される事でしょうねぇ。
かつて坂本龍馬もこう言ったそうじゃありませんか。
死ぬ時は前のめりにってね。
少なくとも儂はそう死んでいきたいと思ってますねぇ。出来る事なら守るべき全てのものを背中に隠してねぇ。
それが出来ないんでしたらアンタらは今からでも探索者なんて稼業を続けちゃダメだ。以上ですねぇ」
きっと長話は聞く耳なんて持っちゃいないでしょうがねぇ。我ながら年寄りの話はくどくて遠回りでしつこいですから聞いてらんない事でしょうよ。
でもこれは自分と仲間に対する宣言のつもりですから目の前の不貞腐れている馬鹿どもが聞いていようがいまいが関係ないんですねぇ。
これは儂からダンジョンへの、いや世間一般への宣言なんですからねぇ。
「ほら、ダーリン!前が空いたからボス部屋に入るぞ。
そのバカ共はあたしも大分我慢して教育したけどどうにもなんなかったからもうほっときな。
全てはこれからのショータイムに注ぎ込むんだからさ!」
「私たちって阿莉子さんと知り合ったのはついさっきですよね(# ゜Д゜)?
それで何ですか?ダーリン?これからのショータイム?パーティー参加を依頼した事も受諾した覚えもありませんがなんで仕切っているんでしょうか(# ゜Д゜)?」
「何拗ねてんのさ、アンタと知り合ったのだったらもう2年くらいになるぜ?えーと『鬼姫』さん?」
えーっとなんか神と推しが啀み合っているんですけど・・・後ろが詰まってますからまずは前進をですねぇ・・・
「あー、これはどうしようもないよねぇ。すいません、後ろの方達、お先にどうぞ」
「ちょっ!侑花ちゃん何を勝手に!」
「熊谷さんを仲間にするのに色々事務仕事があるんでしょ?
だったら順番を譲ってちゃんとパーティーを再構築しちゃいましょう?」
「若いのに気が利くじゃねぇか!そりゃきっと鬼姫さんの薫陶の賜物ってか?」
「茶化したって何も出ませんよ(# ゜Д゜)!
それより先に行かせちゃった子たちがクリアしちゃったら明日出直しなんだって事はよくわかっているのよね?」
侑花ちゃんが機転を利かせてくれたおかげでその場は収まりましたけどねぇ・・・アカリちゃんったら睨んじゃダメだったら。




