第参拾壱話 敏腕職員の晒し者日記
明日は分かりませんが今日は投稿出来ました
お暇つぶしにどうぞ
晒し者生活二日目。
慣れた手つきでカウンターからよく見える柱の前に茣蓙を敷き、チョコンと体育座りで始業を迎える。
ここから今日も心を無にする8時間耐久レースが始まる訳だ。
何でこうなった。
切っ掛けは、昨日あのジジイが分不相応な大荷物を抱えてきた事だった。
長柄の斧と思われる代物を如何にも呪われているかのように呪い除けの布に包んでさも重そうに持ち帰ってくるとギルド到着早々その長柄をドロップさせたと思われる『虹の勇者』から返却を求められてそれを拒むなどと言うポーターとして許される筈のない行動を示して騒動を引き起こしたんだ。
確かにジジイが昼にブサイクと小娘と連れ立って出発した時には、いつも通りに猫を抱え犬のリードを握っていた。
で、帰ってくると犬はいない、女どももいない、猫は自分で歩いている、長物を抱えている、前後をいつもは六人の虹の勇者のうち三人だけがさり気なく固めている。
こりゃあ虹の勇者がなんかトラブってその隙を狙ってジジイが小銭稼ぎに荷物を運んだってトコか。
たしかジジイは、ポーターでテイマーだかサマナーだかだった筈。いつも連れてる犬と猫がコボルトやらゴブリンやらの擬態なんて事ぁ無いから今はただのポーターだな。テイマーにしてもサマナーにしても手下に出来るのはコボルトゴブリンスライムが関の山だからな。
よく考えて見なよ、もし犬猫がテイムドモンスターだったら誰だってペットを持ち込んで探索者を名乗ってるだろうさ。もっとも自称でよければ、そしてモンスターを自力で倒せるならだけどな。
ジジイのレベルが101ってのがあの能無し鑑定屋の誤読じゃなけりゃだけどレベルだけで倒せるってなんてもんじゃないからな。あの親父の答えが合ってるかなんて俺たちからは推し量れないんだからウソ吐かれてても解らねぇし、その上いつも偉そうで信用は出来ねぇからな。
それにしてもジジイがどうやって魔石やらドロップ品やらを掠め取っているかは、自分の目で確かめたいもんだったぜ。
んで、その手口らしき糸口ってのが虹の勇者とのやり取りから見えてきたんだ。
まずは虹の勇者から軽くジャブで返還要求だ。
「おい、じいさん。随分苦戦してるみたいじゃねぇか。何ならおれたちが運んでやってもいいんだぜ?
て言うかこれ、元々おれたちの獲物だよなぁ」
それに答えるのは面の皮が象のケツ並みのジジイだ。
「あんたらの獲物?アンタらが倒したのならなんで運んでなかったんだねぇ?
こっちは落ちてたもんを運んでくる落穂拾いだ、持ちもしない連中にタダで呉れてやるほどボランティア精神に頭が侵されちゃいないんですがねぇ」
落ちてたブツを拾っただけだ?
要はモンスターを倒しては見たもののとかく呪われてる事が多いドロップ品を拾うかどうかで躊躇ってる隙にジジイが横から搔っ攫ったって事か。億単位で弁済しなきゃならねぇらしいから置き引き紛いな真似も御茶の子さいさいッて訳か・・・つくづく腐ってやがる。
ブサイクもこんなのとよく一緒にやってられるな・・・って似た者同士でウマが合っただけか。
それからのすったもんだの挙句にジジイと虹の勇者たちは、ギルマスに別室に引っ張って行かれちまったんだ。
そうなると残るのは膨大な数の魔石とドロップ品の数々。
床に放置という訳にも行かねぇだろうし生配信している輩の手前放置って訳にもいかねぇんだ、残念だがな。
仕方なく回収しようとするとあの猫が俺に向かって威嚇をしてきやがったんだ。
業突く張りのペットは主人に似て業突く張りだったっての。
それでも床に散らばるゴミは、片付けねぇとケガする馬鹿もいるだろうし美観の問題もあるから所有者の不明な拾得物はギルドに帰属するってのが世の習いってもんだからさ、クソ猫はサッサとどけ。
なんて舐めてた事もあったけど長物に手を伸ばした瞬間、激痛と共に右腕が床に転がり落ちたんだ。
激痛に霞む眼に映り込んだのは、鼻息も荒く長物を渡さないと意思表示をする為か牙を剝き出しにし眼を血走らせて俺を威嚇する黒猫の姿だった。
その後、俺はポーションをぶっかけられ切り落とされた右腕と共に病院送りって訳だ。
切り口が鮮やか過ぎて細胞が死んでなかったから普通にくっついたって医者が笑ってたけどこっちは気を失ってっから何にも言えねぇよ。
病室で聞いた話だとあの猫は・・・大きさも豹になってたけどありゃ一体何なんだ?とにかく、アイツは守っていたジジイの荷物を他人が手を出せないようにギルマスの個室に引きずり込んで籠城を始めたらしい。
攻撃力は高いし知恵も働くって事は、普段のだらけた格好は擬態だったって訳だな。
ともかく治療が終わってギルドに戻ってみると、なぜか下剋上が起きててサブマスがギルマスの席に踏ん反り返ってて俺には主任心得の資格返上と公開処刑が待っていたって事だわ。
んでもって昨日から気が付いた事は、正座は十分しか持たない、胡坐は慣れないと転がる、体育座りは周りの同情も買えて体の負担が少ないって事だけだったって事さ。
晒し者生活六日目。
いつまでこんな事続けなきゃならないんだろう。
もう完全に空気になって誰もこっちに触れもしねぇ・・・話し相手もいねぇ。
戯れに目の前に置かれた空き缶には二日目に十円玉が何枚か入ったっきりもう誰も振り向きもしない。
茣蓙の本数数えるのも飽きた。治療費の請求で貯金が吹っ飛ぶことが確定したけどその事を告げたっきり親からの連絡は来なくなった。こっちから掛けても着拒されてて連絡が取れねぇ。
そういや虹の勇者は解散したらしい、って言うか探索者も引退したみたいだな。それも周りでの雑談が耳に入って知った事だけどそれって俺も関係してんのかな?
いつものようにただボーっとしているとカウンターのくそ女が怒鳴り散らしているのが聞こえてきた。
恵梨華か・・・あんなのと付き合う男が複数いるって事がダンジョン七不思議に入って無いのは何だろうな。
「これって迷宮氾濫の前兆かも知れないのよね。だからどこから出たのか聞いてんのよねぇ。
こっちは暇つぶしにカウンターに座ってんじゃないって事を理解して欲しいもんだわ、ネ!!」
「ひぃぃぃ!」
怒鳴られてるのはモヒカンのヤスウラか。見た目に反して常識人だからあんなのに絡まれんだよ。
「さぁ、どこで見つけたか思い出すまでそこでじっくり考える事ね」
あのバカ、ヤスウラを俺のところに寄こしやがった。
「バk、いや花田サン?何してんすか?」
「・・・ハンセー」
「業務の邪魔だからさっさと行く!テキトーな事言ったら晒し者になるって覚悟で思い出すのよ!」
恵梨華よお前、『カウンターの鬼』って呼ばれてんの知ってっか?
その後、何かは知らんが恵梨華の勘違いでヤスウラが詰められてたのが発覚してたが、あの女最後まで謝らなかったよ。
ところで俺のこの処分、いつまで続くんですかねぇ?
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