第弐拾陸話 じいさん、上前を撥ねられる
何だかんだで5階層から地上へと何やら文句を言いたげながらも少し間をおいて付いてくる、ともすれば気配を消そうとしている風のトレイン三人組を引き連れて儂とタマはなんとか戻って参りましたねぇ。
いやぁ、ゲートを抜けるとレベル101分の嵩上が無くなっちまうからでしょうか、ギルドまでの距離が遠い事遠い事。骨身に堪えるし齢を実感しちゃいますねぇ。
ポーターの意地としてギルドで換金するまでが探索だと自分に言い聞かせながら必死で運んではいますけど、それにしてもこのハルバードの重い事ときたら閉口するしかありませんねぇ。
ゲートからギルドまでの十数メートルの間に腕力が素の状態に戻っていくのを実感させられると言うか、あのメスオークの腕力がどれほどだったかの実感させられると言うか苦行の域ですよまったく。
昔からダンジョンではドロップ品の運搬の礼儀として裸で素手で持つと言うのは、もし呪われていたらその呪いを撒き散らしかねないからという理由で厳禁だったりしましてねぇ、ギルドから支給される呪い封じの布でぐるぐる巻きにして運んでいるんですけど重いし滑るしでもう指が落ちそうなんですよねぇ。
という意味を込めて、タマに手伝えと合図してるんですけどあいつときたら、オーク臭いから嫌なのか単にめんどくさいだけなのか儂の半径10メートル以内に入ってこないんですよねぇ。
ねぇ奥様、あの化け猫をいい加減老人虐待で訴えた方がいいかしら?
あぁら奥様、それってとってもいい考えねぇ、早速誰か呼ばないと♡
そんな脳内井戸端会議で気持ちを紛らわしながら儂が漸く長物を抱えてギルドに帰ってくるとよれよれのジジイが何を見栄張って妙なモノを持ち歩いているんだとでも言いたげな小馬鹿にしたような視線と持って来た代物の異様なオーラに恐れ戦く小物たちの騒めきがホールに交錯していますねぇ。
そんな事はどうでもいいんです、とにかく査定カウンターに行かないと―――
「おい、じいさん。随分苦戦してるみたいじゃねぇか。何ならおれたちが運んでやってもいいんだぜ?
て言うかこれ、元々おれたちの獲物だよなぁ」
ニヤニヤしながら難癖付けて来るのは、儂にメスオークをトレインしてきた張本人の青木ですねぇ。
ここまで付かず離れず見方によっては護衛みたいな振りをしてまでついてきたのはコレの横取りが目的だったという訳ですかねぇ。
「あんたらの獲物?アンタらが倒したのならなんで運んでなかったんだねぇ?
こっちは落ちてたもんを運んでくる落穂拾いだ、持ちもしない連中にタダで呉れてやるほどボランティア精神に頭が侵されちゃいないんですがねぇ」
ダンジョンから離れればブーストした力は無くなりますからねぇ。ここまでくると素の腕力ならこいつら一人にも勝てる訳がありませんからねぇ。多勢に無勢、長いものには巻かれないと生きていけませんがせめて手間賃でもせびらないと気持が収まらないですねぇ。
「寝惚けたジジイだぜ、ポーターは運んでナンボだろ?ここまで運ばせてやったんだ、その栄誉だけあれば飯の三杯はイケるんじゃねぇのか?」
事を荒立てたくはないんで黙っていようとは思いましたがねぇ、何とも業腹じゃありませんかねぇ?
「おやおや、裏ボスにちょっかい出して手に負えなくて逃げ出してその挙句に儂らに擦り付けて難を逃れようとした御仁のお言葉とは思えませんねぇ。
恥とか感謝とか色んなモンをメスオークの所に置いてきちまいましたかねぇ?」
ザワリとギルドの空気が変わりましたねぇ。それまでの浮かれ気味の騒々しさが生き死にを掛けた焦燥感に入れ替わったとでも言いましょうか、ねぇ。
「何寝ぼけているんだよ。おれら『虹の勇者』が死力を尽くしてあと一歩のところまで追い詰めてたらお前みてぇなジジイが横から投げた石がまぐれもまぐれのクリティカルに刺さったもんで倒れたんだろうがよ!
横取りジジイが何を偉そうに能書垂れてやがんだよ!」
「ほほう、勇者様だったとは知りませんでしたねぇ。ところでアンタら何人パーティーだったのかね」
「6人だよ、6人!残り3人は忌々しいあのオークの腹ん中でもう戻っちゃ来ねぇけどな!
そんな事ぁどうでもいいだろうが!サッサと査定して換金して来い!
そしたら運び賃で1000円ぐらいなら恵んでやるぜ」
何とも柄の悪い『勇者』様ですねぇ。
「ほう、儂がとどめを刺した事は認めるのかねぇ。っていうか、儂が相手した時はほぼ無傷でピンピンしてましたがねぇ。
それに確か、このままじゃオーバーフローが起きるからお前はここで見張っていろ、俺たちはみんなを呼んでくるとか言ってませんでしたかねぇ」
「何話盛ってんだ!無傷だった筈がねぇじゃねぇか!こちとら仲間が3人も喰われちまってんだぞ?」
「その3人が食われている間にようやくの思いで逃げてきた序に儂にトレインしようとしたんじゃなかったのかねぇ?」
「おれたちを舐めんなぁ!」
逆上した青木がその辺のものを儂に投げつけますけどタマが横から掻っ攫ってくれて儂の方は無傷で済みましたねぇ。いやぁ、惚れ直しちゃいますねぇ、流石はタマ様♡
御褒美にあとでチュー〇でもあげんといけませんかねぇ?・・・おや?タマが咥えてたものをよくよく見るとナイフじゃないですかねぇ。小さいけどよく研ぎ澄まされた感じのするナイフですねぇ。
中ってたら儂死んでたかも知れませんからねぇ?というか絶対これ殺意があるでしょ?こんなもの普通その辺に転がっている物じゃありませんからね?・・・そうでした、ここはダンジョンに付随したギルドでした。
ヒカリモノやらコワレモノやらがいくらあってもおかしく無い環境だったことは認めますよ、でもこいつら三人がなんかやっているのが眼に入っちゃったんですよねぇ。暗器を仕込むなんて芸当を仕掛けて来るとなると話が変わってきますねぇ。
素知らぬ振りしてこっそり青木にナイフを手渡していたのは目立たない黄原だったようですし、赤尾は赤尾で儂の退路を断つような挙動を見せています。堂々と事故に見せかけて暗殺を企てるなんて元から小狡そうな印象ではありましたが実のところ悪辣極まりない連中ですねぇ。
何故そんなにこのハルバートが欲しんでしょうかねぇ?いくら逃げる途中で装備を失っていたとしてもこんなもの振り回せそうな実力は感じませんでしたけどねぇ・・・
あぁ、それにしてももう限界ですねぇ。二の腕がプルプルしてきちゃいましたねぇ。このハルバートをいい加減に下に降ろさないと腕が抜けてしまいますねぇ(>_<)。
「どうでもいいですけど査定して貰って構いませんかねぇ」
と、眼をやった先には死んだ魚の眼をした祭藤一尉ドノが呆然と立っていましたねぇ。この野郎、また勝手に鑑定してこの長物の価値でも見てビビっているんじゃないですかねぇ?
「所有権の確定していない物品の査定は異界管理法、所謂ダンジョン法によって保留される事になっている、が、最近の年寄りはそんな常識も覚えてられんほど耄碌しているのかね?」
新たに現れた爬虫類っぽい目付きの男に儂の敵センサーはクリティカルに反応しましてねぇ、コイツ絶対敵ですねぇ。
最近遇ったような気はしますけど誰でしたっけねぇ?




