第弐拾弐話 じいさん、眼福に酔う
明日は分かりませんが今日は投稿出来ました
お暇つぶしにどうぞ
スパン!むきゅぅ。・・・スパン!むきゅぅ。・・・・スパン!むきゅぅ。
「もう儂の補助が無くてもスライム程度だったらお嬢ちゃんは大丈夫になったねぇ」
「えぇ、的中率は90%を超えてきましたし、これなら足手纏いの『フレンドリーファイヤー製造機』なんて謗りも受けなくて済みそうですね」
黙々と矢を射る侑花ちゃんの後ろで見守る儂とアカリちゃん。
腕を組んでと言いたいところですが、儂の手は腕から零れそうなタマを抱えるので精いっぱいで、一方アカリちゃんの手はと言うとポチをモフリまくり無意識に尻尾を三つ編みにしていますねぇ・・・ポチよ、コッソリ上目遣いでアカリちゃんを見てないで迷惑なのか構ってくれて嬉しいのかはっきりしないとお前さんハッキリ言って可愛らしくなっちまうからねぇ。とても大妖怪だとは思えないからねぇ、解ってるキミ?
それにしてもと2階層の奥でポチが搔き集めてきたスライムを順に打ち抜く侑花ちゃんを見て儂とアカリちゃんは思わず感慨に更けってしまいましてねぇ。
「これでなんとか普通の新人パーティーにあの子を参加させてあげられますね」
「マッチングってヤツですかねぇ・・・お嬢ちゃんにその気があればってトコでしょうけどねぇ」
ダンジョンに初めて入って得られる基本ジョブって奴には人気不人気が激しくってねぇ。
人気があるのは厨二病を疼かせてくれる魔法職、それに剣を振り回すチャンバラ屋、それから少々間を空けて斥候やら解錠やらで見せ場のあるシーフ系、お姫様ポジションの回復系と続いて後はその他、つまりは余裕があったら専門で連れて行きたい運搬系(これ儂ね)、事細かく指示をし過ぎて煙たがられる参謀教育系、大して役に立ちそうにない魔物を配下に置いてお荷物扱いの召喚使役系(これも儂ね)、的中率が低くて嫌われる遠距離物理職(ここに侑花ちゃんね)みたいな順番ですねぇ。
その他を引いちまった連中ってのは、大抵一つは探索を諦めるか二つは第二ジョブに命を掛けるか三つは諦めてポーターで細々とやっていくかの選択に迫られる訳で儂みたいに突き抜けた従魔を引き当てでもしない限りジリ貧なのよねぇ。
そしてそんな中、侑花ちゃんが貰ったジョブはと言うとアーチャー。
侑花ちゃんのおじいちゃんになる探索者協会会長の海長氏は、運び屋から運び手に進化した上で第二ジョブを剣聖にまで伸ばした件で立志伝上の偉人として尊敬されている第二の選択肢の成功例って事ですねぇ。
だから大抵の諦めの悪い連中は只管剣の腕を磨こうとするんですよねぇ。
ただ、この第二ジョブって奴は探索者全体の2割程度にしか生えないときてる。
んで、結果として残りの半数は辞めちまうらしいんで実働する探索者の比率ってのは魔法系1:剣士系2:その他4ってな事になってたりするんだけど侑花ちゃんったら自分の運命に抗うんじゃなくて受け入れる方に舵を切っちゃったんだねぇ。
そしてここに極少数派のアーチャーが爆誕したって訳でねぇ・・・今の風潮を考えるとアーチャーを受け入れるパーティーがどれだけあるかって言ったらほぼゼロ、だろうねぇ。
初期スキルに『的中』ってのが現れる確率が天文学的に少ないアーチャーなんて新人にとっては地雷そのものだからねぇ・・・現実問題アーチャーとして動いているのって侑花ちゃんを含めても日本国内で5人いるかどうかってレベルらしいって事で迫害ぶりが解るってもんでしょ。
しかもそのほとんどがソロで活動してるってんだからアーチャー側も他のジョブの連中もみんながみんな初期のトラウマから抜け出せないんだろうねぇ。
「次の段階は動く的に対する練度、って事ですかねぇ」
「先ずはしっかり鑑定して的中が生えてるかを確認してからですけどそこまでクリア出来たら他の探索者と一緒にしてあげる事を考えませんとね」
「・・・お嬢ちゃんが会長の身内だって事で欲に駆られて手を挙げるクソどもはいるとは思いますけどねぇ。
回り道をしてるから同レベルの連中と比べたら技量に劣るとかそう言う事はありませんかねぇ?」
儂の問い掛けにアカリちゃんは遠い目をして溜息を吐きますねぇ。
「エリート様のマジシャンはともかく大抵のソードマンはそっち側から這い上がってきた連中ですけど喉元過ぎたらってヤツでヒトの事は論うって言うのが探索者の風潮ですからね。
働きイコール稼ぎに直結してますから余裕が無いのは理解できるんですけどね・・・」
一緒にいる時間が長いせいかアカリちゃんの素直な意見が最近聞けるようになりましてねぇ・・・オフレコにしておいた方が身の為でしょうかねぇ。
「色んな意味で食い物にされないかが儂は心配なんですけどねぇ」
「そーんないやらしい目で胸とかお尻とかを撫で回すように見てるイチじいさんに言われても違和感しか無いんですけど?」
こりゃ一杯喰らっちゃいましたねぇ。
「儂は眼福に浴して心の平静を保てるからいいんですよ?
ただ、探索に来るようなギラギラして力も欲も溢れ返った若造どもがパーティーに託けてお嬢ちゃんを自分の欲情の捌け口にしないかが心配なんですがねぇ」
「そこはマッチングする際に私も吟味して紹介しますから安心してくださいよ」
そこまで話をしていると、撃ち終わって矢と魔石を回収した侑花ちゃんが儂らのところに戻ってきましたねぇ。
「キョーカン!侑花の射撃どうでした?」
「ふふっ、私じゃもう教えられる事なんて残って無いわよ。イチじいさんとは侑花ちゃんの将来について議論してただけだもの」
「とか言って侑花の悪口言ってたんでしょ?」
「な、なんでバレたんでしょうかねぇ?」
「おじいちゃんの嫌らしい眼がそう言ってます!」
冗談を言い合える位に打ち解けて仲が良くなってきたってのに解散しなきゃいけないとか悲しくなってしまいますよねぇ。
「キョーカンの有休っていつまであるの?侑花につきっきりでずっと無理させてきちゃったから心配なの」
キョーカンってのは侑花ちゃんがアカリちゃんに付けた綽名でね、本人も気に入ってるらしくて儂にまで強制されかけて往生こいてますねぇ。
「このまま有休消化したら探索者に戻ろうかな?なんてね。
ずっと使ってなかったからあと半月は付き合えるわよ?」
逆に言うとあと半月で『ウルフアンドパンサー』は解散って事ですかねぇ。・・・アカリちゃん、探索者に戻るとか言ってませんでした?




