第拾玖話 敏腕職員、斯く闘えり
明日は分かりませんが今日は投稿出来ました
お暇つぶしにどうぞ
番外編 アホウこと花田のお話です
すったもんだはあったとはいえ、漸くこれで昇級の準備は終わりだな。
美人なのを鼻に掛けた祭藤にこれで追いつける、いや、ここから捲ってあのコウマンチキなドブスを一気に抜き去り俺の有能さを世界にひけらかしてやる!
あの顔だけ女と俺は違うんだ!
しかし、窓口業務に出てるのに俺の前には誰も来ないのは何故だ?他の3つの窓口には列が出来ているのに俺の前だけ誰も来ていない。
あぁ、そうか!俺が出来る男だから足りない奴らの集合体である探索者どもには敷居が高かったという訳か。
それにしても暇だな。よし、丁度入ってきたあのモヒカンを相手に暇をつぶしてやろうか。
ちょっと待て!あの野郎、俺の方をチラッと見て嫌そうな顔をして他の女どもの窓口に行きやがった!
「おい、ヤスウラ!そっちは照会に手間取ってるから時間が掛かるぞ。俺が直々に見てやるからこっちに来い」
人前で名前を呼ばれるのが嫌なのかどうかは知らんが、あの野郎顔を顰めながらゾンビみてぇな歩き方でこっちに来やがる。
「さっさとしろ!時間が勿体ないだろうが!どうしてこう探索者って奴らは効率よく動かねぇのかね!
サッサと出せ!レベル5程度でパーティー追い出されたクズの癖して勿体ぶるんじゃねぇ!」
モヒカンは何が嫌なのか尚もグズグズしてやってこない、俺が呼びつけているにもかかわらずだ!
こいつはあの鈴木のジジイと親しいなんて話も聞いたが、あの辺の底辺の輩どもはどいつもこいつも俺に反抗的だな。ここは教育的指導で上下をきちんと思い知らさにゃならんって事だな。
『見ろよ、愚図ヤスのヤツ、事務所を出たら何も出来ねぇバカ花田に絡まれちまってやんの。ざまぁねぇな』
『愚図とバカの取っ組み合いってか?性根が一般人よりナヨッとしてる愚図ヤスじゃどうにも出来ねぇだろうな。あいつが絡まれてる間にどうにか要件済まさねぇととばっちりが来るから急ぐに限るな』
『威張らせてくれる相手にしか噛み付かないとか受ける~♡
あんなんだから女の子は誰も近づかないんだよね~』
『何にも出来ないのに威張りんぼってサイテ~。愚図は好きじゃないけどバカよりはましよね~』
そこここから聞こえてくる正体不明の罵詈雑言・・・エリートである俺にも我慢の限界ってものがある事を思い知らせてやろうか。
「誰だこそこそ職員の悪口を言ってる奴は!文句があるならここに出て面と向かって言えばいいじゃないか!
それとも何か?おおっぴらに出来ない程度の覚悟しか無いんのか?
ギルドに逆らう根性も無いんなら大人しく口を噤んでもらおうか!」
窓口に並ぶしみったれた探索者どもは一瞬にして静まり返る、事も無く異様な熱気が蓄積されていく。ちょっと待て、ここは黙り込むのが定石だろうがこのゴミどもめ!
『自分が悪いのを職員の話に置き換えで誤魔化そうとは大した知恵者だな』
『こんなのいらねぇわ。さっさと引きずり出してボコろうぜ』
不穏な言動に同意の声が生まれ、他の窓口の女の子たちはなんだかんだと用事を作って奥に引き上げて行く。
昇級見込みで女の子より立場が上の俺は、サッサと逃げる事に失敗して居残りをせざるを得なくなっちまった。マジで身の危険を感じるぜ。俺のどこが悪いんだ!
状況の悪さに思わず非常ボタンに手を伸ばそうとした時に、モヒカンを押しのけて優男がやってきた。
このギルドに出入りする探索者の中で一番と言っていい実力者、クラン『無敵旅団』のマスター柴田だ。
190を超す長身に騎士ジョブでモンスターを蹴散らす姿は全国的にも人気があるらしい。因みに俺よりも年下だ。
「なんだ!ここはギルドだぞ!」
「ええ、知ってますよ。花田さん」
意味ありげにニヤリと笑うその姿に俺の総身が粟立つ。
「き、貴様!やややや、やるのか!」
思わずスキルで先制しようと腰を弄ったが、職務中の事務所員の腰に剣が有る訳も無く俺は絶望の淵に突き落とされる。
ヤツのジョブはナイトレベル6確か身体レベルは50を越していた筈。それに対して俺はナイトの下のソルジャーでレベル3、身体レベルは6でしかない。
真面にぶつかれば剣を持っていても全く歯が立たない。
ガタガタと膝が笑い握り締めた拳が細かく震え汗が滴る。マジにコロされる・・・
「ようやく昇級が決まったそうじゃないですか。お祝いを言おうと探索を切り上げて戻ってきましたよ」
「・・・へ?」
意味ありげな笑みを浮かべたままヤツはクランで行った探索での戦利品を並べていく。どうやら今回は20階層に挑戦していたらしい・・・このダンジョンで一番進んでいたのは23階層だったと思うから相当深い成果だな。
「査定をお願いします。今回クランの一軍7人と二軍10人で挑戦しましたからポイントの付与はギルドの規定通りで構いません。それから―――」
頭が真っ白になったまま機械的に業務をこなす俺。柴田の言葉なんて一言も頭に残らなかった。
そういえばヤスウラは・・・いつの間にか隣の窓口の恵梨華嬢とデレデレ話しながら用を済ませたらしい・・・祭藤の犬の分際で他所に尻尾振ってんじゃねぇ。
そんな怒りも何も柴田に吹っ飛ばされて何も思わないままその日の業務は終わってしまった。




