第六話──言葉への第一歩、響く声
生後七ヶ月。 ワシの赤子生活は着々と進化を遂げ、つかまり立ちからさらなる高みへと向かいつつあった。
「……次なる課題は、“発声”じゃな」
支援役として重要なのは、いかに的確に情報を伝えられるか。 これまでの赤子語、つまり“ブブブ”や“アーッ”での意思疎通は十分に成果を出した。 しかし、さらに明確なコミュニケーションを実現するには、言葉としての音を発することが必要になる。
* * *
ワシは日々、自分の口を動かして練習を開始した。 これまでの泣き声制御とは違い、今回は“意図を持った発声”を目指すのじゃ。
「ぶ、ぶ……あ、う……ぅむ、これは難しいのう」
舌の動き、息の使い方、喉の調整。 言葉とはただ音を出せばいいものではない。 適切な響きと流れを作ることで、ようやく意味あるものとなる。
まずワシが目標としたのは──母上への呼びかけ。
「マ……マ……」
口を開き、声を出す。 しかし音がうまく整わず、“母”という言葉には程遠い状態じゃ。
だがワシは知っている。 言葉とは繰り返しの鍛錬により習得するもの。
毎日、布団の上でひたすら口を動かし、発声を繰り返し、家族の声を観察する。 そしてついに──
「……マ……マ……」
ある日の朝、ワシの口から明確な音が発せられた。 すると、母上が驚いたように目を見開いた。
「……トク!? いま、“マ”って言ったの!?」
祖母上も興奮気味に寄ってくる。 父上まで顔を覗かせ、ワシの口元を見つめておる。
「ホッホッホ……当然じゃ。ワシは支援者なればこそ、まずは確実な呼びかけを習得せねばならぬのじゃ」
ワシの音は、はっきりと“意味のある発声”として認識されたのじゃ。
* * *
そして、その夜──
ワシのステータス画面に、新たな称号が浮かび上がった。
【称号獲得:言葉の目覚め】 効果:発声能力+7%、周囲との共鳴感覚+5%
「ふむ……これこそが、支援役に必要な第一歩よのう」
言葉こそ、仲間との連携を深める要となる。 この小さな進歩が、やがて大きな支援の力へと繋がるのじゃ。
──異世界赤子伝説、ついに言葉の領域へと足を踏み入れる。 次なる挑戦は、“意味を持つ言葉”の習得へ──!