第五話 『異世界赤子伝説:支援職ベビィ、ついに立つ!』
──新たな朝。
ついに生後六ヶ月。 ワシの赤子生活も折り返し地点に突入し、ついに新たなる試練が訪れた。
「……立つ、じゃと?」
目の前に広がるのは、家族の微笑みと、両手を広げて誘う母上の姿。 どうやら今月の成長課題は“つかまり立ち”らしい。
「ホッホッホ……これぞ、肉体強化の次なる段階。 支援役たる者、まずは己が確かな足場を持たねばならん。 そのためにも、まずはこの足を鍛えねばならぬのじゃ!」
ワシはゆっくりと、布団の上で膝を突き、慎重に動く。
* * *
しかし、甘くはなかった。
これまで培った寝返りやハイハイの技術は、すべて“地を這う動作”の範疇に過ぎぬ。 立つということは、己の全体重を足へ預けるということ。 バランス、支え、そして継続力が必要になる。
「……ふむ。これは、まるで“基礎体力鍛錬”そのものよな」
ワシの心には、かつての冒険譚で描いた厳しい訓練がよみがえる。 剣士がまず取り組むのは、剣の振り方ではなく“体幹”。 魔法使いが最初に習得すべきは、術式ではなく“精神集中”。
そして──支援職に必要なのは、確実にその場に立ち続ける力なのじゃ。
* * *
数週間の試行錯誤の末──ワシはついに、支えを使ったつかまり立ちに成功した。
最初は祖母上の手を借り、その次はベッドの端を頼りに、 そして最終的には自らの意思で膝を伸ばし、床の上に立つことができた。
「ホッホッホ……見よ、この偉業! ワシの赤子強化計画、また一歩進化したぞ!」
母上は大喜びし、父上は感動し、祖母上は涙ぐみ、 ワシはただひたすらにガッツポーズを決める。
しかし──これは始まりにすぎぬ。
「立てるだけではまだ足りぬ。 ワシの目標は、“自由に支援できる赤子”。 次なる課題は……歩行じゃ!」
* * *
ある夜。
ワシのステータス画面に、新たな称号が刻まれた。
【称号獲得:影の歩みを知る者】
効果:体幹安定+5%、支援行動時の魔力効率+3%
「ふむ……これぞまさしく、支援職にふさわしき能力よのう」
ワシの冒険はまだ序章。 この足が、やがて仲間を導く力となる日は──遠くない。
──異世界赤子伝説、ついに立ち上がり、次なる挑戦へ進む。