第三話「這い寄る影の参謀。目指せ、見守りマスター!」
──ぬう、進化の余韻がまだ残っておるわい。
寝返り、ハイハイ、泣き声制御。
これらの赤子ミッションを突破してから、すでに一ヶ月が経過した。
現在、ワシの移動範囲は布団の上限定ながらも“最大20センチ”を突破。
左腕を軸に右足で蹴り、ズルズルと忍び寄る──その様、まさに芋虫忍法。
「ホッホッホ……どうじゃ。これぞ、“影の移動術”。
ワシが目指す支援役は、己を目立たせずして成果を上げる、縁の下の力持ちよ」
ちなみに現在の状況は──
・母上、若干警戒中(突然静かになる赤子への不信)
・父上、たまに“天才の兆しか?”と勘違い
・祖母、完全にメロメロ。ワシの勝利。
特に祖母上は、ワシの視線に異様に反応し、
「まぁ~この子、目がしっかりしててお利口さんじゃわぁ」
と、毎度のように抱き上げてくれる。
「ふふ……見よ、この観察力による対人評価。
支援とはすなわち、“誰がどう動いているか”を正しく見極め、的確な補助を与えることじゃ」
つまり今のワシは、“支援職の核スキル:状況把握”を実地で鍛えておるのだ!
* * *
さて、赤子の訓練と並行して、ワシが最近注力しているのは──
【スキル:共鳴理解】の体得じゃ。
簡単に言えば、「泣き声で人を動かす」のではなく、「空気を読んで対応する」力。
「わしの泣き声で“ミルクか寝かしつけか”を探らせるようでは、まだまだ支援職失格。
理想は、ワシが周囲の意図を先読みし、タイミングを合わせることにある」
つまり、“泣かぬ赤子”は一見手のかからぬ良き子であるが、
本質は“無駄な行動を省く戦略家”なのじゃ!
「たとえば──母上の動きが台所から離れた時、そっと静かになる。
そして戻ってくるタイミングに合わせて、軽く笑顔を見せる」
これにより、母上の疲れは減少し、ワシへの愛情ポイントは蓄積される。
まさに支援型コミュニケーションの極意よ!
そして──
数日後。
ワシの冷静な視線と反応により、ついに祖母上がこんなことを口にした。
「この子、なんかこう……人の気持ちがわかるみたいなとこ、あるよねぇ……」
──成功じゃ。
ワシの支援適性が、ついに家族評価にまで届いた瞬間である。
* * *
そんなある日。
父上が、初めてワシを連れて“外の世界”へ連れ出してくれた。
近所の神殿──赤子の健やかな成長を願う、いわば“聖なる初外出”じゃ。
「……うむ、風が気持ちええのう」
空の青さ、鳥の声、花の香り。すべてが新鮮じゃ。
だが、ワシの眼差しは、その神殿でふとすれ違った“ある人物”に吸い寄せられた。
──同じくらいの月齢の赤子。
しかし、その目に光はなく、無表情でぼんやりしておる。
「む……? ただの眠さか? それとも、何か……」
ワシの中の観察スキルが反応する。
この子、どうにも気になる。将来の鍵を握る者の気配があるのじゃ。
……ワシの目は誤らぬ。
このときの直感が、数年後、大きな意味を持つことになる。
* * *
その夜──
ワシのステータス画面に、またひとつ新たな文字が浮かび上がった。
【称号獲得:気づく目を持つ者】
効果:知覚範囲+10%、初期パッシブスキル《共鳴理解(初級)》解放
「……ふふ、ついに来たか。“支援の始まり”じゃな」
目立たぬ影として、周囲を見守り、支え、導く者──
この赤子、確実に“参謀”として育ちつつある。
──異世界赤子伝説、次なる布石は“言葉”の獲得に向かって歩み始めるのであった。