第一話「オギャーと目覚めて異世界。まずは気絶じゃ!」
──オギャアァアア!!
耳をつんざく産声。
それが、この異世界でのワシの第一声じゃった。
「ふむ……こりゃ、無事に生まれたようじゃな。ホッホッホ」
……そう、ワシは今、生まれたての赤子。
名前は“トク”。齢ゼロ。職業、不明。種族、人間。
じゃが、ただの赤子ではない。
このワシ、元は92歳の老作家にして、異世界冒険譚の重度愛好者じゃった。
小説投稿サイト『小説◯になろう』にて、書きに書いて書きまくった末──
執筆中に文字通り“燃え尽きて”死亡。天寿を全うし、いまこうして異世界に生まれ直したのじゃ。
しかもこの世界は──ワシがこよなく愛した設定と構造にそっくり。
もしかすると、“ワシが最後に書いた未発表作”の中身そのものかもしれんのう。
* * *
「……ふむ、泣くことしかできんのは不便じゃのう」
動けるのは、指先と顔だけ。足も手もぷるぷるしとる。
じゃが──この世界の仕組みを知っておるワシには、やることがある。
それは、**“生活魔法の発動テスト”**じゃ!
赤子トク「ふぬぅ……《アクア》!」
──びしゃ。
指先から、水が一出てきた。
「おお……おおっ!? 出た!? 魔法が出おったぞ!」
生活魔法は、初歩中の初歩。
通常は6歳前後で習得するものじゃが、ワシはこの体に記憶も意志も持ち越しておる。
つまり、言葉にならん声でも、
「イメージ」と「意志」と「知識」が揃えば魔法は出せるのじゃ!
ホッホッホ……この時点でワシは他の赤子とは違う。
じゃが──
直後、ズドン!と頭に来る鈍痛。
「おっ……と。これはもしや──」
──バタリ。
気絶した。
* * *
そして気づく。
(ふむ、魔法を使いすぎるとMPが切れて意識が落ちる……テンプレじゃな)
だがこの世界のテンプレ仕様も把握済みじゃ。
MPが尽きれば気絶、しかし、使えば使うほど最大MPが“少しずつ”伸びていく。
この世界の法則、それは──
『継続は、力になる』
そしてワシは──
『痛みや苦しみなど、とうに慣れておる』
「ならばやることは一つじゃろ。気絶覚悟で《アクア》連打じゃ!」
指を動かし、水を出し、気絶。
目覚め、また水を出し、また気絶。
その繰り返し。
──赤子トク、MP鍛錬ループ。
はたから見れば、寝てるか泡吹いてるかの病弱赤ん坊。
じゃが、本人の内心はこうじゃ。
「ホッホッホ、これぞ“努力型”異世界攻略の王道じゃい!」
* * *
──気がつけば、生後三ヶ月。
水だけでなく、小さな光も出せるようになっておった。
生活魔法、獲得。
MP上限、小刻みに上昇中。
そして何より──
『この世界は、やり直しが効く世界だ』
そう確信できる感覚があった。
かつての人生では叶わなかったあれこれを、今ならば地道に積み上げられる。
わしは、もう“書き手”ではない。
──この物語の“登場人物”じゃ。
「目立たんくてよい。ゆっくりでよい。
じゃが、ワシは必ず──“最強の支援者”になってみせるわい」
ゼロ歳、スタート地点にして覚醒中。
まだ誰も気づかぬ、異世界史における最強裏方の誕生じゃ。