【プロローグ】──天から降るアイディア、そして大往生
92じゃ。年老いて、骨も皮も干からびておるというのにのう……創作意欲っちゅうやつだけは、いまだ衰え知らずの現役ジジイ──それが、このワシじゃ。小説投稿サイト『小説◯になろう』なる場所で、日々コツコツと“異世界転生もの”を書き綴っておるんじゃよ。
ワシの書くのは、チートもなけりゃ、神様の加護もなし。努力と絆がモノを言う、泥臭いパーティー冒険譚じゃ。登場するのは、勇者に剣聖、僧侶、魔法使い、斥候──五人編成のバランス型パーティー。ま、王道中の王道じゃな。
じゃが、ある日ふと思ったんじゃよ。「この面子、よぉ見たら……サポート役が、おらんのう?」と。
その瞬間──来た。ビビビッと来たんじゃよ。まるで天から雷が落ちたような衝撃。アイディアが、まさに泉のごとく湧いてきてのう。ワシはもう止まらんかった。書いて書いて、ひたすら書きまくったんじゃ。
気づいたら──43時間、ぶっ通しの執筆。老いぼれの身体にムチを打ちすぎたかの、なんじゃか頭がカーッと熱ぅなってきてな。「こりゃあ……脳ミソのシナプス、焼き切れるんとちゃうかのう……?」
そんなことを考えとった矢先──スゥ……っと意識が遠のいての。そのままワシは、静かに、まるで眠るように──ポックリと逝ったんじゃ。
──そして、目を覚ました。
そこは真っ白な、どこまでも白うて静かな空間。ワシの目の前には、どこか見覚えのある美しい女性が立っておった。
おぉ……なんと神々しい……まさしく、ワシが幾度となく物語に描いてきた“女神様”そのまんまじゃ。
「ようこそ、ご主人様。あなたはこれより、“望む世界”へ転生します。」
……ほほう、そうかいそうかい。ここはつまり、死後の世界ってやつか。そして、転生先は“イデアワールド”。魂が本当に望む、理想の世界──
「特典はありません。ただし、あなたの力は“成長と共に”伸びていく形になります。」
──チートはなし。即強化もなし。じゃが、それでええ。それが、ワシにとっちゃあ最高のご褒美よ。
なぜなら、そこはワシが長年書き続けてきた“理想の世界”じゃからな。魔法に、スキル、モンスター、ダンジョン、勇者に魔王──そして果てなき冒険の旅。ワシが創り、育て、愛した物語。その中へ──このワシ自身が入れるとはのう……!
「ホッホッホ……こりゃあ、楽しみじゃのう……」
思わずそんなことを呟いた瞬間、意識がスゥッと溶けていった。そしてワシは──生まれ変わった。
あの物語の中に、新たな一員として。かつて自分で気づいた、“足りなかった役割”──万能型サポート役として、再び冒険の世界へと踏み出したのじゃ。