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魔力の代償

 朝になっても居間にエーテルが現れないので心配していると、書斎から疲れた様子でようやく出てきた。


「書物を調べていたんだけど、やはり難しいかもしれないな」


「眠らずに調べてくれていたの?」


「大丈夫だ。ちゃんと仮眠はとったよ。それよりもわかったことがあって、この本に書かれている魔法は難解さに加えて膨大な魔力を必要とするものばかりなんだ。一族の魔力があってなせるものだ」


 私が心配そうな顔をしていたからか、エーテルは言いづらそうに続ける。


「一族以外のものだとやはり厳しいのかもしれない。特に君は、その、人よりも少し魔力が少ないようだし」


「そんな、、、やっぱり最初から無理だったのね。どうしよう。他に誰を頼れば、、、」


「今日僕は別の街に行って、叔父さんと親交があった編集者を訪ねてみることにするよ。僕は会ったことがないから不安はあるけれど、もしかすると頼れるかもしれない」


「本当? ありがとう、私も行くわ」


「遠い街だ。僕一人で行くよ。君は丘を下って弟の様子を見てくるといい。心配なんだろう?」


「そうね、、、ありがとう。そうさせてもらうわ。気をつけてね」


「君もね。丘の上から下りるところを誰にも見られないようにね」


「え、ええ……」


 そう言って私はエーテルと別れた。




 数日ぶりに丘を下って街に戻った。家の鍵をそーっと開けて中を覗く。両親は居ないようだ。おそらく両親も頼れる医者や魔法使いがいないか必死に探し歩いているのね。

 

 音を立てないように弟の部屋に入った。弟はちょうど寝ているところだったけれど、私はその姿を見て愕然とした。弟の首から上、右腕が真っ青に染まっている。


「あぁ、ダン。しばらく会わないうちにこんな姿になって、、、私がもっと他に良い方法を思いついていれば、もっと、もっと」


 ダンを起こさないようにそっと手を握った。人懐っこくて、本当は人と遊ぶことが大好きなダン。一番辛いのはきっと本人なのよ。


「待ってて。今日あのエーテルが、あなたの為に頼れそうな人に会いに行ってくれているわ。きっときっと良くなるわ」


 そうつぶやいて私は部屋を出た。


 急いで丘の上に戻ろう。エーテルももう帰っているかもしれない。


 息を切らしながらふたたび丘の上を目指した。




 丘の上の家に着いた頃にはもう日が暮れていた。家の中は真っ暗で灯りがついていない。


 まだ帰っていないのかしら。


 胸騒ぎがしてすぐに家の中に入った。


「う、ぅ」


「エーテル、、、?」


 呻き声が聞こえ、急いで居間の灯りをつけた。エーテルがテーブルに寄りかかるようにして苦しそうにしているのに気づきすぐに駆け寄る。


「どうしたの⁈ 大丈夫?」


「あぁ、はぁ、街に行って、、、編集者の人を訪ねたんだけど、残念ながら、、、もう亡くなっている、らしくて。はぁ、これでもう、僕に頼れる人は、、、悲しいよ」


「そう、そうね、悲しいわね。本当に。それであなたどうしてそんな苦しそうにしてるの?」


 よく見るとエーテルの痣は今朝見たよりも広がっていた。衣服の下は見えないけれどおそらく身体中に広がっているのか、エーテルは片手でテーブルを掴みもう片方の手で胸を押さえている。


「痣が疼くの? 大丈夫?」


「やっぱり、母親と同じ死に方だ、、、」


「え、、、?」


「日に日に、痣が増えていく。遺伝なんだよ、はぁ、叔父も、そうだった。母親と、叔父の最期は、、、見ているからわかっている。父親は家を出て、それからはずっとひとりだ、だけどもう僕も長くはないだろう。君とダンが、心配だ、、、」


「そ、そんなこと言わないでよ。駄目よ。夢があるって言ったでしょう? 諦めないでよ!」


「それはどうせ、ただの夢だ、、、」


 そう言うと苦しそうにエーテルは床に仰向けに転がった。


「私あの後考えたの。私の動物と話せる力で、あなたの病院を手伝えないかって。そしたら動物たちがどこが痛いかとかすぐにわかるでしょう?」


「いいね、、、素敵だ。実は僕も、ちょっとだけ同じことを考えていた」


「なら叶えましょうよ。もう二人の夢よ」


「フフ、残された期間に、、、君が来てくれてよかった」


「待って」


「、、、少し撫でてくれないか? 君が、触れてくれると、何故だか少し、楽になるんだ」


 そう言ってエーテルは私の手に触れた。私はその手でエーテルの顔を撫でた。


「あぁ、やっぱりなんだか、、、落ち着いていく、不思議だ」


「良かった。ならずっとこうして、、、」


 目を閉じて私の手に撫でられているエーテルの顔色が、少しよくなっていくように思えた。ふいにエーテルは目を開けて不思議そうに私を見つめる。


「やっぱり君が輝いて見える」


「何言ってるの。こんなときに。いいから安静にして」


「いや、、、あれ?? 君、本当に光ってないか?」


「は?」


 言われてみると確かに私の身体は金色に発光しているようだった。


「な、なにこれ?」


「大丈夫か?」


 エーテルは起き上がって私の顔を見た。


「いやあなたこそ、、、」


「本当だ。動ける。平気だ」


「あら? なんだか痣がうすくなって、、、」


 エーテルの顔や身体の痣は先程よりも薄くなっている。


「あ、、、そう、そうか!」


 エーテルはガシッと私の両手を握った。


「これも君の能力なんだ! 君は魔力が人より少ない分、こうして触れた相手の魔力を吸い取ることが出来るんじゃないのか?」


「え、本当?」


「ああ、上手く扱うことができれば、僕の魔力を君に分けられるのかもしれない!」


 本当に? それが本当なら自分の手で弟を助けられるかもしれない。そしてエーテルの魔力を減らせればエーテルのことも救えるかもしれない。


「そんな素晴らしいことはないわ。お願い。あなたの魔力をもっと貰ってもいい?」


「もちろんだ。いくらでも」


 私はエーテルの両頬に手を添えた。


「だけど、いざ貰うと言ってもどうすれば」


「さっきみたいに、撫でてみて」


 いざエーテルに見つめられると緊張してしまう。


「集中して、、、」


 そう優しく囁くエーテルの瞳を見ないようにと目を閉じて、手に集中した。その後エーテルから温かいものが流れ込んでくる感じがした。それを呑み込むようにしていると、次第にその感覚は激しくなり、ふいに焼けるような感じに変わった。


 あつい、、、


 その瞬間エーテルに強い力で両腕を掴まれた。

 びっくりして目を開け自分の腕を見ると、僅かに青紫の痣のようなものが浮かび上がっていた。


「やっぱりやめよう。これ以上は、危険だ」


 私は手を振り払おうとしたけれど、エーテルは掴んだ手を離してくれない。


「お願い、離して。これじゃあまだまだ足りない。弟を助けたいの、、、いくらでもくれると言ったでしょう?」


「この痣は本当に危険なものなんだ。急に強い魔力を吸収してはやはり君の体がもたない。せめて慣れるまで少しずつ……」


「そんな時間はないの、、、今日弟の様子を見た。これ以上は待たせられない、、、」


 目から大粒の涙が溢れ出てきた。


「早くしないと」


 張り詰めていた緊張の糸のようなものが切れてしまった。あるいは急にエーテルの魔力を取り込み情緒が乱れてしまったかのよう。それに、エーテルの魔力と共に彼の苦しみも流れ込んできたかのようで胸が苦しい。

 

 そんな私の様子を見たエーテルは何かを決意したかのように静かに言った。


「わかった。大丈夫。これ以上君に危険なことはさせない。君は僕を助けてくれた。次は僕の番だ」


 そう言うとエーテルは私の手をそっと離して立ち上がった。


「どうするの?」


「これから丘を下りてに街に行く。そしてダンを救おう」


「え。大丈夫なの?」


 エーテルの気持ちを考えると無理はさせられない。今まで偏見に散々苦しんできたはず。弟の為とはいえ、これ以上傷ついてほしくはない。だからできる限り自分でどうにかしようとしたのよ。

 数日間を共に過ごしただけでも、彼がどれほど人目に触れることを恐れているかがよくわかったから。


「大丈夫だ。ちゃんと誰にも見られないようにする。街の人達を不安にはさせたくない」


「危険だわ。その前に誤解を解かないと、、、」


「大丈夫だよ」


「待ってて、私が皆んなに説明するわ。明日の朝、街に戻って私が」


「駄目だ。君はもう十分頑張ったよ。非難なら僕がうけよう」


「駄目よそんなの。あなたにそこまでさせられない」


「忘れてないかい? ダンは僕にとっても大切な友達なんだ。あいつは君と同じで僕を恐れなかった。君たちきょうだいは僕を信じてくれた。だから僕も街の人達を信じたい。君もそう言ってくれただろう? だからもう怖くはない」


「確かに、そうだけど……」


 いざとなって不安になる私を背にしエーテルは玄関の戸を開けた。

 目の前に大きな月が見えた。


 やたらと月が大きな日には魔法や呪いが強くなる。


 ふとそんな街に伝わる言い伝えを思い出した。

 

 エーテルが振り向いて微笑む。


「君の弟は僕が守るよ」


 その姿は頼もしくも、何故か儚げに見えた。



 



 


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