26 寂しさを越えて②
自分に言い聞かせてから、リザはお茶を淹れた二人分のカップを手に食堂に戻った。
アーチボルドは今の間に例の手配書を壁際の棚に移動させており、リザが持ってきたカップの片方を受け取った。
「茶、すまない。ありがたくいただく」
「ええ、熱いうちにどうぞ」
もとの席について、淹れたてのお茶を二人で味わう。
しばらく距離を置いたからか、アーチボルドもいつもどおりの調子に戻っているようなのでリザはほっとできた。
「……そういえば、明日にはカイリーとロスにも教えようと思っていたことがある。先にリザに話しておきたい」
アーチボルドが切り出し、その内容からして例の話題からは完全に離れられそうなのでリザはうなずいた。
「ええ、何でしょうか」
「家を借りる算段がついた」
アーチボルドの言葉にリザは一瞬、湯気の向こうの彼の姿が揺らいで見えた気がしたが、すぐに微笑んだ。
「それはよかったです。ギルドで真面目にお仕事をした結果ですね」
「ああ。……狩猟祭のあたりから、話をする仲の者も増えてな。そのうちの一人が町の郊外にある空き家を管理していて、俺たち三人のために貸してもいいと言ってくれたんだ」
「まあ。そんな巡り合わせもあるのですね」
「渋々参加した狩猟祭だが、今では参加してよかったと心から思える」
アーチボルドが言うには、件の空き家はしばらく使われていないためガタが来ており、修繕に時間が掛かるそうだ。
壁紙なども全て張り替える必要があるしこれから諸作業の滞る積雪期になるので、そちらに移れるのは早くても春になってからだという。
「そういうことで、冬の間に引っ越しの準備をして春になったら三人で移動する予定だ。それまでは教会の世話になるが、この前の狩猟祭で得た金もかなりあるし、献金なら言い値を払う」
「献金はそういう制度ではないので……」
「はは、分かっている」
楽しそうに笑うアーチボルドからは、深い安堵が読み取れる。
カイリーたち子どもはともかく、成人男性である彼は教会の厄介になるのを申し訳なく思っているようだったから、晴れて三人暮らしができるようになるのは彼にとっても喜ばしいことなのだろう。
もちろんリザも彼らの友として、そして教会の神官として、親子三人の門出を祝福したい。
(……でも、この四人暮らしも早ければ春までで終わりというのは、寂しいわね)
最初は義務感で受け入れた三人だが、今ではこの小さな教会で四人暮らしをするのにすっかり慣れていた。
先輩神官が引退してからの三年間は一人でいても寂しいとは思わなかったのに、たった数ヶ月間の同居生活はリザにとって大きな存在になっていたようだと、今になって気づかされた。
とはいえそんなことは口には出せないので笑顔を貫くが、アーチボルドは何かを察したようでまなじりを緩めた。
「……俺たちが新居に移ってからも、リザにはいつでも来てほしい。カイリーもロスも、おまえが来てくれたら喜ぶだろう。いつおまえが来てもいいように椅子は四人分用意するつもりだから、気兼ねなく遊びに来てくれ」
「そ、そこまでしてくれるのは申し訳ないですが……でも、嬉しいです」
浅ましい心を見透かされていたかのようで気恥ずかしいし申し訳ないが、アーチボルドは穏やかな表情で「気にするな」と言い、お茶を飲んだ。
(そうよね。一度結んだ絆は、簡単にほどけたりしない――)
今の自分なら、アーチボルドたちがここを去ったとしても強くいられるし……いつでも彼らに会いに行けるのだから。寂しくはなかった。




