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12 カイリーの異変①

 最近、カイリーの様子がおかしい。


 それを本人に言えば、「はぁ!? 言われているとおりちゃんと仕事をしているだろ!?」と怒るかもしれないが、リザにとっての違和感はあのカイリーが黙って掃除や洗濯、花の手入れなどをしている点だけではない。


 さすがにリザの前ではまだがさつな物言いをするが、アーチボルドやロスの前だと、自分のことを「あたし」と呼ぶようになり、スカートも黙って穿くようになった。

 これまではばさばさに振り乱していた髪を自分でまとめるようになった。

 リザの部屋から化粧道具をくすねようとした。……現行犯逮捕して、その日の夜にアーチボルドに叱られてはいたが。


 簡単に言うと、あのカイリーが仕事を真面目にこなしてかつ、少女らしい振る舞いをするようになったのだ。


 それは喜ぶべきことかもしれないが、リザは正直なところ気味悪さを感じていた。


「なあ、リザ。おまえが今着てるひらひらてろてろした感じの服、おれに合うサイズのってあるか」


 礼拝室に飾るための花をリースに編んでいるときにそんなことを聞かれたので、リザは思わず手を止めて、花の葉や棘をナイフで落とす作業をしているカイリーを凝視してしまった。


「おまえが今着てるひらひらてろてろした感じの服」とはつまり、女性神官の制服である紺色のワンピースのことだろう。

 膝下丈の長さのそれはカイリーにとってはお気に召さない品だったらしく、「なんでそんな動きにくそうなもん着てるんだよ」と笑ってきたことさえあるのに。


 リザが目をすがめるのを見て、カイリーは咳払いをした。


「あー、いや……。リザが着ているかわいい服をあたしも着たいから、サイズが合うのを探してくれない?」


 何を思ったのか、口調を直してきた。

 リザが不審げな顔をしたのはカイリーの口調を叱ろうとしたからではないのだが、こうしないとリザがお願いを聞いてくれないと思ったのだろう。


「ワンピースなら、全く同じではないけれどあるにはあるわ。ただ、前にあなたも言っていたとおり動きにくいけれど……」

「いいから、貸して!」


 カイリーが熱を込めた口調で言うので、まあ試しに着させるくらいなら……と、リザはリース作りを中断して衣類倉庫に向かった。


 教会で面倒を見る子の中には敬虔な正教会信者もおり、ここに滞在する間に神官用のワンピースを着たいと言う子もいた。

 さすがにリザが着ているものと全く同じデザインのものはないしあっても貸せないが、それっぽいものはあるので貸せるようにしていた。


 衣類倉庫にはやはり、カイリーの背丈に合いそうなワンピースがあった。リザが着ているものよりかわいらしくて裾にフリルが付いているので、カイリーはこれを見て嫌がるかもしれない。


(せめて破られないようにしないと)


 そう思いながら部屋に戻ってワンピースを広げてみせると、カイリーは目を細めてしげしげとそれを見つめた。


「なんかふりふりしてんな」

「私が着ているワンピースは神官用だから、これと全く同じデザインというわけにはいかないのよ」

「ふうん。……まあいいや。それ、着るよ」


 カイリーがあっさり言うので、リザの方が拍子抜けしてしまった。

 そしてカイリーは「早速着てくる」と言ってワンピースを抱えて部屋を出て、しばらくしてから途中で合流したらしいロスを伴って戻ってきた。


「リザ、リザ! みてみて、カイリーがかわいいかっこしてる!」

「ふん、どうだ、リザ。お――あたしもなかなか映えるだろう?」


 素直に褒めるロスに乗せられたようで自慢げに胸を張るカイリーを、リザはじっくり眺めた。


 リザのより淡い色合いのワンピースは胴回りも背丈も細身のカイリーにぴったりで、彼女の銀髪と色の雰囲気もよく合っている。

 膝下丈のスカートのフリルの下にはすんなりとした脚が覗き、可憐ではあるが健康的な雰囲気も兼ね備えている。


「そうね、よく似合っている。今日はその格好で、アーティのお出迎えをする?」

「ああ、もちろんだ!」


 カイリーが目を輝かせて即答するので、ますます違和感が募った。


(これまでは、アーティの前でスカート姿を見せたがろうともしなかったのに)


 もしかすると数日前に生理を経験してから、女性として生きることについて考え始めたのかもしれない。

 カイリーが進んでそのようになったのならばそれはそれでいいことだが……なんだか、それだけではない気がする。


(女の勘、というやつかしら?)


 今までそんなものを発動させる機会もほとんどなかったのでリザは首をひねりつつ、リース作りを再開させたのだった。

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