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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
トルマリエの勾玉
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空位の備え

 ブルーバーグ殿下の幽閉ゆうへい部屋が、こんな華やいだ場所だとは思いもしていなかったナワテは、再度部屋を見渡しながら呆けるように口を丸くしている。


 そんなナワテの反応を見たキースが、やれやれと肩をすくめる。


「おまえ、本来の目的を忘れたのか?」

「本来のって……あ!」


 ナワテは思い出した。というか、災難の連続で今の今まで忘れていた。

 ナワテたちが王宮に潜入した目的。それはブルーバーグ殿下の救出だった。


 こころざしを取り戻したナワテは、ルルに習い、改まってこうべれた。


「この女は、引く手あまたの人気女優、ルル・マッケナー。両殿下も名前くらい聞いたことがあるだろう。男のほうはマリエ・ナワテ。マーガレット・ベルルックサリーの一人息子だ」

「なにっ!」


 キースが二人を紹介すると、殿下が驚きの表情を見せた。特にナワテの素性に衝撃を受けたようだ。信じられないものを見るようなその目は、ルルではなくナワテに向けられている。


「貴方、お話くらい聞いてあげたら。お二人の母親にはそのくらいの義理はあるでしょう?」

「うむ……おまえがそう言うなら」


 妻の助言のお陰で、殿下の身体がやっとキースに向いた。しかし、すぼめられた目の形から察するに、疑念までは拭えていない。


「お茶でも飲みますか」

「いや、そうしたいが時間がない。お気遣いありがとう。キャサリン妃」


 殿下の妻、キャサリン妃はお茶の代わりにニコッと笑みを振る舞った。服は傷んでいるが、その高貴な笑顔がなによりの華族の証だ。


「して、話とはなんじゃ?」


 殿下は話を本題に進めると、キャサリン妃が注いでくれたお茶を口に含んだ。


「あんた、王になる気はあるか?」


 キースは殿下の質問を質問で返した。しかし、限りなく結論に近い質問だった。

 それを聞いた殿下は、驚いた拍子に「ブー」と、含んでいたお茶を宙に吐き出してしまう。


「ゴホッゴホッ……どゆこと? ……じゃ?」


 黒目が点になる殿下。無理もない。ブルーバーグ殿下は誰よりも平和を愛する男。これからキースが話す内容は、彼が考えもつかないことだろう。


「今夜、俺たちは王を討つ」

「ふぁ! なんじゃと!」


 あまりのことに、ソファーから勢いよく立ち上がる殿下。横で聞いていたキャサリン妃も唇に手をあてながら、「あらまぁ大変」などと言って上品な驚きようを見せている。

 ナワテとルルも息を呑んでいた。キースが裏で手を回し、クーデター的なことをくわだてていることは察していた。が、その作戦実行が今夜とは聞かされていない。


「今作戦が達成されれば、事実上この国は空位くういとなる。そうなったとき、まずをもって予想されるのは民の混乱だ。それを解消させる大役をブルーバーグ殿下、あんたに担ってもらいたい。幸い、民の多くはあんたに好意的だ」


 キースの話を聞き、殿下は話し合いで折り合いつかないのかと言おうとしたが言葉に詰まった。上王は言葉でどうにかなる相手ではない。それを殿下は身をもって知っている。彼自身がこのような地下深くに閉じ込められていることが、そう思う何よりの根拠だ。


「……しかし革命など言語道断。民の気持ちはどうなる?」


 殿下は静かに反対の意を示したあと、ナワテの顔を見た。

 そしてこう付け足した。


「……マーガレットも反対のはずだ」


 それは謂わば、マーガレットの心の代弁。ナワテの心を揺さぶるのが目的か。

 ナワテも不覚ながら「確かにそうかもしれない」と思ってしまった。


 しかし、


「いい加減にしろっ!」


 部屋中に、耳を貫く怒声が轟いた。

 声の主はキースだったが、ナワテは一瞬、誰の声か分からなかった。普段の落ち着きを放ったキースからは、想像もできない迫力だったからだ。


「綺麗事は華族のお家芸。反吐へどが出るぜ。いい加減現実から目を背けるのはやめろっ!」


 がなり声とともにキースが懐から取り出したのは、──なんと、黒光りする拳銃。

 銃口の穴は、あろうことか殿下を映し出している。


「あの頃と今とでは国内的にも国際的にも全く状況が違う。国民は窮乏に苦しみそれでも藻掻もがいている。誰かが助けてくれるかもしれないと信じている。この惨状さんじょうを見ても、マーガレットが声高らかに平和的解決を叫んでいたとは限らない。彼女はこんな荒れ果てた世界を望んでたわけじゃないんだ!」


 脅しなどではない。そう周りが確信するほど、キースは怒りに震えていた。

 しかし……この取り乱しようはなんなのか。発端は殿下がマーガレットの気持ちを無闇に代弁したことによるものだった。


「もう一度聞く。王になる気はあるか?」

「断れば?」


 殿下が拒否をほのめかすと、キースは拳銃のレバーを引き、銃口を殿下の額に近づけた。

 だが、殿下は銃口を向けられている人間とは思えないほどの落ち着きを払っていた。その穏やかな目は、まっすぐキースの顔を見据えている。

 キャサリン妃も同様。引き続き鷹揚おうような口調で「あらまぁ大変」などと言っている。

 ナワテとルルの目には、それが強がりやハッタリには見えなかった。暴走するキースを止めるべきなのだろうが、その行動に出ないのはこの夫婦が醸し出すいびつな空気感のせいだ。


 その時だった。


夜水よみずよ、業物わざものの如く──」


 水の唱えが聞こえたのは、ナワテ、ルル、キースの後方から。

 それまで気配すら感じなかったのに、突然、ゾッと、背後に強烈な殺気が現れた。


 ── 殺される! いま振り向いても間に合わない!


 相手の姿は見えない。だがナワテの直感はそう訴えた。

 ナワテは恐怖で動けなくなっているルルを庇うように抱きしめた。そのあと、二人は力いっぱい目を閉じて、そして息を止めた。


 キィン ──! と、

 

 金属が叩かれたような打音が、視界を失った二人の鼓膜を揺らした。


 …… い、生きてる。


 意識があることに気付いたナワテは、視界を広げ、音のした方向を見た──。

 そこにいたのは、黒のとんがり帽子にフード付きのローブを纏った女。

 赤黒い瞳。茶色のロングヘアーのその女は水使いだ。手には青色に輝く剣を持っている。


野蛮やばんな声がしたと思い覗いてみたら、ブルーバーグさまになんたる無礼千万ぶれいせんばん。恥を知れ」

「恥を知るのはそっちだ。客人に背後から剣撃けんげきするなど、とんだ所業だぞ」


 水の剣の攻撃を受けているのはキースだった。キースは銃口の部分を使って、水の剣の女とつば迫り合いをしていた。

 しかし、変幻自在の剣はその形を変化させる。迫り合いの最中、キースの目の前にある水の剣が忽然と姿を消した。


「──マ、ジ、かよ!」


 キースの身体が勢いよく地面に転がる。つば迫り合いを押し返すために預けていた体重を、剣が消失することでいなされたのだ。

 倒れたキースは立ち上がるため直ぐさま仰向けになったが、身体の前にはすでに新たに再生した青い剣が立ちはだかっていた。


 先ほどまでの殿下の余裕はこれだったのかと、ナワテは今さらながら気が付いた。


「形勢逆転ね。さて、早速償って貰おうかしら。我が殿下に汚い銃口を向けた罪の報いをね」


 女はそう言い放つと、鋭利に輝く剣先を、キースの鼻先から数センチの位置に近づけ距離を詰めた。

 このままではキースがやられる。ナワテが魔法を繰り出すべきか迷っていた、その矢先だった。


「お、お母さん」

「え」


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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