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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
再会
17/72

天才同士の手合わせ

 空ではナワテが見たことのない鳥たちが、秩序ちつじょ正しく編隊へんたいを組んでいる。燦々(さんさん)と輝きを放つ太陽は天辺まで達しているのに、翼で風を切るその姿はとても涼しげだ。


 一行が到着したのは、ヴァーレでは珍しい木造建築の平屋。

 それだけを聞くと、古風で立派な一軒家を思い浮かべてしまいそうだがそうではない。

 壁の素材となる木は酸化して黒くなっており、本来の明るい色が消えている。塀もボロボロ。三角を描くような屋根はてたトタンのような素材で作られている。


「これ倉庫じゃないの。こんな陳腐ちんぷな場所に、人が居ることすら疑わしいわ」


 引き続き、ルルはナワテの考えが信用ならない様子である。

 このような場所に来た理由は言うまでもない。ルルが倉庫と皮肉るこの建物が、マリリンが紹介してくれた幽霊劇団の拠点なのだ。


 ナワテは早速、玄関のドアに設置されている古びたノッカーを叩いた。


 ……しかし、誰も出てこない。


 それからもこまめに叩いてみたが、中からの応答はない。


「こんな場所まで連れてこられて収穫はゼロ。とんだ無駄骨だわ」


 案の定、ルルが必要以上の大声で悪態(あくたい)を放つ。

 そんな彼女を一切無視して、ナワテが玄関のドアノブに手を掛けた。


「鍵は掛かっていない。中に入る」

「は、あんた捕まりたいの⁉」

「こんなことで帰るわけにはいかないだろ」


 昨日会ったばかりの見ず知らずの男。ルルからすれば当然、ナワテを信用するに足りる根拠などない。スレタ同様、彼女もナワテが普通の人間ではないことには薄々勘づいている。それも悪い意味で。とりわけ、彼の自宅に貯蔵(ちょぞう)されていた大量の食糧がそう思うに値する奇怪(きかい)な点だ。

 そんな怪しい男が、今度は幽霊劇団の拠点にわざわざ不法侵入しようというのだから、彼女が不満がるのも無理はない。


 しかし、ナワテのある表情がルルの頭にはこびり付いていた。

 それは昨夜、スレタの話をしたときのことだった。ナワテの顔は純粋に(うれ)いているようだった。


 …… 本物の悪人に、あんな顔ができるだろうか。


 彼女がナワテと共に行動しているのは、そういう理由からだ。もちろん、スレタの護衛という理由が一番にある。


 そうして一行は、木造屋内に足を踏み入れた。

 中は一般的な平屋とは少し違った造りになっていた。

 部屋が一つもない。

 つまり、この平屋全体が一つの部屋になっていた。そして、そのだだっ広い部屋の半分が、もう一段高い(ゆか)になっている。


 ナワテはその景色に似た場所を知っている。


「まるで劇場だな」

「げきじょう……?」

「室内で芝居を上演する場所もあるんだ。そういう施設のことさ」


 スレタの疑問に答えるナワテの顔はどこか穏やかで、この空間を(なつ)かしんでいるようにも見える。


 一段高い床は、おそらく劇場のアクティングスペース、つまり舞台を意識して作られたものだろう。この建物全体が稽古場(けいこば)のようになっている。

 どうやら、ここがどこかの劇団の拠点であることは間違いなさそうだ。


 ……しかし、関係者らしき人物どころか、ひとりの人間も見当たらない。

 事実上、消滅してしまった劇団なのだろうか。だとすれば、事態は再び振り出しへと戻される。責任者が存在しなければ、ナワテたちは入団することすら出来ないのだから。

 そんな殺風景な景色の中、ある物がナワテの目を引いた。


「あれ……?」


 それは、壁に掛けられている肖像画。舞台上でスポットライトを浴びる、一人の美しい女が描かれている。

 そのエメラルド色のドレスを着飾った女を、ナワテはくぎ付けになるように見ていた。

 決して絵の中の女に惚れたわけではない。

 彼はその女をどこかで見たことがあった。


 …… 確実に見たことがある。でも、思い出せない。


 なんとか思い出そうと記憶を振り絞っていると、またあの女の毒舌が聞こえてきた。


「やっぱりそこそこの劇団に入るのが最善よ。今からでもあんたが頭を下げるなら、このわたしの顔を使わせてあげてもいいわ。最も、わたしはともかく、レベルの高い劇団であなたごときが通用するとは思えないけど」


 絵から目を外したナワテは、内心やれやれといった具合で聞いていた。

 しかし、


「相当な自信があるんだな。あの程度の演技力で」

「なっ……なんですって!」


 ルルの売り言葉に、ナワテが買い言葉をかぶせ浴びせた。

 途端に、得意げだったルルの表情から、今度は怒気どきの色が浮かび上がる。

 さすがのスレタも険悪な雰囲気を察知し、睨み合う二人を見比べるように首を振っている。


 ナワテは別に、腹を立てて仕返しをしたわけではない。そもそも矢面やおもてに立ってなにかを演じたいなどと思う人間じたい、性格にクセのある者が多い。天才と呼ばれし彼女も所詮(しょせん)は一人の俳優であり、その例に漏れないというのがナワテの考えだ。 


 彼は人を見抜くこと、従わせることに関しては長けている。業界一強と(うた)われるマリエ事務所の代表として、数多くの個性的な俳優を従えてきたのだから。


「丁度いい。君には手綱(たずな)を付けなければならないと思っていたところだ」

「手綱……ですって!」


 過激な挑発を言い放つ、ナワテの視線の先は舞台上──。

 その姿を見ただけで、ルルには彼の言いたいことが分かった。


「あんた、演技できるの?」

「ブランクはある。でもその鼻をへし折るくらいの余力(よりょく)は残ってるさ」

「……ハッタリよ」

「すぐに分かることだ」


 つまり勝負だ。

 

 ナワテは演技の実力でルルを屈服させようとしている。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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