同じ高校に通う赤の他人の屑ヤンデレ君にゆすられる話【セリフ小説】
全てあくまでフィクションだと割り切って読んで頂けると助かります(影響を受けやすい方は読まないで下さい)。設定は詰めてません。
はあ……。大好き。
ゆかちゃん。ゆかちゃんも僕と一緒にクリスマス過ごしたかったよね?
(幼い顔つきをした同い年の茶髪の男の子が、やさしくて甘い声で私に語りかけてきた。お母さんは、<重症化する病気ではないけど、ある程度重い風邪でだるくて動けなくなって高校を休んでいる私>のために、ゼリーとか、好物のわかめのおにぎりとか、水分補給が水よりもできると噂のあまったるい経口補水液とか、他にも私が食べたいとガラガラ声でつぶやいた物を買いに、ちょっと距離のあるスーパーへ買い出しに走ってくれたのだった)
(だから、ピンポンのチャイムが鳴ったときは、おもったんだ。あ、お母さん早いな……。忘れ物かなって……)
(インターホンの画面がない我が家で、相手が誰か扉についてるマジックミラーののぞき穴から確認せずに扉を開けたというのは、不用心な選択だったと思う)
(そして、なんで今、こんなことに……)
(ああ、だめだ。喉が痛い。頭もズキズキするし、熱がすごくて、しんどい……)
ふふっ。
僕ねー。
ゆかちゃんと本当はイルミネーションとか水族館とか旅行とかなんかこう、イベントっぽいことして、外出したかったんだけど……。
ゆかちゃん風邪引いちゃうからさぁ。
(ベッドの横で、病人を気遣う様子もなく、ニコニコと高校生の男の子が笑っている……)
…………。
あっ責めてるんじゃないよ!
でも、この季節に靴下を履かずに寝るのは自殺行為だと思うなぁー。それで風邪引くとか自業自得だよね。もう、ゆかちゃんってほんと、おっちょこちょい。まあ、そういう所もかわいいんだけどさあ。
(ニコッと笑顔を向けられた。まぶしい笑顔と白い歯だ)
(惚気だ。……彼の発言は、まるで私と彼がなんらかの恋人関係にあったことを匂わせるような言い回しで――甘い空気に自分も一瞬、錯覚を覚えそうになるけど、熱のある頭でも分かる。恋人とかあり得ない。全然ない。高校2年だけど、恋とか私には無縁だ。むしろ……田中君と私は……)
(中学の時クラスが一緒だったけど義務的なこと以外一言も喋ってないし、今の高校でも友達じゃないし同じクラスですら無かったよね……?)
(…………)
(……ええと……)
え? 何? どうしたの?
(わ、すごく近い! 風邪が伝染る!)
(ていうか、赤の他人が取って良い距離じゃない!)
……は?
僕達赤の他人だろって? 何言ってんの?
……そんなこと今確認しなくても良くない?
あーあ。せっかく風邪引いたみたいだし、今のうちに洗脳しようかなって思ったのに。
(この人、とんでもなく不謹慎なことを言っている気がする……)
まあ、いいや。
僕、ゆかちゃんの事好きなんだ。
ゆかちゃん僕と付き合ってくれるよね。
拒否権なんて無いからね。もし僕と付き合ってくれなかったら、ゆかちゃんのお父さんがエガワノさんのお母さんと浮気してることクラスの皆にそれとなくバラすから。
(え……)
(小声で田中君が囁いた)
(い、息ができない……!! なんで、何を言って、そんな訳……!)
あーあー。
(田中君が嘲笑している。さっきまでの甘い雰囲気が嘘のようだ……)
むせ返っちゃって。大丈夫? あ、そうだ。証拠もあるけど見る? ぐうぜん、僕が夜遊びスポットの近くの潰れかけの繁華街で夜8時頃にスケボーの練習してた時、見ちゃったんだよね~。
ゆかちゃんのオトーサンと、エガワノ・リカコのオカーサンがラブホに手ェ繋いで、仲良く入ってくとこ……。うん。思わず写真撮っちゃったもん、スマホで。
馬鹿だよねぇ~、浮気するなら、ちゃんと周囲にも気を配らなきゃね? まあ、ゆかちゃんのお母さんは定食屋で非正規雇用の社員サンやってるもんね? まだまだおうちに帰って来るまで時間かかるし、エガワノさんちも後からそれとなーくクラスで本人に聞いたけど、お父さん夜の10時くらいまで家に帰ってこないらしくてさァ。だから油断したんだろーけど、ほんと馬鹿! アッハハハハハ! 僕が見てたのに。
中学の参観日とか高校の入学式とかで保護者の顔見てるし、それに子どもと親の顔って一部の例外をのぞいて大体の場合において雰囲気とか顔パーツの位置・形が似てることがまあ多いから、ウン、いっぱつで分かっちゃったよー!
(なんなんだ、この人は……)
(……この男の子は、一体、なんの話をしてるんだ……?)
(これは悪夢なのかな……? はやく覚めないかな……)
ほら、これ見てよ。PCにも保存してるけど。
(そこには、確かにお父さんと、りっちゃんのママが、ラブホに入っていく様子が収められていた。……そっくりさんとかなんじゃないかと思いたいけど、お父さんだ。どう見ても、お父さんだ。それから、りっちゃんのママだ。……なんか、りっちゃんのママは、いつもよりもお化粧を丁寧にほどこしていて、服もちょっぴり若く見える服を選んで着ている。耳飾りが可愛らしくて……。写真に映った夜の街はネオンライトが不健全な雰囲気を漂わせている。私は全身に寒気がたつのを感じた)
(これを、りっちゃんに言われたら、どうしよう……)
(りっちゃんと私の仲が悪くなるとかじゃなくて、そんなことじゃなくて、りっちゃんとりっちゃんのお母さんが、仲が悪くなっちゃったら、どうしよう……)
(りっちゃんは複雑な家庭環境で育った女の子だ。そんな彼女の唯一の心の支えが、先月死んだペットの柴犬と、りっちゃんママの存在だった)
あー。いい顔。青ざめてて死霊とかゾンビみたいだけど、やっば、めっちゃ可愛い。この顔見るためなら、僕、どんな悪いことでもできる気がするなー。
(頭がおかしい。コイツ、どうして……こんなこと、フツウ……しない! フツウ、おんなじ高校に通う生徒Aの親と生徒Bの親が、ラブホで浮気してる現場をスケボーしてる時に見かけたからって、スマホで撮影なんてしないし……それをネタに生徒Aをゆするなんて、絶対思いつかない……! こんなの、絶対おかしい……!!)
は? 何その目。何キレてんの。
”サイテー”?
おかしいでしょ、その反応は。カテイを裏切って浮気行為にワクワク顔でおよんでる50過ぎのオッサンと40過ぎのオバサンのほうが責められるべきであって、僕はただ単に、……まあいいや、どうでも。
えーっと。僕はただ単に後からやってきて状況を利用しただけ。
こういうの漁夫の利って言うんだっけ?
いや、なんかチガウかも。うーん。僕、現国キライなんだよね。ゆかちゃんは理科と現国成績良いよね。今度教えてよ。
(ほんとに何なんだ。これはドウイウ状況……?)
(高熱が見せる悪い夢なんじゃ……)
大事なのは結論と結果だよ。物事の過程なんてどうだって良いんだ。
そう、たとえるなら、受験勉強でたとえると、大学入試にも社会にも「頑張りましたで賞」は無いんだよ。最低合格点を取って、足切りラインを超えて、とにかく『受かる点数』を取れれば良いの。頑張ったかどうかは大事じゃないの。分かる?
(知るか。進学校に通っているけど、私は勉強ガチ勢じゃない。青春っていうか友だちとの友情エンジョイ勢だ。ていうか今の話となんの関係があるんだ?)
恋愛も一緒じゃん?
どんなに想ったって、大切にしたって、恋い焦がれたって、僕とゆかちゃんが結ばれなきゃそれはバッドエンドなんだよ。
分かる?
全部一緒だよねー。
え? なんで僕はゆかちゃんの事好きなのかって?
一目ぼれ。
中学の入学式でさ、初めて会ったじゃん?
あの時にね、胸に電流が走ったみたいな感覚があったんだよね。胸もバクバクドコドコうるさかったし。ああ、これが恋なんだなって思ったんだけど、ゆかちゃんに僕なんかが話しかけていいわけないって思ってたんだよね。ほら、清楚な女の子だし、君って。
桜がゆかちゃんなら、僕は内面が泥みたいだって自覚多少あるし。
だからあの時は、汚したくなかったんだよね。僕という存在が話しかけることで、ゆかちゃんに世間擦れしてほしくなかったし。
でも高校ってさあ、僕よりゴミみたいな男子生徒も居る訳じゃん?
男子生徒の中には誰でもいいから高校時代に女を喰って、童貞卒業したーいって考えのウェーイみたいなヤツも居るし。
女子生徒だって同じだよね。自分がダークサイドだから友だちまで闇落ちさせたくて、バイシュンとかマンビキとかタバコにアルコール……。色々そそのかすヤツっているでしょ。そういうの害虫って言うんだよ。
そういうのにゆかちゃんの奇跡レベルで純粋な内面が食い荒らされる前に、僕の手でふりむかせよう。無理なら汚して壊そうって思ったんだよ。
うーん。そうだね。これって愛だよね? 情熱的な愛だよね……。
ほんとうに、僕にも人間的な感情があったんだなあ。びっくりだよ。
大好き。
ゆかちゃん。
僕と付き合ってくれるよね?
お母さん帰ってきちゃうでしょ。僕そろそろ帰るね。
あ、ケイサツとかに相談したら、ゆかちゃんの家庭と、ゆかちゃんの大親友のリッチャンって人の家庭も大崩壊するからね。僕の写真で。
ゆかちゃんに振り向いてもらえないなら、僕、前科者になったほうがマシだし。ゆかちゃんの人生めちゃくちゃにしたい。
……愛してるよ。
(私は、ドラマのエンドロールがかかるなら、今ここが最高のタイミングだと思ったけど、そんなことを考えてる場合じゃない。私の人生は、これから、どうなってしまうのだろうか)
(…………!?)
今度会う時は、くちびるにチューさせてね。
その先は、ゆかちゃんが大学生になって……そうだなあ。就活が決まってからで良いよ。あ、時勢に逆らって専業主婦ってのもアリだと思うけどね。
愛してるよ。……あいしてる。
…………。
じゃあね。
(ほっぺたに残った、キスの感触が……どこまでも生々しかった……)
後味の悪い話になってしまいました……すみません。
ある意味、胸くそ系ホラー……(?)かもしれないです……。