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ウェブ上を彷徨う投石機

作者: 小鷹竹叢

 電脳網の地平を今日も無人の投石機が駆け巡る。かの投石機は百戦無敗、決して負けることはない。攻め立てるべき城を求めて荒野を走る。


 石垣の脆いと見えた城塞を見出せば、それから零れた礫を拾いて投げ付ける。憐れ白壁の砦は打ち据えられて疵を付く。


 寄る投石機は一台ではない。影もなかった地の果てからも、一体どこから聞き付けたのか、無数のそれぞれが群がり来たり、一個の城を取り囲む。


 城壁の外には数も分からぬ攻城兵器。何時しか堀も埋められて、数多の礫を浴びせらるるば四方の守りも追い付かず、空いた隙から侵入せらる。壁は崩れて、窓は割れ、火を放たれて燃え上がり、轟々と唸る炎で天を焼く。


 廃墟となりても攻城は終わらぬ。城主が既に逃げていようと城跡に向かいて延々と、礫や火の矢を放り続ける。止むのは新たな城が見付かった時。すればたとえ城が落ちる前であってもコロコロと、次の獲物へ向かって車輪を返す。


 かの投石機は百戦無敗。一度の負けも知ることはなく、決して負けることはない。何故ならそれは自らの城を持たぬから。守るべき城は有さずに、よしんばあっても人に見せることはない。城を持たないからには戦となれば負けはない。たとえ勝てぬとも負けはない。


 城を持たない攻城兵器はただ只管に彼方の城を攻めるのみ。そこに己なるものはなく、兵器に乗り込む精神もなく、攻め得る城を求めて走る。主義も思想もなかりせば、無人の投石機は彼方の粗を探して攻めるのみ。非を攻め立てるを正義と称し、戦場の熱気に陶酔し、傷負うことなく廃墟を見ては勝利と信ず。


 かの投石機は何を求めて攻城するか。そこに理由はありはしない。それでも敢えて答えるならば、攻城自体を目的とす。落とした城で何をするのでもない。領土を手にしたいわけでもない。攻撃の昂揚に身を浸し。攻撃のための攻撃に酔い痴れる。されば(かれ)は意思なき投石を続ける機械。


 城なき投石機は今日も地平を駆け巡る。攻城の昂揚を追い求め。


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