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1「わたくしの栄光のはじまりですわ!」

悪役令嬢と呼ばれた娘が拳で成り上がる話です。(全6章)


 ある日の夜、僕の部屋に、金髪縦ロールでドレスを着たお嬢様がドアを開けて入ってきた。

「おーほっほっほ! ここはいずこ!」

 羽毛のついたぶ厚い扇子で口元を隠しながら上ずった声色で話す。話すというよりも独り言に近い。廊下に繋がっているはずのドアの向こう側は虹色の光がぐるぐる螺旋状に渦巻いている不思議な空間になっていた。

 僕はちょうどその時、その、男子高校生が日課でするような聖なる行為に及ぼうとする直前で腰に手をかけていた。しかし突然の来訪者、母や妹に対する気構えは常に頭の片隅にあったからドアノブが傾いた瞬間、瞬時に何でもない風を装って椅子に座り直していた。

 しかし入ってきたのは母でも妹でもなく、金髪縦ロールの豪奢なドレスを着たお嬢様で、驚くとかドッキリを疑う以前に、笑ってしまった。人はどうしようもない事態を目前としたとき、とりあえず笑ってしまう生き物らしい。

「下男小屋の割には整っているのね。小さくて質素だけれど家具も清潔だし材質もしっかりしていそう。よろしい。しばらくここを私の寝室とさせていただくわ」

 この辺でやっと「ドッキリ」の疑惑をかけ始めてきた僕だったが、周囲を探してもテレビカメラやスタッフもいないし、なにより僕がドッキリにかけられる理由がなかった。テレビでやっているああいうのは、それなりに打ち合わせがあると思うんだけど。

 どうしてよいかわからないままいると、お嬢様はその場で棒立ちになっていた。どうやら扇子の隙間から僕をじっと見ている様子だ。そのままではどうにもならないので、ドッキリならドッキリで、恥をかいても話しかけることにした。

「あの、どちら様で」

 もっと相手の役に合わせるべきだったのだろうが、僕から出てきたのはそんな普通の言葉だった。

 お嬢様は「くっくっく」とくぐもった声を、たぶんそれは嘲笑的な笑いを帯びていて、それから「おーっほっほっほ!」と甲高い声で鳴いた。

「いくら時代と国が違えど、殿方が女性にいきなり声をかけるだなんてはしたないですわ! 先ずは手紙を最低でも五回はやり取りして、月夜の晩にバルコニーで囁く程度の声で話しかけるのがマナーではなくって!」

 と言う。

 これはもう、うん。どこかにカメラがある。向こうは完全に役になりきっている。だからこそ話が全く通じない。普通に苛立ってきた。なぜ僕がこんなものに巻き込まれなくちゃならない。おもしろいことが好きな両親がユーチューバーにでも依頼したんだろう。

 僕はお嬢様役の役者さんとスタッフには悪いが、徹底的に無視することに決めた。きっとおもしろくない映像になると思うが、それは両親が悪い。

「ちょっと貴方! 貴方のことですわよ! ここまで言われて何も言い返さないなんて殿方としてあるまじき! 貴方の誇りはいずこ!」

 どうやらお嬢様はお怒りの様子だ。はしたないと言いがかりをつけ、何も言い返さなければそれも悪いと怒る。きっちりこちらを煽ってくるあたり、この役者さんは相当上手な人なんだろう。

「なんとか言いなさい! 女にここまで虚仮にされて黙っているなんて、えぇと、この国の言葉では確か、大和魂というものがあるのでしょう! 騎士道にも似たその誇りを失ってしまいわすわよ!」

 凝った演出だなぁ。大和魂と騎士道が似ているかは知らないが、その辺の言い方が本当に「突然現世に現れた中世ヨーロッパのお嬢様」って感じがしてリアル、じゃないんだけど、ゲームとかアニメとかに漬かっている人間からしたらビビッとくるものがある。これって一般的なんだろうか。この動画を見る一般の視聴者さんは理解できるんだろうか、この役者さんの演技を。

 突然。

「きぃー!」

 とお嬢様はハンカチを噛みしめながらフローリングの床にハイヒールで地団駄を踏み出す。床は何か所か小さくひび割れが入ってしまい、お嬢様の脚力に驚きつつも修繕費はどうなるんだろうと冷静にいた。

 一通りバンバン床を鳴らしていたお嬢様だったが、また突然。

「えーん」

 と、泣き出した。

「なんでお話してくださらないのー!」

 双眸からは大粒の涙をるいるいと流し、これが演技だとしたら大したものだ、バッと両手を広げたかと思ったら僕のベッドに飛び込んだ。ドレスがシワにならないだろうかとこっちの心配も他所に、毛布をぐるぐる巻いてそのまま押し黙ってしまった。

 もう終了だろう。そろそろスタッフが僕の部屋に入ってくるはずだ。僕は少々キリっとした顔をしてそれを待った。力むくらいでやっと普通の顔面偏差値だからな。


 さて、僕の机には置時計がある。小学一年生の頃に今は亡き祖父に買ってもらったものだ。日本製の立派なもので、数えるほどしか電池交換をしたことがなく、もう十年も経つが時間も狂ったことがない。

 その信頼している時計が三十分経つことを知らせてくれる。僕は君を信頼している。だからそれを信じよう。だがこれはあんまりじゃないか。スタッフさん、僕はいったいここから何をすればいいんですか。撮れ高とかなんとか知らないですけど、もうこれ以上おもしろいことはなにもできないです。

 耳を澄ますとグスグス鼻をすするような音が聞こえてきて、お嬢様は毛布の中でまだ泣いている様子がわかる。さすがにこれは異常だ。こんなドッキリは聞いたことがない。

 僕はドアを開けた。先ほどまで特殊効果か何かを使っていただろう虹色の空間はそこになく、いつもの廊下が開けていた。階段を降りると両親はソファに座りながら映画を観て、妹の涼香はダイニングの椅子に座ってスマホをいじっていた。

「母さん。あのさ、ユーチューバーの人は?」

 ホラー映画を観ていたのか、わかりやすい場面で「キャー!」と驚きながら母は父に抱き着いていた。うちの両親は年齢の割に仲が良い。

「えぇ? なにそれ」

 キャッキャウフフしながら二人の世界に没頭している。これも演出の内だったら怖いが、我が家では平常運転なので怪しいところはない。

「父さん、あのお嬢様っていったいなに?」

「お嬢様? ふふ、俺にとっては母さんがお嬢様だ」

「やだ、もう!」

 もう話が通じないと思い、涼香に話を向ける。

「なぁ涼香。お嬢様を知らないか?」

「は? お嬢様? お兄ちゃん、お姉さんキャラが好きだったんじゃないの?」

「いや、そうじゃなくてさ」

「なに言ってるかわからないけど、私、いまスマホで電気主任技術者の通信講座受けてるからさ、後にしてくれない?」

「あ、ごめんな」

 涼香は中学生だがしっかりしている。なんだかよくわからない資格をたくさん所持していて、証書を並べてうっとりしている時間が楽しいらしい。

「家族は普段通り。ユーチューブでもない」

 そうなると、おかしいのは周囲ではなく自分なのではないか。

 急に不安になってきて、つまりさっきは全て自分の幻覚や幻聴で、そういう病気を発症したとなったらたいへんなことで。

 急いで自室に戻った。


 お嬢様はまだ毛布の中で泣いていた。

 安堵していいのか、いよいよ頭がおかしくなったと焦った方がいいのかわからなくなりながら、とりあえず彼女の話を聞くことにした。

「ねぇ、君。あのさ、どこから来たの?」

 声をかけるともぞもぞと蠕動し、それからなにをどうやったのかわからないが、射出、に近い形でベッドから飛び出してきた。ハイヒールをカチカチと鳴らし、ピンと一本線を引いたように直立する。

「おーっほっほっほ! 貴方! やっとお話する気になったようね! わたくし、貴方がわたくしにお話できる勇気を持てるまで待っていてあげましたのよ!」

「そうですか。ありがとう。それで、君はどこから?」

「もう、本当にいけ好かない殿方ですのね。男女の会話は戦争ですのよ。急に攻撃を仕掛けるなんて協定違反ですわ。先ずは交渉から、つまり当たり障りのない天気の話題などからはじめるべきですわ!」

「教えてくれてありがとう。それで、君はどこから?」

「うわっ、人の話を聞かない方ですのね。うぅ、本当に貴方がバーレイの言っていた導き手なのか疑わしくなってきまわしたわ」

 バーレイ? 導き手? よくわからないが話を聞くより無いようだ。

「いいでしょう。教えて差し上げますわ。わたくしが何者かで、そして貴方が何者かということ。その前に、喉が渇きましたわ。紅茶をいただけるかしら?」

 あぁ、はいはい。と自然とキッチンへ立とうとした自分を振り返ってみて「よく考えたらコイツ不法侵入者なんだよな」と思い直し、言われた通りのことをするのは癪に触ってきた。

「いや、紅茶は後だ。話してくれたらごちそうする」

「あら、いじわるは好意を持たれてからでないと意味がありませんわよ」

「好意を持つも持たれるも、君は自分が周囲から見たら怪しい人間であると自覚しないとこの場は収まらないと思うな」

「ふーん、なるほど。それも一理ありますわね。貴方にしては言うじゃありませんか。よろしい。お話を先にいたしましょう。その代わり、後で紅茶はいただきますわよ」

「それは約束しよう」

「えぇ、それでは」

 そうしてお嬢様は、直立不動のまま、自身について語り始めたのだった。


「わたくしの名はエーデルワイス・ルイ・ピルスナー。十四代続くピルスナー家の当主ですわ。ピルスナー家はビアー国に連なる七大貴族の内のひとつで、主に商業を取り仕切っている貴族ですわ。この世界でいう所の財閥と言っても過言ではありません」

 一旦話を置くお嬢様もといエーデルワイスはこちらをじっと見てくる。なにかに気づいて欲しい、とでもいうような目だった。

「はぁ、本当に貴方は導き手なのでしょうか。あのですわね、ビアー国とかピルスナー家とか、貴方はこの世界で聞いたことはありますか?」

 高校生になって世界史も一通り勉強したが、そんな国や貴族の名前は現代どころか近世や中世の記述にもなかったと思う。

「つまり、それらは全て君の妄想で、君は助けを求めていると」

「違いますわ。この世界にないということは、他の世界にならあるということですわ。つまり、わたくしはあちらの世界からこちらの世界にやってきた、異世界人ということになりますわ」

「異世界って、そんな。ゲームやアニメじゃあるまいし」

「事実だからどうしようもありませんわ。わたくしは商会専属のバーレイという魔導士に異世界へ転移していただけるように頼みました。結果、成功してこうしてこの場にいると言う訳ですわ」

 色んな意味でかわいそうな娘だな。と思ったので引き続き話を聞いてやることにした。

「バーレイは『転移先で最初に目にした男性を頼りなさい。それは導き手としてエーデルワイス様を栄光の道へ誘うでしょう』と言いましたわ。ドアを開けた先にいたのは貴方でした。だからわたくしは貴方を頼るよりないのですわ」

「ふーん。それはわかったけど、なんで君はこの世界に、異世界に転移しようと思ったの?」

「それは……事情がありまして、命の危機を感じたからですわ」

「命の危機ねぇ。それじゃあ逃げてきた、って感じ?」

「逃げるなど! ……いえ、逃げたのでしょうね。あのままわたくしが決闘に立ち会えば確実に殺されていましたわ。バーレイが選んだのですから、この世界は平和なのでしょう。きっとこの世界で生を全うしろということなのですわね」

 話を聞けば聞くほど不憫だ。この娘の頭が。

 ここまで細かく設定されてしまうほどの妄想はきっと厄介だ。どこかに保護してもらうべきだろう。下の両親や妹にも話を通して、たぶん警察に連絡してもらわなければならない。ここは妄想を否定するのではなく、しっかり聞いてやって誘導しよう。

「わかった。僕だけでは話をどうこうすることができない。先ずは僕の両親に会ってもらうということでどうだろうか」

「えぇ、これからお世話になる方に礼は欠かせませんわ!」

「世話になるって、まぁ、世話をするって事なのかな」

「先ほども申し上げましたが、わたくしはここを寝室として余生を過ごすつもりですから、貴方のご両親はパトロンになる訳ですわ。まぁ、わたくしは芸術家でも錬金術師でもありませんけれど」

「なるほどねぇ、ここに住むねぇ」

 もうどうしたらいいのかわからないんだな、この娘。かわいそうに。

 髪型があまりにキマっていて話し方もアレだから気づきにくいが、よくよく顔を見てみると僕と年齢はあまり変わらなさそうだった。少なくとも成人はしていないだろう。もし僕と同年代だったら、不憫すぎる。そういう精神的な病気について僕は全く知らないが、若い内に発症するものもあるんだろうか。

 ここまで激烈なものなら、きっと難しい病に違いない。

「それじゃあ下に降りて、両親にあいさつしたら紅茶をごちそうしよう」

「えぇ、それは良い考えですわ」

 お嬢様はスッと右手を突き出した。二の腕まで覆うほど長いきれいな白い手袋をつけている。ドレスといい、この手袋といい、もっと言えば髪型や髪色まで凝っているというか、やけに本物っぽいなと感心していたら怒られてしまった。

「下に降りるということは、階段を使うのでしょう? でしたら、これを」

「あぁ、そういうことね」

 手を引け、ということだ。さっきまではしたないとかなんとか言っていたが、こういうのは別のようだ。ここで僕が恥ずかしがったり、ぐちぐち言ったりしたらまためんどうなことになると思い、素直に手を合わせて誘導した。

「あら、意外にわかっていらっしゃるのね。感心ですわ」

 と言っても女性と手をつなぐなんてことは初めての経験だったので、手を握るというよりも手を添えるに近い感覚で引いていたら褒められた。これぐらいがお嬢様のいう「マナー」らしい。

 ハイヒールで階段を下りるというのは難しいんじゃないだろうか、と思っていたら、思いの外カツカツ普通に降りるので、この添えた手は一体なんなんだろうなと自問自答しながらリビングへ降り立った。

「あの、父さん、母さん」

 まだ映画に夢中な両親はリビングに入ってきた金髪縦ロールのドレスお嬢様に気づかず、画面を凝視していた。僕の声にやっと反応した母はこちらを見て、にっこりと笑った。

「あら、エーデルワイスちゃん。もう着いたの? 空港に迎えに行こうと思っていたのに」

「えっ」

 母の言葉に絶句する。

「イギリスから来たんだから疲れただろう。色々な手続きなんかは僕らに任せて、今日はとりあえず風呂に入って寝てしまうといいよ」

 父がさも当然というように話す。

 戸惑っていると、ダイニングにいた涼香がスマホを置いてやってきた。

「わぁ、エーデルワイスさんって美人! 今日からうちがホストファミリーになるんでしょう? こんなきれいな人が一緒に住んでくれるなんて嬉しいなぁ!」

 あのしっかり者の涼香でさえこんな始末だった。

「あのさ、なんか話が見えないんだけど」

 母に向かって疑問をぶつけるとつらつらと返ってきた。

「やだ、うちが交換留学生のホストファミリーになるって言ったじゃない? 忘れてた? 本当なら今日、空港に迎えに行こうと思ってたんだけど、エーデルワイスちゃんが家まで来てくれたのよ」

 それに続けて父も言う。

「そうだぞ。エーデルワイスさんは父さんの会社の取引先でピルスナー・カンパニーのご令嬢だ。日本の文化を学びにきたんだ。くれぐれも、間違いのないようにな」

 と、どこかニヤニヤしている。間違いってなんだ。

「もう! お父さんもお母さんもおしゃべりし過ぎ! エーデルワイスさん疲れちゃうじゃない。ほら、文化が違うから靴で入ってきちゃってるし、そのドレスも着替えないと汚れちゃうよ。お母さん着替え出して、あとお風呂にも」

「そうね、そうそう。急だったからなにも用意していないのよ。エーデルワイスちゃん、とにかくこっちに来て、あとは私と涼香でお世話するから、男はしっしよ!」

「あはは、これは参ったなぁ」

 頭の後ろを搔きながら全然参っていない父を尻目に、エーデルワイスはその笑みを扇子の後ろに隠していた。


 これ以上なにか父に聞いても進展はなさそうなので、とりあえず自室で待つ。父が「新しい娘ができた気分だ」と終始ニヤついていたのが気持ち悪かった。

 しかしあの家族の変わりよう、変わりようと言っていいのだろうか。エーデルワイスの姿を見た瞬間に記憶が改ざんされてしまったかのような、あれは、集団幻覚だとかそんな類じゃないだろう。

 まさか本当にエーデルワイスは異世界からやってきて、その魔力か何かで周囲を書き換えてしまった、とか。

 いやいや、そんなはずは。

 そうこう混乱している内に、ドアノブが傾いた。

「戻りましたわ!」

 そこには僕のお古のスウェットを着た、金髪ロングヘアーの美少女が立っていた。

「だ、誰だ!」

「あら、わたくしですわよ」

 その声はまさしくエーデルワイスのものだった。

「いや、その髪型とか服とか」

「湯浴みさせていただいたのですから、カールがほどけるのは当たり前ですわ。それに、造りは簡素で平民のようですが、肌に密着して温かい服を貸していただきましたわ」

 縦ロールとドレスがあまりに現実離れして彼女を浮かせていたが、こうして髪型を普通にして普通の服を着ると、ちょっととんでもない美少女だった。

アニメのエルフをそのまま現実に落とし込んだような端正な顔立ち。日本人離れした碧眼を覗き込めば深く落ちていってしまいそうだ。同年代のはずなのに、到底そう思えない。女性に対していやらしい気持ちを持つことはよくあるが、ここまで美しいとそんな下卑た気分にもならない。

 いや、ごめん、うそ。

 ちょっとエロい。

 自分の服を着ているという事実が、胸の底を熱くさせる。

 なんだろうこれ。この気持ちはなんだろう。この気持ちはなんだろう。

「それで、わたくしはどこに腰掛ければよろしいのかしら?」

「あ、あぁ。この椅子でも使ってくれ」

 僕は自分の座っていた椅子をエーデルワイスに譲り、自分はベッドの端に座った。

「なぁ、あれって一体どういうことだ?」

 とにかく聞いてみる。エーデルワイスは扇子の影で笑っていた。何か知っているのだろう。

「わたくしにも詳しいことはわかりませんが、世界均衡の理というものが働いたのでしょうね」

「なんだよそれ」

「つまり、わたくしは異世界から来たわけですが、この世界からすれば異物になる訳です。世界はそのバランスを崩すことを嫌うため、その異物をこの世界のものとして受け入れ、均衡を保つようにする。ということらしいですわ。バーレイから聞いてはいましたが、こういうことでしたのね」

「それじゃあなぜ僕はその世界均衡のなんとかの影響を受けないんだ?」

「それは貴方がわたくしの導き手だからですわ。あぁ、これでバーレイの言っていたことが正しいとわかりました」

「その導き手というのに勝手に僕が選ばれている訳だけど、なにそれ?」

「まぁ、さきほどの話を聞いていらっしゃらなかったのです? 困ったお人ですわ。導き手、つまり貴方はこの世界においてわたくしを栄光の道へ誘う役目を負っているという訳ですわ」

「なにがなにやら」

 すると廊下の方からドタドタドタ、と足音を響かせて涼香がドアを開けてやってきた。

「お兄ちゃん、布団!」

 と言って、毛布一枚投げ込んでそのまま帰っていった。

「え? なに?」

「あぁ、さきほどお母さまに『うちは部屋が少ないから当分の間は息子と同じ部屋でお願いね』と言われましたわ。わたくしもここを寝室としようと思っていましたからちょうど良かったですわ!」

「ちょっと待て。僕はどこで寝るんだ」

「この世界ではベッドで寝ることが一般的だそうですが、日本では床で寝るのが伝統なのでしょう? ふああ、わたくし、もう寝ますわ」

「おい、ちょっと待て!」

 エーデルワイスはバッと両手を広げたかと思うと、瞬間移動をしたかのように僕のベッドに潜り込み、数秒後には寝息を立てていた。

「床で寝るにしても毛布一枚っていうのは」

 つらいなぁ、寒いんだろうなぁ、など思うもエーデルワイスの顔を覗き込むと本当に美しく、そして僕の服を着て僕のベッドで寝ているというシチュエーションが本当にいやらしく。

「まぁ、これが夢なら寝たら醒めるだろう」

と、机の前に横になり、毛布をかけて寝ることにした。

まさかこの時、彼女が、エーデルワイスが、そして、あちらの世界では悪役令嬢と呼ばれ蔑まれた異端の娘が、栄光を掴むとは思いもしなかった。

1/6章 終了

この話は6章で完結しますが、続きが書けるようにも設定しています。

もしご感想やご意見がいただければ続きを書くつもりです。

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