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七兄弟物語  作者: 唯畏
6/9

♯6 虹宮大輝のただいま(6)

「今日はデザートも作ったよ」


みんなの食事が終わったのを見計らって、暁がプリンを置いていく。

スイーツまで完璧に作れるのが暁なのだ。


でもなぜかそば猪口に入っている。


「ずっと思ってたんだけど、なんでプリンのときそば猪口なの」


「え、いやサイズ感がちょうどいいでしょ。オーブンにも入れられるし、」 


「あ~、うん、なるほど」


たしかに家だし器なんてなんでもいいよな、うん。

味のクオリティが高級店レベルだから、チグハグな感じがしちゃうけど。


「懐かしいな。弟たちに少しでも喜んでもらおうってスイーツ作りも頑張ってたんだよ」


「暁のプリンはそこらのケーキ屋より全然美味しいもんね」


「智也、そんなふうに思ってくれてたのか。嬉しいなぁ」


智也は甘いものに目がない。

コンビニとかでも新しいスイーツが出たら必ず買って食べている。


一方で実は暁は甘いものが好きではない。

スイーツに関しては本当に兄弟たちのためだけに作ってくれているのだ。


わ、プリンうま。何度食べてもうまい。

トロトロでカラメルが苦くて最高。

コンビニのプリンにはない大人のお味。マジで高級スイーツ店。


「わ、こぼした」


星夜が服にプリンをこぼした。

いつものことだ。


暁がティッシュでポンポン叩いてあげている。いや、せめて自分で拭けよ。

なに優雅にプリン食べ続けてるんだよ。


「あ、星夜。店長のこと相談しておかないとまた忘れるぞ」


星夜に気が向いて思い出した。

俺の役の話になってしまっていたが、もともと相談したがっていたのは星夜だ。話させてあげないと。


「あ、そうだ、忘れてた」


忘れてたんかいっ。

なんでこの短時間で忘れられるのか。

こんなに忘れっぽくて仕事ちゃんとできてるのか不安だけど、店長にって言われるくらいならちゃんとできてるってことだよなぁ。


「今の店の店長にならないか、って誘われてんだけど、どうしたらいいと思う?」


「星夜が珍しく不安に思ってるみたいなんだ。店の状況は今度俺も見に行こうと思ってるんだけど」


「経営の心配はいらないぞ。コンサルしてやる」


敦がニヤリと口角を上げる。

敦の経営するコンサルティング会社は今やこの国で知らない人はいないほどで、多くの企業の経営改善実績がある。

中でも社長である敦のコンサルを受け業績がV字回復した企業たちの話は有名で、『奇跡の企業再建人』なんて大層な異名がつくほどだ。


「敦が力貸してくれるならすごい頼もしいな」


だが星夜はそんな敦の言葉を受けても、じゃあなろうかな、とは言わない。よほど不安が強いみたいだ。


「星夜は勘が働くタイプだから、もし店長になりたくないって思う部分があるんなら、そう思わせる何かが店にあるのかもしれないね」


自分はプリンを食べないので、キッチンに戻って洗い物をしだした暁もそれを察したようだ。

暁の意見に俺も頷いて賛同する。

そう、星夜はポワポワしてるのにどこか鋭いところがあるのだ。


「よし、わかった、大輝が店に行くの俺もついていく。敦はどうする?」


暁の提案に敦は少し悩んで、答える。


「暁と大輝に任せる。私は星夜の店の本部についてちょっと探ってみよう。ブランドの将来性とか含め色々とな」


敦の ちょっと探る は 丸裸にする と同義だと思う。


「ほんと頼りになる兄貴達やな。ありがとう」


きらりと笑う星夜。

頼りになる兄貴達に自分が入ってることがむず痒かった。



食べ終わって、智也の部屋で曲を聞かせてもらうことになった。

兄弟みんなの前で聞くというのも考えたけれど、なんとなく智也と2人きりでまずは聞きたいなと思った。


「じゃあいくよ」


智也がノートPCのエンターをクリックする。



あー、すげえわ。

音細かいし、それでいてよくまとまっていて。

妥協なく、丁寧に作られたのがわかる。


頑張ったなぁ。


サビ終わりの転調、おいおい、すげぇよ。


えっ、アクセントにサックス使ってんの?


はー、、、すごいわ



「、、どう?」


智也が心配そうに聞いてくる。

このクオリティで何を心配することがあるんだよ。


でもなぁ、これをどう言語化したらいいんだろう。

ただ良かったなんてそんな易い言葉で表したくないな。


「歌詞書くよ。この曲ちゃんと完成させる」


「ほんと! やったー! あーでも、大輝忙しいでしょ。自分の曲もあるだろうし、全然時間あるときで」


智也はこの曲を発表しようと思っているわけではなくて、単に趣味として作ってみるのだと言っていた。

でも、そんなんもったいなさすぎる。


智也は間違いなく天才だ。

でも、才能だけで曲を作ってるわけじゃない。

確かな努力と信念がある。

絶対この曲に日の目みせてやる。


「なぁ智也。この曲、完成したら俺が歌ってもいいか? 虹宮大輝のシングルとして売り出してもいいか?」


「え」


「だめか?」


「いや、え、いい、の?」


智也は目を彷徨わせて、それからじっと上目遣いで見つめてくる。


「俺がこの曲を歌いたいって思ったんだ」


「、、すげぇ嬉しい。本当はさ、大輝が歌うところ想像しながら作ったんだ。今までの大輝の曲にはない曲調で、大輝の良さを引き出せるものを作りたいって。歌ってもらえるとは思わなかったけど、ワンチャン兄弟の前でくらいは歌ってくれるかも、、とか思って」


「智也」


「だからさ、すげぇ嬉しい。虹宮大輝としてステージでこの曲歌ってるところ見られるのすんごく楽しみ」


「ああ。待っとけ」


「うん!」


智也は本当に嬉しそうに笑った。


「あ、そうだ。大輝が歌詞書いたらその世界観にあわせてアレンジもやってみようかなって。もちろん虹宮大輝として発表する以上、プロにアレンジしてもらうのが一番いいのはわかってるんだけど、一回俺にも挑戦させてくれないかな?」


「えっ! 智也アレンジもできんの? すごすぎない?」


「いやー、できるかはわからないけど。アレンジする余地も残して曲作ったからさ、何パターンかなんとなくの構想は持ってるっていうか」


おいおい、まじで天才だな。


「わかった。智也がアレンジできるようにレコード会社とも相談してみる」


「、、うん」


「急に小さい声になってどした?」


「いや、レコード会社とか聞くと実感湧いてきて。緊張してきた」 


「ははっ。大丈夫。智也の実力は俺が保証するから自信持てって」


「うん、、音楽の勉強もっと頑張る。ありがと」


これからますます成長していくと思うと、将来が楽しみで仕方がない。

親心というか兄心が疼く。

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