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七兄弟物語  作者: 唯畏
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♯5 虹宮大輝のただいま(5)

ダイニングに腰掛けて、暁の料理の完成を待つ。


「あ! 大輝! 俺な、曲作りしてたやつ、ようやく1曲作り終わったんだ。あとで聞いてくれないかな、、」


智也は勢い良く喋り始めたのに、だんだん声が小さくなっていく。

大方、忙しい俺の時間を使うことに申し訳無さを覚えたのだろう。

俺が返事をしないでいると慌てたように言葉を足す。


「あ、ごめん。ドラマの台本覚えたりとか色々あるよな。今日じゃなくてもいいんだ。いつか時間ができたらで、、」


あ~ほんと可愛いやつだ。


「そんな寂しいこと言うな。今日はオフだし仕事はしないって決めてるから大丈夫、智也の曲聞かせてくれ。智也がついに一曲完成させたのか、、って感慨に耽ってて返事が遅れただけだよ、ごめん」


智也はぱぁっと顔を明るくして


「うん!」


と大きく返事をした。


智也には音楽の才能がある。

歌わせれば音を外さず、楽器を持たせれば1日でだいたい弾けるようになり、最近は作曲にチャレンジしていた。


こだわりの強い性格なので1音1音丁寧に作っていて、曲を作り始めたと聞いてから約1年が経過したところだ。


「おー、今日は兄弟揃ってんなぁ。希実以外みんなおるやんか」


裕人がいつの間にかダイニングにやってきていた。

希実、というのは今17歳の七男。高校2年生の末っ子だ。

高校生なので、当然平日の午後は家にいない。


「裕人!」


智也が嬉しそうに声を上げる。


「おう、智也。元気そうやな」


「うん!」


「夜は七人みんな揃うんやな。めでたいわ」


暁が感慨深そうに頷きを返す。

「たしかに。希実の誕生日以来かな」


希実はみんなが可愛がっている末っ子なので、希実の誕生日には兄弟で集まるのが恒例だ。俺もその日は仕事を減らしてもらって、早く家に帰れるようにしている。


希実の誕生日は7月で今は3月なので、8ヶ月ぶりってところか。


「暁ー。俺の鞄どこにあるかしらない?」


リビングからひょっこり顔を出して星夜が尋ねる。


「星夜の鞄なら、2階の洗面所にあったの見たよ」


「あ、ほんと。ありがと」


星夜の人生の半分は物を探してるんじゃないか。暁も大変だな。

バタバタと階段を駆け上がり、そしてバタバタと降りてくる音が聞こえる。


「鞄見つかったか?」


呆れて聞くと、


「うん、洗面所にあった」


星夜がのんきに答える。


「ってかお前手洗った? 手洗ってたら鞄に気づくだろ」


「鞄見つけたついでに洗ってきた」


鞄探す前に洗えよ。

と思ったが、星夜に言い出したらきりがないので黙っておく。


「さ、ご飯にしよう。今日はペペロンチーノな」


「やったー!」


暁の飯は何でもうまい。

中でもパスタとかイタリアンは智也の大好物だから、大手を上げて喜んでいる。


きれいに盛り付けられたペペロンチーノ。にフカフカのパン。一緒にサラダとスープもついている。

見た目は完全にお店クオリティ。家で出てくる見た目じゃない。


「そんじゃ、いただきます」


暁の号令でみんな食べ始める。

にんにくの香りとピリッとくる唐辛子。うまい。

油まで舐め取りたいくらいうまい。


「大輝がそんながっつくの珍しいな、美味しいか」


「、、うまいよ」


暁が嬉しそうに聞いてくるもんだから、恥ずかしくなる。

そんながっついたかな。


なんだろう、すごく泣きそうだ。


「大輝どうした。ごめんな、俺気に触ること言ったか?」


暁がオロオロしてる。

泣いてないのに、やっぱり気づかれるんだな。


ペペロンチーノしか見てないのに、兄弟みんなの視線が俺に集まってるのがわかる。


あー、なんだろ。なんでこんなたまらん気持ちになるんだろ。


肩に重みを感じて、顔を上げれば、暁が俺に目線合わせて、どうした? って顔をしてる。


「久々みんなに会えたから、なんかホッとして、」


「大輝、」


そうだ、俺ホッとしたんだ。

いつも寂しいなんてまるで思ってないのに、こうやって兄弟みんなと会うと、ここが居場所だって思えて、。


暁に抱きしめられる。


「大輝仕事頑張ってるな。でも、苦しいこととかあったら無理しないで、たまには休んだっていいんだからな。俺はいつでもこの家にいるから、いつでも帰って来いよ」


あったけぇ。


「うん、毎日帰ってきてるけどな。ありがと暁」


最高の兄貴だ。



「で? 大輝の精神、だいぶ不安定になってるみたいだが、今度のドラマの役そんなに難しいのか」


敦が聞いてくる。


「まあ、それなりに」


「暴力を振るう親から兄弟を守る長男役だったか。うちでいったら、暁みたいなものじゃないか? 今大輝にやったみたいに弟たちを守ってるイメージだからな」


敦の言うことはよくわかる。

でもなぁ、どうしても暁みたいな何でもできるお兄ちゃんだと、今回の役と違う気がしちゃうんだよな。


唸っていると裕人が昔話を始めた。


「母さん父さんが死んだとき、大輝はまだ11歳やったな。希実なんて6歳やったし。敦と暁と俺でこれからどうするかたくさん話合ったんが懐かしいな」


「希実も裕人には懐いてたからな。ほんとよかったよ。俺には懐かなかったし」


「あの頃の敦は兄弟の生計何とかしなきゃってピリついてたからだろ。俺も俺で焦ってて、結局弟たちの世話はほぼ裕人がやってくれたんだよな」


「何言ってんや。俺はアホやからな、二人がいろいろ考えてくれな、なんもできんかったで」


俺の三人の兄貴たちは自分も苦しい中で本当に頑張って俺らを育ててくれた。


「でも、今回大輝がやる役は、それをひとりでやってるってことだろ。ちょっと俺には考えられないな。俺ら3人だったからなんとかなったけど、ひとりだったら頭おかしくなりそう。ってか、愛してる弟を嫌いになりそうで怖いな」


暁の発言に敦と裕人が頷きを返す。


愛してるものを嫌いになる怖さ、か。

俺も家族を嫌いになるって考えたら、、その前に死を選ぶかもしれない。


いや、死んだら弟が生きていけなくなる。


どうしたら。


「き、いき、大輝!」


名前を呼ばれながら、隣の星夜に揺さぶられて、はっとする。


あれ、。


「仕事熱心なのはいいが、食事中にそんな深く沈まないでくれよ」


敦が呆れたように言う。

俺は役に入っちゃうとなかなか抜けられない。

役に沈んで、帰れなくなりそうになったことも何度もある。


今もちょっと沈みかけてたか。


でも、それはつまり、


「役が掴めたようだな」


敦がにやりと笑う。


「ああ、いけそうだ。ありがとう」


こういうとき世界が違って見える新鮮さが好きだ。

ペペロンチーノもさっきまでと違う味に感じる。

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


お読みいただき、ありがとうございました。

小さな幸せを丁寧に描いていきたいと思います。


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