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七兄弟物語  作者: 唯畏
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♯4 虹宮大輝のただいま(4)

「ただいまー」


元気よく玄関を開けた星夜。

俺もそれに続いて家に入る。

この家の匂いが大好きだ。ふっと身体の力が抜ける。


裕人は絶賛駐車中だ。うちは大きな一軒家で、駐車場にも車が4台停められるのだが、停めると車間距離は狭めなので人が降りるのがなかなか大変なのだ。だから裕人が先に俺達を降ろしてくれた。


俺らが帰ってきた音に気づいて、バタバタとオレンジ色のエプロン姿の男が玄関に顔を出した。三男の暁だ。


「おう、おかえり。車の鍵、さっき掃除のときに見つけたから、定位置に戻しといたよ」


「うわ、ありがとー」


星夜は靴をさっさと脱いで、鍵めがけて勢い良く飛び出す。星夜の部屋は2階にあるのでドタドタと左側の階段を登っていった。

定位置があるならちゃんとそこにおいておけよと思うが、それができないのが星夜なのだ。


「ちゃんと手洗いなね」


後ろ姿に暁が声をかける。


「大輝もおかえり」


「ただいま」


俺は仕事の関係で家に帰るのが遅くなることが多いけれど、暁はたいてい起きていて、こうして毎回出迎えてくれる。


兄弟の誰よりも早く起きて兄弟の誰よりも遅く寝るのが暁だ。先に寝てていいといつも言っているのだが、たまたま起きていただけだという体を崩さない。

タフな人なのはわかっているが、心配になる。


ただ、出迎えてもらえるのが毎度嬉しい自分もいるから複雑だ。おかえり、ただいま、ってすごく温かい。

ときには夜食を作ってくれたり、宅呑みに付き合ってもらったり、ちょっとした愚痴を聞いてもらったりもする。

俺は暁のおかげで安定した精神を保てているんだろうな、と感じる。


「今日は午後オフもらえてよかったね。ずっと休みなんてなかったでしょ」


俺も靴を脱いで、リビングに一緒に歩きながら答える。


「3ヶ月ぶりかな。オフもらえるの」


「それなのに、朝は仕事だなんて。忙しいね。売れっ子役者は大変だ」


「芸能界なんてそんなもんだよ。仕事なくなったらそれはそれで辛いし、頑張んないと」


「無理しすぎないようにね」


暁が心配してくれるのは素直に嬉しい。


玄関からリビングに向かう途中にドアがあり、洗面所に繋がっている。そのドアの前で暁と別れた。いつもの流れだ。


暁はひどく優秀な男なので、この玄関から洗面所までのちょっとの時間で兄弟のコンディションを見ている節がある。そして、兄弟が手を洗ったりしている間に必要なものを整えておくのだ。

夜中に帰ったときは夜食を用意してくれるときもあるが、そのメニューもたぶんこのコンディションにあわせて作ってくれている。あまり体調が良くないときとかはおかゆとかポタージュみたいな優しいメニューになっていて、気力がほしいようなときにはガッツリ焼肉丼みたいなときもある。


だが、虹宮家の最高権力者は長男の敦なので、この家は敦が設計に大いに口を出し完成したオーダーメイドで、中のインテリアもすべて敦の独断で決められている。お金を出したのも敦なので特に文句はないけども、暁の意見くらいは聞いても良かったんじゃないだろうか。


家は基本ウッド調にまとめられていて、敦が家族に温かみを感じてもらえるようにと考えてくれたのだと思う。Sっ気が強くて独断専行、辛辣な物言いなことも多いのでわかりづらいが、ひどく弟思いであることは間違いない。


洗面所は、お風呂とまた別のところにあるので、洗面台と洗濯機だけがある空間だ。水回りは木でないほうがいいという配慮からここは大理石の洗面台となっている。


手を洗って、紙で拭く。

ゴミ箱はカエル型だ。

オシャレな家にはそぐわないが、小さかった弟たちを楽しませようとした兄達の想いの名残だったりする。


手を洗い終えて、リビング。

南よりの窓から太陽光が入り込み、明るい。ひだまりのような空間だ。

L字になっている白い革張りのソファと、ベージュのビーズクッションの椅子が2つ。ソファ自体も兄弟7人で座れるほど大きいが、基本は誰かがビーズクッションに座る。


リビングを抜けると、ここが兄弟みんなでご飯を食べるダイニングだ。

グレーの石を基調としたオープンキッチンの前に大きな木のテーブル。カラフルな布張りの椅子。

7色の椅子はそれぞれ兄弟の色があって、定位置というのが決まっている。


「「おかえり」」


ダイニングテーブルの椅子に座って、声をかけてきたのは長男の敦と五男の智也だ。


左側にキッチンがあって、

敦(黄色) 裕人(紫) 智也(緑) 希実(桃)

暁(橙)  大輝(赤) 星夜(青)

というふうに座るのが定位置。

敦の背中側に窓がある形だ。


敦と希実だけが座っているときなんて仲が悪いのかと思うほど離れている。

詰めるという考えはないのが不思議なところだ。


「この時間に智也もいるなんて珍しいな。大学は?」


「今日は教授が体調不良でひとコマ休講になったから。大輝が久々午後いるっていうし、あとの授業もサボっちゃった」


俺を理由にサボったのか。


「そう苦い顔をするな、大輝。智也は卒業に必要な単位は全て取り終えている。本来ならもう行かなくてもいいのに、普段行っていることが偉いんだ。俺は必要な単位を取ったら一切大学なんて行かなかったぞ」


新聞を広げながら、にやりと笑う敦。

敦にそう言われては、もう何も言えない。


「智也は大輝のこと大好きだから、久々ゆっくり過ごせるのが嬉しかったんでしょ。可愛い弟じゃない」


キッチンで食事の準備に戻っていた暁まで。


「チョッ、大好きとかやめて。キモいじゃん」


そんな全力で反論したら、図星だって言ってるようなものだぞ、智也。


ああ、可愛い弟だ。


「今さら何を慌ててんの。智也が大輝大好きっ子なのは昔からだろ?」


「あ゛ぁ?」


おっと。いつの間にかダイニングに表れていた星夜。

星夜と智也は双子ってこともあって、すぐ喧嘩になる。

仲が悪いわけではなく、ただのじゃれ合いだから基本放っておくのだが、


「私の前で喧嘩するなよ」


敦の発言でふたりはピタリと静止する。

そう、敦の前での喧嘩はご法度だ。


敦はこの家の最高権力者。

弟の誰も逆らわない。


「ふふ、」


暁がふわりと笑った。

逆らえないわけじゃない。逆らわないだけだ。

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


お読みいただき、ありがとうございました。

小さな幸せを丁寧に描いていきたいと思います。


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