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七兄弟物語  作者: 唯畏
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♯2 虹宮大輝のただいま(2)

弟とは出版社の前で待ち合わせしているのだが、まだ来ていないみたいだ。

スマホに連絡も入れたのだが、なんの反応もない。 

既読はついたので大丈夫だと思うけど。


「あれ、虹宮くん、まだ居たんだね」


目の前に車が止まり、車窓から壺井さんが覗く。

事務所に戻るため車を走らせていたのだろう壺井さんがわざわざ声をかけてくれた。


「まだ弟来なくって」


「ああ、もしかして星夜くんかい?」


星夜というのは俺の弟、21歳の六男だ。

時間にルーズでアホなやつだが、服とかセンスがいいので、アパレルショップでカリスマ店員をしている。


私服で出なきゃいけない番組とかあるときに、星夜に服を頼むことがあって、その関係で壺井さんも会ったことがある。


時間にルーズな弟なんて、たしかに星夜しかいないからな。


「正解です」


「あははは、星夜くんは変わらないねぇ」


キャーキャーー!


街ゆく女性たちの黄色い歓声が聞こえて、星夜が来たのだと気づく。


「おっ、星夜くん来たね。いやーいつ見てもかっこいい。スカウトしたいな」


鎖骨辺りまで伸ばした金髪に、180cmという高身長。(ちなみに俺は173cm)

そう、星夜は芸能人やってる俺の何倍もイケメンなのだ。


実際壺井さんは何度か芸能界へのお誘いをかけているようだが、星夜は興味を持たないらしい。兄と同じ職種は面倒だとでも思ってそうだ。


「お疲れ、大輝」


遅れたのにちっとも悪いと思ってなさそうだな。


「星夜、車で迎えにくるんじゃなかったのか」


「そのつもりだったんだけど、車の鍵どこいったかわからなくなっちゃって」


「またかよ」


星夜はとかく物を無くす。

財布とかスマホとか鍵とか。

それでも返ってこないことはなく酷い目にあったことがないのだから運がいいというか、世界に愛されているというか。


「あ、壺井さんだ。こんにちは」


「星夜くん、お久しぶり。今日もイケメンだね」


「ありがとうございます」


星夜は謙遜しない。

かっこいいのは事実だから否定するほうが角が立つのだ。なんて、そんな計算もしてないだろうけど。


「車ないならやっぱり送っていこうか?」


壺井さんの提案に乗るか迷う。

一応芸能人なので、町中でバレて声かけられるのとか嫌だし。なにより、星夜がかっこよすぎるので、とにかく視線を集めてしまうのだ。


「え、せっかくだし一緒に買い物とかしようよ」


星夜は生まれてからずっとその好奇の視線を浴びてきたので、もうなんとも感じないらしい。


「何買うんだよ」


「服とか?」


「俺は服とか興味ないんだってば」


「よくそれで芸能人やれてるね」


「うるさいなぁ。テレビ出るときはスタイリストさんが付くからいいんだよ」


星夜の言いたいこともわかるけど、俺はどうしても服とか興味が持てない。私服とかも写真取られちゃうことがあるから本当はちゃんとしたほうがいいんだろうが、着飾るとかメイクするとかそういうの苦手なんだ。


ブーブー


「お、連絡きた」


スマホのバイブが鳴って、星夜が反応する。


「裕人が配送終わったら送ってくれるって」


裕人というのはうちの次男。26歳。ひょろりとした細身に見えるが、実は筋肉の付いたいい体つきをしている。職業はトラックの運転手。稼ぎのことは気にせず好きなことを仕事にしてる感じだ。ドライブ好きなので、日本全国に荷物を運ぶ長距離トラックの運転手が天職らしい。


とにかく温厚で優しくて、小さい頃はたくさん可愛がってもらった。俺は人に相談とかできないタイプだけど、弟たちはよく裕人に相談とかするらしい。精神面で兄弟の支えだ。


「裕人、いま東京なんだ?」


裕人は全国をめぐるトラック運転手なので、ここ東京にいることは少ない。それに最近は主に大阪を拠点にしていると聞いている。


「うん、大阪から東京あての荷物積んできたらしいよ。あと1時間くらいで配送終わるって」


「じゃあ、それまで時間潰すか。服屋は行く気ないけど」


せっかく裕人の車に乗れるなら、そのほうがいい。長距離トラックの運転手である裕人が家に帰ることは少なく、会えるだけで貴重だ。


「というわけで送っていただかなくても大丈夫です。壺井さんありがとうございました」


「うん、よかったよ。じゃあお疲れ様」


壺井さんは颯爽と去っていった。


「壺井さん、ベンツじゃん。腕時計もロレックスだし。あれ、服はエルメスでしょ。景気いいね」


あまり気にしてなかったが、そうなのか。

そういうところ星夜は目敏く見てるなぁ。


「で、大輝、朝ご飯は食べたの?」


星夜は服屋に行く気がないと言った俺の言葉をさらっと受け入れてくれた。基本的にさらっとしていて、あまり執着しないところは星夜の付き合いやすいところだ。


「いや、食べてないけど。暁がお昼用意してくれるならそれでいいかな、と」


暁は三男で25歳。食べることが大好きでちょっぴりぽっちゃり。コミュニケーション能力が半端なくて、誰とでもすぐ仲良くなれるし、話が面白い。視野が広くて、困ってたらすぐ気づいて助けてくれる。保育士の資格をはじめとして、ありとあらゆる資格を持ってるけど、仕事はしていない。料理・洗濯・掃除・裁縫なんでも上手で、日曜大工もお手の物なため、家のこと全般を取り仕切っている。両親亡き後、実質的に俺らの母親代わりだ。


ブーブー


またも鳴ったバイブ音に星夜が反応する。


「うん、暁お昼作ってくれるみたい」


「星夜はすげぇな。俺、そんなにみんなと連絡取ったことねぇよ」


「すごいも何も大輝がスマホ見なさすぎなんだよ。暁とやり取りしてたのはグループメールだぞ」


「あ、マジ? 全然気づかなかった。というか、俺のメッセージ、既読無視しただろ」


「いやだって、どうせメッセージ送っても大輝は見ないかなって思って。普段の行いだよ」


的を射ているので、それ以上は言い返せない。

いつも未読無視を決め込んでいるのはたしかに俺なのだ。


星夜は兄弟、そして、友達、とにかく常にいろんな人と連絡を取っていて、顔が広い。人見知りをすることもないので、話せば誰とでも仲良くなれるが、顔が良すぎるためクールで近づきがたく思われるらしく、初対面の人から話しかけられることは殆どないのだとか。


俺は逆に、人見知りであまり人と話さない。ただ、平凡な顔と平凡な雰囲気を持っているので、初対面のときは大抵向こうが話しかけてくれる。メールのやり取りとかはほとんど誰ともしない。星夜と俺は正反対だと思う。


「はぁ、俺らって本当に兄弟なのかな。星夜と俺、似てなさすぎじゃねぇ?」


「大輝、それは考えたらだめなやつだよ」


「、、わかってるよ」


俺達は兄弟だ。

年齢なんて関係なく、互いが互いを思い合える最高の兄弟だ。

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


お読みいただき、ありがとうございました。

小さな幸せを丁寧に描いていきたいと思います。


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