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七兄弟物語  作者: 唯畏
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♯1 虹宮大輝のただいま(1)

新連載です。よろしくお願いします。

ガラス窓の奥に映る姿に大輝は、自分が芸能人であることを痛感する。


観葉植物なんかがおいてある今どきのオフィス。幾人かが働いている片隅で、インタビュアーの女性と向かい合って座っている。

主演ドラマに向けて、雑誌のインタビューだ。


写真を撮ったりもしない気楽なものなのだが、髪は丁寧に整えられ、おしゃれな服を着せられている。解せぬ。

本来華のあるタイプではないのだが、こうして整えられてると、マシに見えるもんだよな。

馬子にも衣装ってか。


「虹宮さん、何か気になるものでも?」


インタビュアーの女性が首を傾げる。


「いえ、なんでも」


少しぼーっとしすぎた。

なにせこのインタビューかれこれ1時間近くやっている。

アイドル誌の中の『30000字インタビュー』という人気企画で、じっくり深堀りするのが売りなのだ。


「今回のドラマ、虹宮さんは暴力を振るう親から弟たちを守る三兄弟の長男という役どころですが、どのように役作りに挑まれましたか」


挑まれたもなにも、本格的な撮影はこれからなんだけどな。


俺の名前は虹宮大輝。

今年で22歳になった。

いわゆる芸能人で、主に俳優として活動している。

あとは歌とかもちょっと。


俺がそうしたいって言ったわけじゃなくて、事務所の意向。歌がめちゃくちゃうまいってわけでもないので、最初は悩んだけど、今では生きがいと呼べるほど、歌が好きだ。純粋に楽しい。


ただ、ありがたいことに俳優として演技力が評価されることが多く、最近は演技仕事でいっぱいいっぱい。なかなか音楽活動ができないというのが贅沢な悩みだったりする。


「特に役作りとかはしてないですけど。ただ、うちも七兄弟で、俺にも弟たちがいるんで、兄弟の雰囲気の作り方はいつもの家での感じを元にしてます」


この少子化が叫ばれる時代に、虹宮家は男七兄弟だ。

俺が幼い頃に両親は他界。だが、兄たちが頑張って育児やらなんやらしてくれて、無事にここまで生きてこられた。


「七兄弟、賑やかそうですよね。虹宮さんといえば兄弟愛が強いことで有名ですが、いまだにご兄弟で一緒に暮らされているんですか」


兄弟愛が強いことで有名って、、。

まぁこういう取材でもバラエティ出るときとかも、兄弟の話しか基本してないからな。

え、キモいとか思わないで。引かないで。


「うちは早くに親を亡くしたので、ずっと兄貴達が俺らのこと育ててくれて、その名残というか、いまだに兄弟で一緒に暮らしてますね。兄貴達が守って育ててくれたみたいに、今回のドラマでは弟たちを守れたらいいなと思います」


少し社会派よりのドラマで、親から暴力を振るわれる役。難しい役どころなのは間違いない。そもそも暴力うんぬんの前に、物心ついたときには親がいなかった俺がちゃんと息子を演じられるのかってことに不安を感じる。息子役は初めてではないけど、、親ってどういう存在なんだろうか。いつも曖昧なまま、兄貴達に置き換えて演じている。


この前台本の読み合わせの機会があったが、今回の役は正直全くピンとこなかった。もうすぐ撮影が始まるっていうのに、大丈夫なのか焦り始めている。


「では、最後にドラマの見どころと注目してほしいポイントを教えてください」


まだ撮影もしてないのに、見どころと言われてもなぁ。

これがインタビューの辛いところ。

俳優を始めて7年近く、それっぽく話すことには慣れたけれど。


「親からの虐待をテーマにした堅苦しいドラマだと思われるかもしれませんが、この作品はそういう面だけで捉えたらもったいないと思っていて。兄弟の絆を描いたハートフルな作品でもあるので、苦しいだけじゃない温かさを感じてもらえたら嬉しいです。俺自身そういう面をちゃんと出せるように撮影がんばります」


「はい、ドラマ楽しみにしています。こちらでインタビューは以上です。本日はありがとうございました。」


無事にインタビューを終えて、出版社のお世話になっているスタッフさんに挨拶をする。

こういう挨拶回りは面倒な部分もあるけれど、人との縁がそのまま仕事に繋がるのが芸能界。大切にしなきゃいけないだろう。


挨拶を終わらせて、愛想笑いで凝った顔を手でほぐす。


「虹宮くん、お疲れ様」


マネージャーの壺井さんが声をかけてきた。30代後半の物腰柔らかい男の人だ。


「壺井さん、お疲れ様です」


「今日のインタビュー、とっても良かったよ。兄弟の話をしているときの表情とか素敵だったから、写真撮影がないのが残念なくらい」


「いえ、きっと情けなく顔が緩んでたでしょう? 撮られてなくて良かったですよ」


「ファンは喜ぶと思うけどなぁ」


壺井さんはにこにこと楽しそうだ。

うちの事務所は小さめで、正直俺以外に売れてるタレントが居ない。だから贅沢にも専属マネージャーという形で壺井さんに付いてもらっている。


かなり優秀な人だから、将来はおそらく事務所のお偉いさんになるか、どこかに引き抜かれるだろう。


そんな人に良かったと言われるのは素直に嬉しい。

少しは自信が持てるというものだ。


「虹宮くん、今日の仕事はこれで終わりだから家まで送ろうか」


今日は珍しくこの取材1つで仕事が終わりだ。

壺井さんがオフにしようと調整してくれてた日なのだが、贔屓にしてくれている出版社の取材でこれだけは受けないわけにいかなかったらしい。

それでも撮影なしの気楽なものになるよう、うまく交渉してくれたと聞いている。

ありがたい話だ。


「今日はオフみたいなものなので、兄弟でゆっくり過ごそうと思ってて。弟が迎えに来てくれるので大丈夫です」


「へぇ! 相変わらず兄弟で仲いいなぁ。じゃあ、気をつけて。明日はバラエティ番組2本と、次のコンサートの打ち合わせ、それから音楽番組の生放送が1本だね。朝8時に迎えにいくから」


「はい、壺井さんも今日はゆっくりしてくださいね」


「ははっ、タレントが休んでいるときこそマネージャーの頑張りどきだよ」


壺井さんは一体いつ休んでいるのか。


「そんな心配そうな顔しなくて大丈夫。僕はワーカーホリックだから。仕事してるほうが楽しいんだよ」


それもあながち嘘じゃないだろう。

仕事が詰まってれば詰まってるほどホクホクした顔をしてるから。


「無理はしないでくださいね。壺井さんいないと俺ちゃんと仕事できる気しないですから。では、お疲れ様でした」


「ははっ、マネージャー冥利に尽きること言ってくれるなぁ。おつかれさま」


取材を受けていた出版社を出る。

自動ドアを出た瞬間、眩しさに目を眇めた。

まだ朝だというのに日が高く昇り、肌がちりちり焼ける感じがする。


この眩しさはどこか目を背けたくなるものがあるな。

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


お読みいただき、ありがとうございました。

小さな幸せを丁寧に描いていきたいと思います。


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