精霊船に乗って会えたら
精霊流しという文化が長崎市にはある。
幹太は小さな頃、
お盆の時期、長崎の街で精霊流しを見てきた。
ひいじいちゃんも
ひいばあちゃんも
精霊船に乗って
船出をしたと聞かされた。
父親に連れられ何百隻という
精霊船を見て、
全ての生命は病気で
苦しんで終わるのだと
子供心の中でふと思った。
幹太には恋人がいた。
恋人は病気で余命は数ヶ月。
恋人の和子は腎臓癌だったのだ。
和子は最後は痛みで
苦しんで死んでいった。
和子が亡くなってから
幹太はアルコールと精神安定剤で
苦しい精神を誤魔化していた。
長崎の繁華街を飲み歩き、
アルコールに走っていた。
幹太の瞳は曇り濁っていく。
精神安定剤を毎日大量に飲んでいた。
何も考えられなくなり
全てがどうでも良くなるこの瞬間こそ
救われたと思う時である。
幹太は
精神安定剤が効いて
現実から逃れている時だけ
人として生きる実感を
感じるようになっていた。
全て忘れさせてくれ。
薬物と刃物で
自己破壊衝動を
自分の体に向けると
救われた気分になる。
自分の血液を見ると
生きる感覚をリアルに感じるのだ。
大量の眠剤を水道水の入った
ウイスキーグラスで飲み
和子に再会することを
願いながら
幹太は眠剤の主作用で意識を無くした。
致死量の眠剤を飲み永眠したのだ。
「精霊船に乗って必ず会いに行く」
と硬く誓って。