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オイリュートの魔法の本 6
男の視界の端に、ほんの少し見えた、小綺麗な女の子が憐れみの視線を男に向けた瞬間を見逃さなかったのだろう。
男の目がグワと開かれ、今の今まで店主に縋り付いていた男の土下座がそのままスライディングされるようにシャルルの足元へと滑り込んできた。
「ぎゃあ!」
シャルルは怪物のような唸り声をあげた。
弟は驚きすぎて声にもならず顔全体で叫ぶような表情で固まってしまった。
「お嬢様お助けくだせえええええ!」
シャルルの足元で土下座する男の後方に、店主の呆れたように「んが」と顎を開く顔が見える。
小綺麗な女の子を見て男が思ったのは、貴族かどうかわからねえが金持ちの子に違いねえ!
可哀想と思わせれば俺っちの勝ちだ! だった。
女の子の足元でおんおんと泣く悲壮な男のだらしない姿は、
お嬢様と呼ばれた? 私がレルレネーの領地を治めるイオライオス伯爵の娘だと気付いて助けを求めてきたの?!