7.すれ違う新婚生活
グレーテに「色気で落とすのよ!」と言われたけれど、果たしてどうやってやるかも分からず変化の無いまま時が過ぎていった。
夏を前にヘッセン侯爵領を訪れることになり、仕事のあるヴェルナー様を王都に残し、私は一人領地へと向かった。
(一緒だったなら新婚旅行にでもなったのだろうけど)
ガタゴトと揺れる馬車の窓から新緑が美しい山々を眺めながら、少し寂しく思った。
結婚して二ヶ月が経とうとしている。この二ヶ月間、新婚夫婦らしいことは初夜以外無かった。新婚旅行にでも行けばそんな雰囲気にでもなったのだろうか。
婚約者時代だって数える程の夜会への参加、そこでのダンス以外何も無かった。
デートも茶会も何も無い。事務的な会話の為に会っただけだ。
忙しいヴェルナー様とは朝一緒に食事を取り、出勤するのを見送るだけの日々。軍舎に泊まり帰ってこない翌日はそれすら無いのだ。
本気で避けられているのではないかと不安になる。
しかし、義父であるヘッセン侯爵もヴェルナー様と似た生活を送っているので、おそらく意図的に避けているのでは無く本当に忙しいのではないかと思う。参謀という職は想像以上に多忙なのだろう。
ヘッセン侯爵領は辺境伯領の南にあり、北部地域に含まれる為に夏でも王都程暑くはならず、避暑地として貴族達にも大変人気がある。特に大きな湖の周辺には多くの別荘や宿が建っており、これからのシーズンは観光業の繁忙期となる。
夏の休暇にヘッセン侯爵領で過ごす場合や商売を行う場合には事前の申請を義務付けており、その申請書の受領審査や、必要であれば事前調査等を行なわなければならない。また、多くの物資が持ち込まれたり、商人の出入りも激しい為、領主としての仕事が忙しい時期になるのである。
王都から三日掛けて領館に無事に着いた。馬車旅でお尻が痛くなったけれど弱音を飲み込み、戸を外から開けられたので馬車から降りようとすると、スッと手を差し出される。御者かと思って普通に手を取ったら、なんと前侯爵だった。
「長旅ご苦労様だったね」
ヘッセン侯爵に良く似た優しい笑顔で迎えられ、ドキッとしてしまった。
もう軍人を引退したと言っても大きな体躯は変わらず体を鍛えているのだろうかと思う程で、優しい表情の中にも鋭く美しい瞳にヴェルナー様や侯爵との血筋を強く感じた。
「お世話になります」
前侯爵夫人も隣に立って私を迎え入れてくれた。お二人とは結婚式で会った以来だった。
まさかこんな外で待っていて歓迎してくれるとは思わず、嬉しくなってしまった。
「疲れているでしょう。今日はゆっくり休んでね」
「ありがとうございます」
館の中に案内され、柔らかいソファに座って美味しいお茶も頂いて、一息ついてから館の中を案内して貰った。
「冷える夜もまだあるから、そんな日は遠慮無く暖房を使ってね」
この侯爵領へは初めて来た。夏でも涼しいとは聞いていたけれど、暖房を使う程に寒く感じる日もあるのかと驚く。王都は夏の気配がしてきており、日差しは強く感じるようになった。
案内された私が使う部屋は、王都の邸の様に隣の部屋と繋がっていた。夫婦で使う様に作られているのだろう。余計に新婚旅行で来たかったなと思ってしまった。
翌日から早速領主としての仕事のお手伝いをした。リートベルク伯爵領は貴族の別荘なんて無いので、これまで経験したことの無い仕事ばかりだったけれど、前侯爵夫妻が優しく丁寧に教えてくれたので、流れさえ覚えてしまえば同じことの繰り返しでなんとかこなすことが出来た。
時には視察に領地を回ったり、報告が上がってきた確認の為に現場へと馬を走らせたりと、忙しくも充実した日々を送っていた。
正直王都にいる頃はそんなに仕事が無く、結婚しても夫に放置されていたので暇を持て余しており、やることがないとマイナスな考え事ばかりしてしまっていたので、日中は仕事に励み夜は疲れて熟睡出来て、そんな毎日を楽しいとすら思っていた。
そうやって過ごしていたらあっという間に一ヶ月が過ぎ、王都から多くの貴族が避暑にやって来た。
前侯爵から「湖の町では多くの出店が出ているから面白いぞ」と教えて貰い、半日お休みを貰って侍女と一緒に遊びに出掛けた。
春に王都の中央広場で見たマーケットに負けず劣らずの賑やかさで、多くの人が行き交っていた。
何処かの別荘に持って行くのか多くの食材を買い込んだ使用人らしき人や、良い匂いのする出店で買い食いをしている人、大道芸を見て楽しんでいる人等、眺めているだけでワクワクして前侯爵の言う通り本当に面白かった。
出店を見て回りながら、ああ、ここは私も出店申請書をチェックしたわ、なんて思い出しながら、どのくらいの客が来ていてどんな客層なのか等を見ながら視察気分で回っていた。
侍女と店を見て回りながら美味しそうな匂いにつられて幾つか買い食いもしてしまった。一人楽しい思いをしていることに申し訳ない思いで、出掛けさせてくれた御礼にと前侯爵夫妻にお土産を買うことにした。侍女も他の使用人に買うと言ったので、じゃあ館の皆にとあれこれと沢山買い込んだ。
こんなものかなと、そろそろ帰ろうなんて話していた時、ふと絵葉書の店が目に入った。
「綺麗……」
湖の風景画の葉書や、花の絵の葉書等、淡く優しい雰囲気の絵だった。
「ありがとうございます。一枚如何ですか?」
「あなたが描いたの?」
「ええ。全部この湖の周辺で描いたものですよ」
この絵を見ると本当に美しい領地だなぁと思った。私は領主に嫁いだ嫁としてこの風景を守っていくのだと、改めて感じた。
……まあ、離縁されなければであるけれど。
「この夏の思い出を大切な方にお届けしませんか?」
絵師に"大切な方"と言われて、真っ先に思い浮かべたのはヴェルナー様だった。美しい銀髪をした、今は失ってしまった優しい笑顔をしたヴェルナー様の顔を。
「じゃあ、五枚頂くわ」
「ありがとうございます」
若干絵師の口車に乗ってしまった気がしないでもないけれど、様々な絵の葉書を選んで購入した。
帰りの馬車の中で湖の風景画の絵葉書を眺めながら、ヘッセン侯爵領に来てから一切連絡をしてなかったことを思い出した。ヴェルナー様からの連絡は無いけれど、私からも何も連絡をしていなかった。新婚夫婦なのに、これでは使用人に何か噂を立てられてしまうかもしれない。
“結婚しても夫に放置されていた”と思っていたけれど、それは私も同じで歩み寄りを一切しなかった。
私から葉書を貰って、嬉しいとは思われないだろう。それでも一瞬でも良いから私を思い出して欲しい。今の私に出来る精一杯はこれしか思いつかなかった。
それから数日掛けて葉書に便りを書いた。ヴェルナー様以外にも、グレーテや両親へ、それとヘッセン侯爵にも書いた。グレーテや両親への便りはスラスラ書けたのに、ヴェルナー様への便りはなかなか書き進められなかった。
それから二週間程するとグレーテと両親から返事の手紙が届いた。手紙の内容から絵葉書を喜んでくれた様子が伝わってきて嬉しかった。
王都は夏の暑い盛りだろう。少しでも涼しげな風景を送ることが出来て良かった。
ヘッセン侯爵領も短い夏が訪れ、でも来週には徐々に涼しくなってくるらしい。一ヶ月もすれば肌寒さを感じるようになるのだとか。
ヴェルナー様からの返事は来ない。
期待はしていなかった。来なくとも、絵葉書を見て私を思い出し、ヘッセン侯爵領を懐かしんで貰えたらと思っただけなのだから。
一枚だけ手元に残した絵葉書を、一人部屋で眺める。
来年もここに手伝いに来るだろう。そして再来年も。だけどその先は分からない。子どもが出来なければ離縁だ。ここに来ることは二度と無くなる。
子どもを作るにはやることをやらなければならないのに、初夜からもう四ヶ月近く触れ合っていない。それどころか今は離れて暮らし、顔すら合わせていないのだ。
もし離縁したら、私はこれを思い出の品として大事にするのだろう。
それからさらに二週間程が過ぎたある日の昼食後、前侯爵が声を掛けてきた。
「はい。これはデリアの分ね」
差し出されたのは二通の手紙だった。
「今日王都の邸から纏めて郵便が届いたんだ」
邸からと聞いて慌てて手紙の差出人名を見ると、ヘッセン侯爵とヴェルナー様からだった。絵葉書の返事が来たのだと思った。
「今日の午後の仕事は手紙を読んでからで良いからね」
とってもニコニコとした笑顔で言われた。手紙が来たことに喜んでいる私を微笑ましく思ったのかもしれない。前侯爵にも契約結婚のことは伝えていない筈だから、新婚夫婦らしさに笑みが溢れたのだろう。
「ありがとうございます」
前侯爵が思っている様な関係では無い私達だけれど、少なくとも私はあの方を想っている。嬉しさは隠しきれずに、泣いてしまいそうなのを目に力を入れてグッと堪え、手紙を手に部屋へと急いで向かった。
緊張している様な、楽しみの様な、少し怖い様な、胸の高鳴りで体が浮いているような錯覚を覚えながらも椅子に座り、どっちから読もうかと迷った。
ヴェルナー様からの手紙を読むのはやっぱり少し怖い。「手紙は要らない」とか書かれていたら午後の仕事が出来る気がしない。でも読みたい。派遣に行く前に貰った手紙以来なのだ。
心を落ち着かせる為にヘッセン侯爵からの手紙を先に読もうか。侯爵様をクッションの様に扱ってごめんなさいとも思うけれど。
あれこれと考え、でも仕事があるからいつまでも考えていられないと、覚悟を決めて気になる気持ちを優先してヴェルナー様の手紙を開けた。
懐かしい景色の絵葉書への感謝と、領主としての仕事をこなしてくれたことへの感謝、それと私の体を気遣う言葉が書かれていた。
怖がる必要なんて無かった内容だった。嬉しかった。
ヴェルナー様は優しい人だ。そんなこと昔から知っていた筈なのに、すれ違い、そして会えない日々から勝手に不安になっていたんだ。
忙しい中私の為に手紙を書いてくれたことが嬉しくて嬉しくて、会いたくなってしまった。
やっぱりヘッセン侯爵からの手紙を先に読むべきだった。だって、喜びに浸りながらヴェルナー様を想う時間からなかなか抜け出せなくなってしまったのだから。
結局私はヴェルナー様のことばかり考えてしまい、午後の仕事がまともに手につかなかった。
それからまた数週間が経ち、ヘッセン侯爵領を訪れていた貴族達も徐々に王都や自領へと帰って行った。秋が来たら社交シーズンだ。それに秋は各領地で収穫祭が行われる。それぞれの準備の為に避暑を終え、長い休暇から日常へと戻って行くのだ。
今年も例年通りに侯爵領で沢山のお金を落としていってくれたらしい。有り難いことである。
慌ただしさも過ぎ、私も王都へと戻る日が決まった。約三ヶ月も滞在していた。もともとそのくらいとは聞いてはいたけれど、実際経験してみると長かったように感じる。貴族に人気の避暑地で快適に過ごせたのは嬉しいのだけれど、さすがにヴェルナー様に会いたくなった。特に手紙を貰ってからはその気持ちが増すばかりだった。
仕事も落ち着き、空いた時間に少しずつ荷物を纏めたりしていた頃、まさかのことが起こった。
「やあ、デリア。久し振り」
なんと、ヴェルナー様が館にやって来たのだ。
「ど……え……?ええっ!」
驚きすぎて言葉もまともに出なかった。
「ああ、吃驚したか!?大成功だな」
前侯爵が何だか嬉しそうに笑っているが、何が何だか分からない。
「お祖父様、デリアに伝えていなかったのですか?」
「この三ヶ月頑張ってくれたデリアへのサプライズだ」
それ、サプライズなのですか!?
驚きすぎて嬉しさよりも戸惑いの方が大きいです。
「あらやだ、貴方ってば。サプライズなんかされたら女はちゃんと準備して着飾れないじゃないですか!」
お祖母様、もっと言ってやってください。私じゃ言えないので。
「いやいや、なかなか良い顔が見れたじゃないか」
お祖父様、私をからかうのは止めてください。
一先ず王都からヘッセン侯爵領まで馬で一日半掛けてやって来たヴェルナー様に休んで貰いながら皆で雑談を交わした。馬車では三日掛かるのに馬では半分で済むらしい。
「お仕事はお休み出来たのですか?」
「ああ。国境派遣の後処理もかなり片付き、上官から結婚休暇を返上させてしまった詫びにと、改めて休暇を取るよう言われたのだ」
そうだったのか。
泊まり込みで帰ってこないのは避けられていたのではという不安がどうしても消えなかった。忙しいから仕方ないとは思いつつ、軍人の妻として理解をしなければと頭では分かっていたのに、確認するのが怖くて向き合わなかったせいで、こう何ヵ月も悩んでは否定してを繰り返していた。
「お仕事お疲れ様でした」
本当に忙しかっただけなんだと分かってホッとした。
「ヴェルナー、湖に行ってきてはどうだ?デリアを案内してあげなさい」
「そうですね」
ソファに座ってお茶を飲んでいたのに、ヴェルナー様は立ち上がろうと体の重心を前にずらした。
「えっ!こ、これからですか!?」
「ああ」
「でも、まだ館に到着されたばかりでお疲れではないのですか?」
王都から一日半馬を走らせてきたのだ。私なんて馬車に乗っていただけなのにお尻が痛くなって疲れてしまったというのに。
「行軍に比べたら楽なもんだったよ。全然疲れていない」
わあ……軍人って凄いのね。当たり前か……。
「明日の夜は簡単なパーティーをするから、出掛けるなら今日の方が良いだろう」
前侯爵の言うことにぎょっとしてしまった。
「パーティーですか……?」
「せっかく次期侯爵夫婦が揃って領地へ来たんだから、客を招いてお披露目しなきゃな」
そういうことはもっと早くに教えて欲しかった……!
ヴェルナー様が来ることを黙っていたからパーティーのことも黙っていたのだろうけれど、招待客リストのチェックとかドレスや宝飾品の準備とかあるのにっ!!
って、思わず心の中で愚痴った。
結局ヴェルナー様と馬に乗って湖へ行った。デートよろしく二人乗りで……ということは無く、馬に乗るのなんて訳無い私は、ヴェルナー様が走る後ろについて馬を走らせていった。
これはこれで良いけれど。
こうして二人で出掛けるのなんて初めてのことで、明日のパーティーの不安はあれど、ヴェルナー様の背中を眺めながら今はドキドキと胸を高鳴らせていた。
もう秋の気配がしだした湖の周辺は、広葉樹が色づき始めていた。近頃は夜や朝に冷えるようになったからだろう。
ヴェルナー様が馬を止めたので同じように止めて馬を降り、木々の間を歩いて進んだ。木の実がころころと落ちていたり、鮮やかな実をつけた草木や可愛らしい草花があちこちに見られた。
「ここ、足場が悪いから」
そう言ってヴェルナー様は手を差し出してくれた。スマートで紳士的な仕草にドキッとしてしまった。
木の丸太で作られた簡易的な階段は土の部分が滑りやすくなっており、周辺の木の根も伸びてきて引っかけてしまいそうで確かに足場が悪い。
「ありがとうございます」
差し出された手に手を重ねると、私の手を強く握って体を引っ張ってくれた。引き寄せる力強さに思わずヴェルナー様の胸に飛び込んでしまいそうだった。それに手に触れたのなんていつ振りだろうか。結婚式かもしれない。そんなことにドキドキしつつ、手を引かれるままに進んでいくと湖が眼前に現れた。
「わあ……綺麗……」
そこは海辺の浜のように湖の水が波を作り陸に寄せては返してを繰り返していた。湖面は太陽の日差しを反射してキラキラと輝き、色づき始めた周囲の木々の暖かみのある色を照らしていた。
「昔はよくここで遊んでいた」
「岸でですか?」
「湖の中にも入っていた」
「泳げるのですか?」
「勿論。波が穏やかだから海より泳ぎやすい」
「私は泳いだことありません」
リートベルク伯爵領は海に面していないし、湖や川でも泳いだことは無かった。兄は川で魚を捕まえたりしていたけれど、女の私にはやらせて貰えなかった。
「泳いでみるか?この時間なら水もさほど冷たくないぞ」
「なっ……!お、泳げません!私は、手や足を浸けるだけで充分です!」
こんなところで素っ裸にでもなれと言うのか……!
ちょっと声を粗げて言ってみれば、微かにヴェルナー様の口角が上がっている様に見えた。
(笑ってる……?)
「冗談だ」
笑顔ではないけれど、柔らかい表情だ。私に冗談を言える位には心が落ち着いてきたということだろうか。
「あっちの木陰によくシートを敷いて、泳いで疲れたらその上で寝ていた」
「元気な子どもだったのですね」
「元気でいると母が喜んでくれたからな」
「お母様……ですか?」
ヴェルナー様が五歳の頃に亡くなった母君。出産で体調を崩し、ずっと療養していたと聞いていた。
「母は領地で療養していたから私もこっちで過ごしていた。母はこの湖畔が好きだったから体調が良い日にはよく訪れていたんだ」
母君の話をするヴェルナー様は穏やかな表情をしている。大切な思い出を私に話してくれているのだと思うと、嬉しかった。
「デリアから絵葉書を貰ってこの湖畔を思い出した。懐かしさから久し振りにここに来たいと思っていたから、来られて良かった。ありがとう、デリア」
柔らかな微笑みを浮かべていた。その微笑みに何だか泣いてしまいそうで、「良かったです」とだけ言うと顔を逸らして湖を眺めた。
以前の様な笑顔にはまだまだでも、少し変化を見られたのが嬉しくて、胸がいっぱいになってしまった。
懐かしい湖の風景や、母君との思い出の湖畔。それがヴェルナー様の心を穏やかにしてくれたのだろう。
絵葉書を送ったのは私を思い出して欲しかったから。けれどそれでここまで来たいと思わせられたのなら私の作戦は予想を上回る成果だろう。
ヴェルナー様の思い出のテリトリーに入ることを許されたようで、少し距離が近づけた気がした。
その日の夜、夫婦用の繋ぎ部屋でヴェルナー様は過ごす為、当たり前だが一緒のベッドで寝ることに。それに前侯爵夫妻が居る手前、新婚夫婦が別々に眠るなんてところは見せられない。今更ながら緊張してしまうのも致し方無い。
ヴェルナー様もここでは仕事で帰りが遅いなんてことは無いので当たり前に一緒に寝室で過ごした。穏やかに二人でお茶を飲んだりして。私は終始ドキドキしていたけれど。
「もう寝ようか」って言ってベッドに移動して明かりを消す。二人並んで横になって私のドキドキは収まる気配がしなかったけれど、結局その夜私達は体を重ねることは無かった。なかなか寝付けなかった私は、隣からの規則正しい寝息を聞きながら色気で落とす方法を本気で考えなければと、寂しいような悔しいような気分で決意をした。
今日の昼間に湖で距離が近づけたような気がしたけれど、だからと言って抱きたくなるかどうかは別なのだろう。
そして翌朝目覚めると、冷え込み始めた近頃よりも暖かい朝だと思った。それが心地好すぎて二度寝しちゃおうかなんて考えながら、でも体が痛いなと思って目を開けて吃驚した。
ヴェルナー様に抱き締められていたのだ。
(ええっ!ど、どういう状況!?)