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5.愛を囁かない婚約

私の両親へ契約結婚の話をした時もヴェルナー様の予想は外れ、特に反対はされなかった。

両親は幼い頃からの私の恋心に気がついていたし、私に政略結婚をさせようとも思っていなかったようだ。私の幸せを願い良縁に恵まれればと考えていたので、ヘッセン侯爵家との縁談であれば寧ろ願ったりかなったりだったらしい。


三年で子が出来なければ離縁というのも、父は「もう少し長くても」「十年でも良いだろう」なんて言っていたけれど、離縁してもリートベルク伯爵領で面倒を見てやると言ってくれた。


意外だったのが兄だ。兄だけ反対したのだ。


「ヴェルナーの為にお前が負担を負う必要は無いだろう!」


と、正論。


私の幼い恋心に気がつかなかったのもあるだろうが、怒る程の妹想いな一面に驚いた。




しかし両家の当主の承認を無事に得た為、約束通り私とヴェルナー様は婚約をした。勿論、形だけの婚約だ。


婚約したと言っても愛を囁き合う様な関係では無い。

お互いの邸に会いに行くことも無いし、デートに出掛けることも無い。手紙のやり取りもないし、花が贈られてくることも無い。

ヴェルナー様が以前どうしたら良いかと私に相談しに来ていた時に沢山のアドバイスをしたものだが、私にはそれを何一つしてはこない。


両家は昔からの付き合いがあり仲が良いこともあって、結婚の日取りや式場等はトントン拍子に決まっていった。結婚は来年の春に決まった。驚く程意見が割れることが無かった。ヘッセン侯爵夫人が居ないのもあってか、侯爵家としては嫁を受け入れる側なのに条件提示が殆ど無く基本リートベルク伯爵家におまかせ状態だった。


ヴェルナー様は士官学校を修了すると直ぐに軍部に入り、忙しい日々を送っていた。新人としての訓練を受けつつ、上官の補佐に付いて仕事を覚えなければならない。ヴェルナー様はヘッセン侯爵と同じ参謀の役に就いた。士官学校での成績も良く、侯爵に似た頭の切れの良さを評価されたのだ。

兄は中隊の伝令の補佐に就いた。いずれ隊を率いる立場となるので、隊全体を広く見通し動かす力を養う為だそうだ。



慌ただしい夏はあっという間に過ぎ、また社交シーズンが始まった。


結婚相手を探す為の社交は出る必要が無くなったが、上位貴族からお誘いを受けた夜会やお茶会、それに大きな規模の舞踏会には参加しなければならなかった。


若い令嬢の少ない茶会は、ヴェルナー様と婚約したことを興味本位であれこれ探られた。まあ、呪われた家と呼ばれているところと婚約をしたのだ。それも、前婚約者が亡くなってまだ半年程しか経っていない。


私が婚約を押し切ったと知れたら、私が前婚約者を死に追いやったのではと噂が立つだろうとヘッセン侯爵が懸念したので、“傷心の息子を想い侯爵が昔から交流のあるリートベルク伯爵家との縁談を推し進めた”という話を流した。なので私は、以前より恋情を抱いていたとは思われないように振る舞った。


あくまで私は妹的存在で、私にとっては尊敬するもう一人の兄であると。


夜会にはヴェルナー様と一緒に参加した。ヴェルナー様は私を心配して殆ど離れることは無かった。それは兄も同じで、ヴェルナー様がどうしても離れなければならない時でも兄が側にいてくれた。社交デビューの日はさっさとお役御免で居なくなっていたのに、こういう時は頼りになるらしい。お陰でグレーテに「物凄く心強い護衛ね」なんて言われた。


私はヴェルナー様と初めて踊ったダンスに密かに緊張した。婚約者らしいことなんて何一つしていないけれど、体を密着させて踊るのはドキドキを抑えられるものでは無かった。ヴェルナー様にとっては義務的なダンスだっただろう。けれど私にとっては隠していた恋情が溢れてしまいそうな程浮わついてしまった。

今は笑顔を失ってしまったヴェルナー様に、ルイーザ嬢はきっと優しく微笑みかけられて踊ったのだろうと思うと、羨ましく、そして寂しく思った。




秋も深まってきた頃、大帝国と連合国との国境付近への軍の派遣が突如決まった。


今年は大帝国が連合国へ侵攻したことで、逃れた兵が国境付近で野盗となり近辺の町を荒らしており、警備と治安維持、その後の町の復興支援の為に派遣されることになったのだ。


父も兄も、そしてヴェルナー様も国境付近への派遣が決まり、準備期間も殆ど無く、直ぐの出発となった。


特にヴェルナー様は所属する隊の本隊より先に先行隊として国境へ向かうことになり、見送りをする暇もなく行ってしまった。婚約者としての役目では無かったのだろうかと、果たせなかったことに落胆しつつも、王都を出発された当日にヴェルナー様から初めて手紙が届き、派遣に行く旨とヘッセン侯爵は王都に残るので何かあれば頼るようにと言付けられていた。

正直、手紙の内容は報告の様なものだった。愛の言葉は勿論、「必ず帰る」といった様な決意の様な文言も無かった。


それでも嬉しかった。


私より綺麗な字で書かれた手紙。私宛の手紙。


「元気で」といった体を気遣う文言も無かったけれど、侯爵を頼るようにと書かれていたのは、私を心配してのことだろう。

少しでも私を心配してくれたのが嬉しくて、返事を書けないのが残念だった。


ヴェルナー様が王都を発ってから数日して父と兄も発つ日が来た。

父に、「刺繍入りのハンカチは?」と言われた。そしてはっとする。前回の出征の時、「次の出征までに準備しておく」と私が言ったのを思い出した。そんなこと、すっかり忘れていた。

言葉を失くして冷や汗を浮かべる私を見て父は悟ったようで、分かりやすく落胆した。

出発する為に馬に跨がった父は、「嫁に行く前に作ってくれたら嬉しいな……」と言った。密かにそんなに楽しみにしていてくれたのかと思うと嬉しいのに申し訳なくて、直ぐ作り始めようと決意した。





冬になり年が開けて直ぐ、国境付近が平定したと発表がなされた。今回の派遣は第三王子が大将として全軍を率いていたこともあり、その功績を称えるパーティーが開かれることになった。王子は不在だが野盗に荒らされた国境付近の町や村の復興の為に貴族からの献金を募る目的で催されるのだ。


私もリートベルク伯爵家の名代として参加する母と共にパーティーに参加をした。


軍人の家系の多くは我が伯爵家と同じく女性が参加していたり、引退した元軍人が参加している家もあった。


女性達はそれぞれで固まり話を交わし、元軍人は懐かしみながら称え合い、その他の者達は政治や商売の話をしていた。

いつもの社交場とはまた違い、役割のようなものがはっきりと分かれているようで、私を含め連れてこられた若い令嬢達はどこか所在無い感じだった。


同じように連れてこられていたグレーテと広間の壁に寄って時が過ぎていくのを待っていた。


「新婚生活はどう?」


「長く会えなかった分、とっても甘やかしてくるわ」


照れながらも嬉しそうに話すグレーテに笑みが溢れてしまう。


グレーテの婚約者は長く辺境伯軍に出向していたが、春に王都に戻ってきて秋に結婚式を挙げたのだ。今回の派遣には帯同せず、王都警備に回っているという。


グレーテの婚約者、もとい、旦那様は婿養子であり、グレーテはお父上と共に今日はパーティーに参加していた。実はこのお父上が凄い方で、陸軍大佐なのである。貴族位としては伯爵ではあるが、軍人としての実力が高いのだ。少将以上は王族関係や公爵等の高位の貴族位の者が任命される。そういう意味では大佐は最高階級とも言えるのだ。

グレーテのお父上は私の母の兄、つまり私の伯父である。


「デリアも春になれば結婚ね。ドレス姿が楽しみだわ」


「期待に応えられるかしら」


「せっかくの晴れ姿よ?もっと自信を持って」


「隣に立つのは美貌のヴェルナー様よ?」


「……大丈夫。デリアも十分可愛いわ」


「少し間があったわよ」


結婚の提案をしたのは私だ。それでも結婚が近づくと不安になるものだ。


本当にこれで良かったのかと。


私が押し切った結婚だ。ヴェルナー様は流されて受け入れてくれただけ。


婚約期間が一年と時間があるのが余計な考えを起こしてしまう原因かもしれない。半年にすれば良かっただろうか。でも半年にしていたらヴェルナー様はちょうど国境付近に派遣任務中であり、結局式を挙げられなかっただろう。


(……春までに帰ってくるのかな?)


国境付近が平定してもまだ復興支援がある。未だに帰ってくる日程は決まっていない。


(帰ってきて、やっぱり結婚はしないって言われたりしないだろうか)


置かれている状況から離れることで考えが改められてしまうかもしれない。


不安ばかりが募る。



「グレーテ、ちょっと」


突然伯父様がグレーテを呼んだ。結構離れている場所から声を掛けられたのだが、この方の声はとてもよく通る声なので周辺の方々がつられてこちらを見てきて視線が一斉に集まった。


「……大きい声で呼ばないでよ」


私にだけ聞こえる小声でグレーテがぼやくので、思わずくすりと笑ってしまった。


「ちょっと行ってくるわ」


「ええ」


グレーテを見送って一人壁際で溜め息をつく。


グレーテは結婚をしたので夫人としての社交も増えたようだ。大帝国の侵攻があった際には今回の派遣よりも多くの軍人が出征することになる。そうすれば家の代表として夫人が様々な役割をこなしていく。経験をさせ顔を覚えて貰う為に伯父様は今回のパーティーにグレーテを連れてきたのだろう。

それはグレーテだけでなく、もちろん私もだ。まだ婚約者という立場ではあるが、春には結婚をするのだ。特にヘッセン侯爵もヴェルナー様も軍人であり、そして侯爵夫人は居ない為、自然と私が担うことが多くなるだろう。現在は必ず出席を求められる場だけは侯爵領に居る前侯爵夫妻が担っているらしい。領地管理も前侯爵夫妻が行ってくれていると以前聞いた。


それで母が嫁ぐ前に教えられることは全て教えるという思いで今回のパーティーに連れてこられたのだ。


結婚の準備は着々と進んでいる。

なのに、当人同士にはそんな雰囲気は無いのだ。



その時、トンと誰かが私にぶつかった。そんなに勢いよくぶつかった訳では無いので痛くは無かったけれど、胸元が濡れる感触があった。


「あらっ、ごめんなさい!」


謝ってきた方を見ると手にグラスを持っていた。色は着いていないのでおそらく水だろう。


「不注意だったわ。濡らしてしまいましたね。申し訳ありませんわ」


「いえ。水ですし、大した量でもありませんから。拭けば問題ありませんのでお気になさらず」


確かこの方は侯爵令嬢で、私より年上だった筈。責め立てることは出来ないし、穏便にしたい気持ちが強く、笑顔で返した。


心では、普通壁際に居る私にぶつかるかしら?なんて疑問も浮かんでいたけれど、濡れたドレスを拭く為に休憩室へと向かった。

ヴェルナー様の婚約者となってから、念の為ハンカチは二枚持ってきていた。ルイーザ嬢がそうしていたように。今まで有難いことにそのハンカチが使われることが無かったので、初めて役立つことになった。


休憩室に入って濡れたところをハンカチで押さえて水気を吸った。一応鏡で確認して、他におかしなところが無いか見た。特に問題なくホッとしたところに、冷たいものが頭から垂れ流れてきた。


(え……)


鏡に映る私は、頭から水を滴らせていた。水が顔を伝い、首、鎖骨へと流れ、さっき拭いたばかりのドレスが再び濡れた。


「あらぁ、水なら拭けば問題ないのですよねぇ?」


「リートベルク伯爵令嬢はお優しいのねぇ」


嫌みと共にクスクスと笑う声が後ろからした。鏡越しに後ろを覗くと、さっき私にぶつかってきた侯爵令嬢とは別の令嬢が居た。


心臓がドクドクと鳴る。体が震えそうだった。


けれど、こんなことは覚悟をしていた筈なのだ。いきなりで驚いただけだと自分に言い聞かせて振り返った。


「……大した量で無ければ問題ありませんが、さすがに多いかと」


「大した量では無くてよ?そういった感覚は人其々ですものねぇ」


掛ける側と掛けられる側では感覚の違いがあるようだ。いやいや、そもそも人に掛けるなと言いたいところだけれど、ぐっと堪える。


「ルイーザ嬢にも同じ様に水を掛けていらっしゃいましたね」


ルイーザ嬢が嫌がらせをされているところに偶然居合わせ聞いてしまった時に聞こえてきた令嬢の声と、この令嬢二人は声がそっくりだった。


「何のことかしら」


令嬢はニコリと笑顔を返す。ああ、黒だな、と思った。


「私、ルイーザ嬢の様に優しくありませんので、今日のことはヘッセン侯爵に全てご報告致します」


「なっ……!」


「伯爵令嬢の分際で生意気なっ!」


この二人は公爵令嬢で私より身分も年齢も高い。生意気だと思うのも仕方がない。


「侯爵様からきちんと報告するよう言われておりますの」


確かに二人は私より家格が高い。しかし所詮令嬢だ。二人の家は軍関係では無く文官で、軍部内の序列は関係無い。しかし政治面にも軍部の影響力は強く、特に参謀職のヘッセン侯爵は強い発言権を持っている。そのヘッセン侯爵からの命なのだから、この二人の令嬢と天秤に掛けるまでもない。この令嬢の家が軍人で公爵位を笠に少将以上の階級に就いていたらまた厄介だったかもしれないが。


公爵令嬢二人は苦々しい表情を浮かべながらもそれ以上は何も言うこと無く休憩室を出て行った。


私はフウッと息を吐き、再び水で濡れたところを拭いた。その拭く手が微かに震えていた。


嫌がらせは覚悟をしていた、筈だった。けれど実際経験すると精神的ダメージはかなりあった。ルイーザ嬢はこれを何度も経験し、しかもヴェルナー様に言うこと無く一人で抱え受け止めていた。相当な精神力ではないだろうか。私なんて、心臓が落ち着く気配がしないくらいに動揺している。これでは嫌がらせを受け続けいつかは耐えきれなくなってもおかしくないのではないかと思えた。


何故ルイーザ嬢がヴェルナー様が苦しむだろうと分かっていて死を選んだのか分からなかったけれど、その選択をしたとしてもおかしくないことなのだと、少し思った。




数日後、ヘッセン侯爵家を訪れパーティーで嫌がらせを受けたことを報告した。


「成る程、公爵令嬢か……」


ヘッセン侯爵は私の話を聞きながら眉をぴくりと動かしつつ、最後まで黙って聞いてくれた。


「最初に私に水を掛けた侯爵令嬢はおそらく共犯です。偶然を装っていましたが状況からして有り得ません」


「ふむ、三人か。我が息子はなかなかモテるらしい」


「何を今更仰いますか」


くすりと笑ってしまった。

ヘッセン侯爵もニコリと笑みを返してくれた。


「嫌な思いをさせてしまったね。申し訳ない」


「いえ。侯爵様の名に助けていただきました」


「いくらでも名を使ってくれ。それにしても、実力が伴わない名ばかりの高位高官には困ったな」


はっきり言っちゃってますね、侯爵様。普段から苦労が絶えないのかもしれない……?


「ヘッセン侯爵家の名程の、他を圧倒する力が我が家にもあれば良かったのですが」


「おや、リートベルク伯爵の本当の力を知らないか?」


「本当の力、ですか?」


「中佐が一人引退する予定でね、空いた席にはリートベルク伯爵を推す人が多いのだよ。その実力は既に認められていたが席がなかなか空かなくてね」


「そうなのですか!?」


父がそんなに凄いのだとは知らなかった。

と言うか、まだ未発表の軍部内情報をさらりと聞いてしまったのだけど、良かったのだろうか。


「今回の派遣でも伯爵の率いている隊は野盗排除と治安回復が早く、隣接する隊に応援を割いたくらいだ。その件もあり第三王子からの推薦も得られるだろうから、まあ昇任は固いだろう」


「そうでしたか」


「君はヴェルナーと我が侯爵家を高評価してくれるが、君の方が素晴らしい価値を持っているのだぞ」


「その様なことは……!」


「君には縁談話も多く来ていた筈だ」


「いえいえっ!聞いたこともありません!縁談話どころか、夜会に行っても殿方からお声を掛けて頂く機会も少なくて……」


「ははっ、そうだろうな。軍部の人間であればリートベルク伯爵令嬢にそう容易く声を掛けられないだろう。伯爵の隊は特に訓練が厳しいとの評判だし、大佐の娘がピッタリと君に付き添っていたのだろうから。軍人であれば先ずは伯爵に許可を貰わなければ睨まれると分かっているからな。夜会で君に声を掛けて来たのは軍部事情に詳しくない怖いもの知らずの子息だろうな」


私が夜会でモテなかったのは、まさかの父のせい!?


「……父に伴って貰い夜会に参加したことはありませんよ?」


「アヒムが伴っていただろう?あいつも父親に似て剣術も体術も腕前が素晴らしいからな」


……父だけでなく、兄のせいでもあったようだ。


いや、知らず知らずに守って貰っていたのだ。感謝すべきなのだろう。


予想外にも侯爵から我が家の評価を聞き、父を見直した。私の刺繍したハンカチを欲しがる人と同一人物なのかと思うと不思議な気分ではあったけれど。


兄も私とヴェルナー様との結婚を反対したのが意外だったが、妹想いなのは私が気がつかなかっただけで昔からだったのかもしれない。粗野なせいで分かりづらかっただけなのだろう。


「とりあえず、伯爵の昇任話はまだ口外しないように頼むな」


「はい」


「あともう一つ、特別に軍部情報を」


私なんかが聞いてしまって宜しいのでしょうか……。


リートベルク家では父が母や兄、会食に訪れた軍部関係者と会話しているのを聞いて情報を得ていたが、ヘッセン侯爵は私に直接教えてくれる。まだ婚約者という立場でしかないのに良いのだろうか。


「派遣の終了が決まったので来月戻ってくる。君の父上も兄も、そしてヴェルナーも」


急に視界が明るくなった感覚がした。驚きで目を見開き光を多く取り込んだからかもしれない。


「……本当ですか」


「嘘は言わないよ」


(帰ってくる……?ヴェルナー様が、帰ってくる……!)


足の上に重ねていた手が震えている。自分でも信じられない位に喜んでいるようだ。


会いたい。昔の様に笑い掛けてくれないと分かっていても、会いたいのだ。

お見送りも出来なかった名ばかりの婚約者であろうと、会えなかった間は寂しかったし心配だった。この数ヶ月間よりも長く会えなかったことは昔にもあった筈なのに、肩書きを手に入れたことで欲張りになってしまったのだろうか。


それとも嫌がらせを受けたことが思った以上のダメージだったのかもしれない。ヴェルナー様に「嫌がらせには負けはしません」なんて啖呵を切ったのに、嫌がらせを受けて傷ついて不安になって、結局慰めて貰いたいと頼ろうとしている。ヴェルナー様に何かをして貰いたい訳じゃない。ただ、一目会うことで安心したいのだ。


「ただね、ヴェルナーは怪我をしたらしい」


「え……」


怪我……?

ヘッセン侯爵の言葉が喜んでいた私を一気に不安にさせた。



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