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16.忘れてはならない罪

一年後────



大人でも膝を抱えれば入れる程の大きな桶に水を張り、洗濯板で衣服をゴシゴシと洗う。春になり水の冷たさは緩和された。冬の間は手指の感覚が麻痺し、あちこちがひび割れ痛かった。今もひび割れは治らない。貴族の女性らしく美しく手入れされていた手はすっかりと変わり、赤く腫れぼったいかさついている手になった。


その手で子ども用の服を洗う。それもこんもり山盛りの量だ。中にはおねしょやお漏らしをしてしまう子も居て、念入りに洗う。

やっと終わって立ち上がる時、腰が固まってしまってゆっくりとしか動けない。


(あー、腰が痛い)


何とも情けないが、一応まだ二十二歳で若い方だ。


洗った物を今度は水気を飛ばしてから干していく。今日は程好い風があり、空気も春めいて暖かいのでよく乾くだろう。


やっと洗濯が終わって院長に報告する。今度は買い出しの為に買い物籠とお財布を受け取る。

出掛けようとしたところで数名の子ども達が駆け寄って来た。


「デリア!今日は何の本を読んでくれるの!?」


「何が良いかしら。昨日は格好良い騎士の物語だったから、今日は素敵なお姫様が出てくる物語なんてどう?」


「お姫様がいい!」


「えー!僕は動物の出てくる童話がいい」


「それも素敵ね。お昼寝の前迄に決めておいて」


果たして喧嘩せずに決められるのかは分からないが、皆で意見を言い合うのも大事なことだ。子ども達に「行ってきます」と言って出掛けた。



私は今、孤児院でお世話になっている。


一年前、ヘッセン侯爵家を出た私はグレーテを頼り、グレーテの伯爵領にあるこの孤児院で働かせて欲しいと頼んだ。グレーテには反対され、伯爵領の領館に身を寄せられるようにすると言ってくれたが、それでは直ぐに見つかってしまうと思い、無理を言って孤児院を紹介して貰った。


以前グレーテが話してくれた孤児院。親を亡くした子達が沢山居る。反対に子を亡くした私には、そこしか思いつかなかった。


グレーテは口を閉ざしてくれているので、この一年ここに誰も訪ねては来なかった。ヘッセン侯爵家の者も、リートベルク伯爵家の者も、そしてシュッセル伯爵家の者も。


平和な日々だった。



一年続いた戦争は、昨年の夏に終わった。王都から離れ、国境からも離れたこの伯爵領の田舎の孤児院までは、戦争の詳しい情報は届かない。


伯爵家も軍に多額の援助をした為、財政が少し厳しい様で、一年間との期限付きで増税が領民に課せられた。でも伯爵家の増税率は低い方らしく、隣の領地はもっと増税率が高い為にとても払えないと移住してくる人がちらほら居た。


悲しいことだが育てられないからと子を捨てる家もある。戦争で親が出征し亡くした子もいる。戦争が起きると孤児院には子が増えるのだ。


グレーテは私の居所を隠す為、手紙を送ってくることも無い。グレーテは毎年夏に領地の孤児院の視察に行っているが、幾つかある孤児院の中でも行くのはもっと中心街に近い孤児院らしい。


私はここで、穏やかに、そして平和な日々を送っていた。


クリスティーネを亡くした悲しみはそうそう消えるものでは無いが、毎日忙しく子ども達と過ごしていると、悲しんでいる暇が少なく助かっている。それでも女の子を見ると、ふと、クリスティーネがあのまま大きくなったら……と思うこともある。


お花を見て綺麗だと言ったかもしれない。

リボンのついた服を可愛いと言ったかもしれない。

美味しいお菓子を幸せそうに食べたかもしれない。

嫌いな食べ物を泣きそうな顔をして、でも我慢して頑張って一口でも食べたかもしれない。

お姫様が出てくる物語の絵本を読んでとせがんできたかもしれない。


そんな考えても実現する筈もない空想をしては虚しさや寂しさ、そして悲しみが心を支配してしまうのだ。



はあ、と溜め息をつく。


また意識が引っ張られてしまっていた。仕事があるのだ。買い物に行かなければ。


春はあちこちでお祭りが行われる。この田舎の小さな町でもお祭りがあり、孤児院でもバザーをし、運営費を多少稼いでいる。孤児院は領主から運営費の援助を受けているが、それだけで全ては賄えない。町民から善意での援助や支援を受けやっと運営が成り立っている。


沢山収穫出来たからと野菜や果物を持ってきてくれたり、売れ残りのパンや、肉や加工品の切れ端だったり売れない半端なものをくれたりする。

それらを工夫して調理し、温かく美味しいご飯になる。子ども達皆と賑やかに食べる食卓は、心がほんのりと火が灯ったような感覚になる。


侯爵家では一人で食事をすることが多かった。クリスティーネがもっと大きくなれば一緒に食べられたかもしれないけれど。

食事は侯爵家の料理人の方がずっと上手いし美味しいのに、こっちの方が心が満たされる様なのだ。


そして今日はお祭りのバザーに出す物を作る為の材料を買いに来た。女の子達にはお裁縫や刺繍を教えているので、様々な布地や糸を選ぶ。手芸品店の店主は気の優しい方で、「バザーを楽しみにしている」と言って糸をサービスしてくれた。


男の子達は家具商店から半端のラタンや山葡萄のひご等を貰い、籠を作る。いくつかもう仕上がっているのだが、これがまた上手いのだ。バザーでも人気の商品で、今日私が使っている買い物籠もお手製の物。器用な子の幾人かは孤児院を出てから商店で雇って貰っているのだとか。


買い物は無事に済んだので孤児院に向かって歩き出す。様々な人が声を掛けてくれる。私が一年前に突然この町にやって来たのに、優しく受け入れてくれた。移民が居るくらいだから、慣れているのかもしれない。


「デリアさん!」


名前を呼ばれ振り向くと、花屋の息子が手を振ってくれていた。


「お花、持っていきませんか?」


この方はたまにお花をくれるので、今日も頂けるのならとお店を訪れた。


「短かくて花束に出来ないのが数本あって。是非小さめの花瓶にでも差してあげてください」


そう言って差し出してきた花を見て、はっとしてしまった。


「アルストロメリアって言って、この黄色は"希望"という意味があるんですよ。子ども達の未来に希望があることを願って飾ってください」


ラッパ状に花を開き、花びらの先を軽くカールさせている。少し細長い斑点の様な模様が目を引く花。


「勿論、俺はデリアさんの未来にも希望があることを願っていますから」


希望……?

私の未来に希望は……無くてもいいのだ。


「ありがとうございます。子ども達も喜びます」


笑顔で答えると花を受け取って、頭を下げて店を後にした。



孤児院に着くと女の子が貰った花を喜び、花瓶に生けてくれた。

そして皆と約束していた本を読んであげた。結局お姫様の本になったらしい。でも明日は動物の出てくる童話にすると約束をしたそうだ。

そして幼い子はお昼寝をし、大きな子はバザーの作品作りを一緒にした。女の子に刺繍やレース編みを教えてあげるのだ。私もそんなに上手くはないけれど、一緒になって考えながらやるのも楽しい。


そんな風にして今日も一日が過ぎていく。



昼間はやることが充実していて忙しいけれど、夜になると寂しくなる。


孤児院の部屋を借りている。一人部屋でとても狭い。ベッドと机と椅子、それにクローゼットが付いているだけ。荷物なんて殆ど無い。貴族の着るドレスはここでは必要無いから何も持って来なかった。宝飾品も持って来なかった。ヴェルナー様に貰った物も、置いてきた。


持ってきた物は、絵葉書と押し花だった。

軽くて嵩張らない思い出だ。


絵葉書は侯爵領へ行った時に買ったものだ。離縁した時の思い出の品として……と思っていた物が、本当にそうなってしまった。


押し花は結婚記念日に贈られた花束で作った物。スターチスとアルストロメリアだ。三年前に貰ったスターチスはもうすっかりドライフラワーのようになっている。二年前のアルストロメリアはまだ赤色だと分かる程度に色が残っている。


今日花屋でアルストロメリアを差し出された時、動揺してしまった。


(黄色は、"希望"なんだ……)


思い出したくなかったけれど、思い出してしまった。もう私には関係の無い結婚記念日。花束を貰った時は嬉しかった。そして浮かれていた。たとえ愛が無くとも、少しでも私のことを考えプレゼントを選んでくれたと思うだけで充分幸せだった。


夜、この部屋で灯りをつける程のお金の余裕は無い為、窓から差し込む月明かりで押し花を眺める。


愛を欲していたあの頃。辛く思う時もあったし、苦しく思う時もあった。けれど、今思えばずっと幸せだった様に思う。ヴェルナー様と共に暮らし、クリスティーネが生まれて、使用人達にも良くして貰った。


今、孤児院で働くことも幸せだと思うけれど、失った悲しみは消えることは無いのだ。ずっと悲しみがこびりついて取れそうに無い。簡単に洗濯出来たら良いのに。でも、洗い流して忘れることもしたくはないと思う。


これは私の罪だ。

クリスティーネを守れなかった罪。

一生忘れてはならない。


今日も眠れない長い夜を、絵葉書と押し花を眺めて過ごす。そしてきっと明日も同じなんだろう。




それから数日後、明日がお祭りの日ということで、皆で孤児院の飾りつけをしていた。

花屋から少し枯れたり花付きが多すぎたりして切り落とした花を沢山貰い、吸水させた天然スポンジに差していった。

毎年そうしているそうで、子ども達は慣れた手つきで次々と完成させていく。でも私はなかなか出来なくて、差したつもりがポロリと落ちてしまったり、子ども達に色合いのセンスが悪いとやり直しを命じられたりしてしまった。


いつまで経っても終わらない私は、子ども達にニヤニヤと笑われながらもアドバイスを貰いながら飾りつけを頑張っていた。


「デリア!」


何かと集中していた手を止め顔を上げると、大きい女の子三人に押し出されるように花屋の息子が立っていた。


「ほらぁ、早く!」


「男らしく頑張って!」


「うるさいなあっ」


私の名を呼んだのは女の子なのに、グイグイと前に出されているのは花屋の息子だ。女の子達に囃し立てられてでもいるのか、照れている様子。何だか分からずパチパチと瞬きしながらそれを眺めていたら、花屋の息子がゴホンと咳払いを一つした。


「あのっ、デリアさん!良かったら明日のお祭り、一時間だけ一緒に回りませんか!?」


「一緒に……ですか?でも私はバザーを見ていないと……」


「先程院長に許可を貰いました!休憩時間として一時間好きに回って良いと!」


既に手回し済みらしい。子ども達も見ているし何と答えたものかと困惑していると、孤児院で一番おませな女の子が「はいはい!皆向こう行くよー!後はお二人で~」なんて言って皆を連れて行ってしまった。こういう時の団結力って何なのかしら。


そして花屋の息子と二人残されてしまった。


「あ……あの、突然お誘いして、驚かせてしまってすみません」


「いえ……」


まあ、驚いてはいない。好意を誰かに持って貰ったのなんて初めてなので、戸惑いはあるけれど。


「もっと貴女のことを知りたいんです。なので、良ければ明日俺に付き合って貰えると嬉しいです」


真っ直ぐに私を見て言う。「知りたい」だなんて……


「……私は、何も貴方に教えられません」


「あ、やっ……その、一年前に突然この町に一人でやって来たのは何か事情があるのだろうとは理解しています。それを探ろうとか、聞き出そうとかは思っていません。気にはなるけれど、今はそういったことではなくて、どんな食べ物が好きかとか、何色が好きかとか、何の花が好きかとか、そういうことです!」


慌てながらも一生懸命になって伝えてくれる。良い人なのだろう。


「沢山屋台が出ますし、お薦めの店を紹介しますよ!あまり誘いを重く捉えず、気軽に祭りを一緒に楽しむ位の気持ちで……どうでしょうか?」


断られたく無いのか下手に出ている様子に思わずくすりと笑ってしまった。


「分かりました。美味しい屋台料理を楽しみにしています」


「本当ですか!?」


ガッツポーズしながら「やったー!」と言って、子どものように喜びを溢れさせている。

こんな私とたったの一時間一緒に祭りを回るだけなのに。

小さな町とは言っても年頃の女性はそこそこいるし、私より若い子もいるのに。


むず痒くて変な感じがするのに、心の奥で後ろめたさも感じてしまう。



この町に私が貴族だったと知る者は居ない。どこから来て、前は何をしていて、婚姻歴も勿論誰にも言っていない。


この後ろめたさは何も教えられないからだろうか。それとも、デートなんてして浮かれて自分の罪を忘れるつもりなのかと自戒しているのだろうか。


自分はどうするべきだったのか、自分はどうしたいのか、幾ら考えても答えは分からない。

その日の夜も結局眠れない長い夜を過ごした。




夜が明けお祭りの日がやってきた。

朝から子ども達は落ち着かず、楽しみで仕方がないようだ。


いつもは皆が遊んでいる一番広い部屋にバザーの為に手作りした物を並べ、入り口には昨日私一人苦戦しながら作った花の飾りを並べた。


そして院長お手製のクッキーも並べた。私は料理が苦手なので、院長と孤児院の他の職員が朝から沢山焼いてくれた。貴族だった私はこれまで料理なんてやったことも無かったけれど、皆のご飯を作らなければならず多少は出来るようになったのだが、忙しい孤児院ではゆっくり私に料理の指導をしている時間が無い為、あまり料理の担当になることが無い。だから洗濯とか掃除とか買い出しとか、覚えてしまえば難しくないものばかりだった。


貴族の邸には料理人がいて、こういった菓子も作ってくれていた。たまにお店で買ってきて食べることもあった。けれど平民は菓子も自分で作れる。凄いなぁと本気で感心してしまう。


準備万端で子ども達とソワソワしながら待っていると、外から狼煙が上がる音が聞こえてきて、祭りが始まったのが分かった。バザーオープンの時間だ。門を開けるとお客さんが入ってきた。大きな子達はお客さんの相手をして、お金を受け取り計算をしてお釣りを渡す。生き生きと楽しそうに接客をしている。それを見て私も楽しかった。



お昼頃、花屋の息子がやってきた。

胸元のポケットに花を差していた。少しお洒落している様子に子ども達がニヤつきながらからかっていた。仲が良いなと思う。孤児院の職員は女性ばかりだから、男性と接する機会を得られるのは有難いことだ。私達ではもう抱っこするのが難しくなる年齢の子も、飛び付いてきたまま抱き上げて肩車とかしちゃうのだ。


(私もお父様に肩車して貰ったな……)


大きな体の父に肩車してもらうと、気持ちが良かった。いつもは見上げている人達を見下ろすことが出来たのだ。キラキラと輝くシャンデリアに手が届きそうで嬉しかった。


(お父様……お元気にしているだろうか)


私は父にも母にも兄にも、誰にも何も言わなかった。グレーテにだけしか言わなかった。兄のお嫁さんがいるリートベルク伯爵家を頼ることはしたくなかったのだ。出戻りなんて邪魔でしかないだろう。


それに貴族で居たくなかったのだ。貴族で居たら自然とヘッセン侯爵家やシュッセル伯爵家の話題を耳にしてしまいそうで、避けたかったのだ。


「ヴェルナー様が再婚をした」なんて内容を耳にしたら、耐えられる気がしなかったのだ。



ぼーっと花屋の息子と子ども達が遊んでいるのを見ていたら、花屋の息子がこちらを見て視線が合い、照れくさそうに破顔した。犬の様に尻尾を振っている様子がイメージ出来てしまう。


こんなに素直な人に期待を持たせるようなことをして良いのかと、また後ろめたさを感じてしまう。


それでも約束をしてしまったのだから、院長に一声掛けてから二人で出掛けた。



町はとても賑わっていた。いろんな屋台が出ていて、沢山の人がいる。この町にこんなに人が居たかなと思うくらいだ。


「凄い人ですね」


「近くの町から遊びに来たりしてるからね」


花屋の息子に連れられて、買い食いをした。

ヘッセン侯爵領に行った時に、湖の側の町に遊びに行ったことを思い出した。あの時もいろいろと買って食べた。そして邸の皆にお土産を買ったのだ。


屋台を見て回っていたら、絵葉書の屋台を見つけた。


(こういうのは何処にでもあるのね)


この町の町並みの絵や、近くの川辺の絵、田畑に咲く花、遠くに見える山並み等、いろいろな絵が葉書になっていた。


「欲しいの?」


不意に花屋の息子に聞かれた。


「いえ、綺麗だなって思っただけです。買っても葉書を出す様な人は誰も居ませんし」


昔はヴェルナー様や両親、グレーテにも絵葉書を出したが、もう誰にも出せない。私が何処にいるのか分かってしまう。秘密にしてくれているグレーテにも迷惑が掛かるかもしれないので出せない。


「俺はっ、いつでも欲しいと思っていますから!」


「……同じ町の、それも近くに住んでいるのにですか?」


「そうです!たとえ近くとも、貴女の字が書かれた葉書なら嬉しい」


近くにいても葉書や手紙を貰って嬉しい……?


私もヴェルナー様から手紙を貰った時は嬉しかった。それが事務的な内容でも。愛を囁く様な言葉は一つも無くとも。


いや、全く無かった訳では無い。二年前、出征の日に届いた手紙には、"愛する二人"と書かれていて胸が騒いだのを良く覚えている。たとえクリスティーネのおまけであろうと、私も一緒に家族であると見てくれている様で嬉しかった。少しでも私を思い浮かべてその手紙を書いてくれたのだとしたら、それだけで満たされる思いだった。


花屋の息子もそうなのかもしれない。私の思考の中に登場出来るのなら喜ばしいことだと思うのだろう。


そんな風に想って貰える立場に無いのにと、やっぱり後ろめたい気持ちになってしまう。


返す言葉も出てこず、「行きましょうか」と絵葉書の屋台を離れるよう促した。

町にはお祭りで多くの往来があってとても賑やかで、隣には花屋の息子がいるのに、私は違う人を想っている。


顔を上げて楽しそうに過ごす人々を見る。


ふと、人と人の間に背の高いフードを被った人に目を奪われる。フードから美しい銀髪が見えた。


思わず口を手で覆った。その手が震える。足も震えだしてガクガクしながら後退り、屋台と屋台の隙間に逃げ込んだ。


「あっ……デリアさん!?」


花屋の息子が追い掛けてきて「どうしたんですか?」とか「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。けれど私は返事をする余裕が無かった。


驚く程似ていた。

あの美しい銀髪。


けど銀髪の人なんて他にもいる。少し珍しい髪色ではあるけれど。


でもあの背格好。フード付きの外套を着ていても分かるスラリと高い背に鍛えられているであろうカッチリした肩。そして貴族然とした優雅さと、軍人らしい姿勢の良さ。


この町でそんな人と出会ったことは無かった。


しかし、こんな田舎の町に居る訳が無い。たまたま立ち寄った貴族なだけではないだろうか。ただの旅人の可能性もある。


私がヴェルナー様のことばかり考えてしまうから、全くの別人に幻想を見てしまったのかもしれない。



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