青年と人形 【月夜譚No.214】
〝レトロ〟と言えば聞こえは良いが、要は古臭いということである。テーブルの上に立たせた一体の人形を眺めて、青年は溜め息を吐いた。
一つに纏められた金の髪に花の飾りを挿し、裾にレースのついたピンクのドレスが窓から入った風に揺れる。両手に花束を持ち、その向こうから覗く綺麗な顔立ちは、頬を僅かに染めて微笑んでいた。
状態は良いものだ。よくもまあ、これほどまでに綺麗に残されていたものだと感心してしまう。
しかしながら、やはり時代にはそぐわないのだろう。家の物置から出てきたこの人形を地元のフリーマーケットに出してみたのだが、見事に売れ残ってしまったのだ。
幾らレトロブームとはいえ、人々の考えるそれよりも古臭かったのだろう。一人でぽつんと残された彼女が、少し淋しそうに見えた。
この人形をどうしたものか。青年は人形の頭を軽く指先で小突いて、仕方なさそうに笑みを浮かべた。
暫くは、ここに飾っておいても良いかもしれない。
そんなことを考える青年を、人形はただ見つめていた。